北海道は道庁が病床を把握して調整
医師の世界は都職員で左右できない
同様に保健所の枠を超えた入院調整を行っている北海道は、医師個人の判断では入院を決定せず、必ず道庁が調整するという。道も都と同様、保健所内で入院先を探せない場合に広域の調整を行うが、道内全体のコロナ病床を道庁が正確に把握したうえで、保健所からの届け出に基づき入院先を割り振っている。
陽性と判明した患者を診察した医師のつながりによって入院先が見つかるケースは、これまでに数例あったが、「入院までに道所属の医師である医療参事が間に入って協議しており、道が介在するという形は変わらない」(道医療体制班の担当者)。
もっとも、高齢で持病があるなど本来入院すべきコロナ感染者が入院できず自宅療養を強いられ、死亡するケースは都内だけではない。とはいえ「都内は大規模な医療機関が多く、神奈川、千葉、埼玉と比べ、まだ医療資源に恵まれている」とは、都の幹部も認めるところだ。
医療環境がより厳しい北海道で同庁が強いリーダーシップを取って入院調整を行っているのに対し、なぜ都はそれをできないのか。ある都関係者は「都と保健所の間に入って潤滑剤のような役割を果たすことのできた幹部や職員が、すでに過労で倒れたり、小池知事の反感を買ったりして飛ばされた」と証言する。
都の入院調整本部には大規模災害などで医療を担う「東京DMAT」の医師も入っているが「業務上の軋轢で、いつ引き揚げてもおかしくない」(都関係者)。
もっとも都内では「コロナ患者の受け入れに積極的な大学病院と、そうでない大学病院がある」と、ある保健所関係者は打ち明ける。元厚生労働大臣の塩崎恭久衆議院議員は1月13日付のメールマガジンで、厚労省が塩崎氏に開示した資料を基に、1月7日時点でコロナの重症者を10人以上受け入れている都内の病院が4つしかなく、全国の特定機能病院(高度医療を提供すると厚労省が承認した病院で、ほとんどが大学病院)では4人以下が87病院中62病院と多くを占めたと明らかにした。もちろん、特定機能病院もまた都内に多い。
「都は、東京大学医学部を頂点とした医師の世界にパイプを持っておらず、職員レベルでコロナ病床の確保のために医師を動かすのは難しい」(医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師)。
医師の世界では、かつてより衰えているとはいえ、いまだ関連病院を傘下とした大学医局の威光は根強い。前出の都内医療関係者によると「医局の関連病院からしかコロナ患者を受け入れていないところもある」といい、これも都がコロナ病床数の実態を把握できない要因となっている可能性がある。
もちろん、職員レベルで限界があるなら政治家である都庁トップの出番だが、この人の動きは緊急事態宣言下であっても極めてユニークだ。