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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

4章 歓楽の都市ミルトン編

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23話 おっさんと少女、愛を買うということ~元気もりもりスタミナ炒め~

 娼館からの帰り道。

 いつも以上にラビの口数は少なかった。

 伺うように何度かラビを見たが、視界に入るのは丸くて小さな頭ばかり。

 話しかけても目が合わない。

 ラビは自分の足元を見つめたまま、とぼとぼと歩いている。


「ラ、ラビ……お菓子屋にでも寄って帰ろうか」

「……」


 ラビが俯いたまま首を横に振る。


「ここは大きな街だからきっといろんな種類のお菓子が並んでいるぞ」

「……いらない」

「そ、そうか……」

「……」

「……」


 物で釣るなんて浅はかな作戦が上手くいくわけもない。

 それもわからないほどこの時の俺は焦っていた。

 なんせラビがこんなふうに心を閉ざしてしまったのは初めてだ。


 ……俺に怒っているのは明白だよな。

 娼館の人たちを助けてやらなかった。

 それが原因だろう。

 薄情なことをしてしまった自覚はある。

 幻滅されたのかもしれない。

 もちろん宿に戻ったら理由を話そうとは思っている。

 しかし自分のした判断を俺自身ですら後ろめたく感じているのに。

 どの面を下げて俺は言い訳を並べるつもりなのだろう。


「はぁ……」


 口から零れ落ちたのは重いため息。

 機嫌の取り方がわからない。

 そう感じながら振り返る。

 日が暮れはじめ、赤く染まった道の真ん中でラビは立ち尽くしていた。


 真っ赤な顔。

 引き結んだ唇。

 ワンピースの裾を小さな両手で握りしめている。


「……! ラビ、どうした?」


 驚いて歩み寄る。

 涙を堪えているのだとわかって、目の前に片膝をついた。


「なんだ、どうしたんだ?」


 理由が聞きたいわけではない。

 どうして欲しいのか言って欲しいのだ。

 優しい声で尋ねて頭を撫でる。

 それはしかし逆効果だったようだ。


 ラビはせきを切ったようにボロボロと涙を溢れさせた。

 言葉はなく、代わりにイヤイヤをするように首を振って地団駄を踏む。

 まるで爆発しそうな感情を涙に変えるかのように泣いている。

 それを見て思い知らされた。

 しっかりしていたって、この子はまだほんの子供なのだ。


「ほ、ほら泣かなくていいから。お、落ち着け。な?」

「ううっ……」


 俺のほうが落ち着けという感じだ。

 オロオロしすぎている。

 本格的に泣き出してしまったラビはすがりつくようにして、俺に抱きついてきた。

 首の後ろに回された小さな手。

 コートに染み込んでいく涙。

 温かい子供の温もり。

 押し殺した泣き声。

 俺はひどく混乱しながら抱き上げたラビを必死にあやした。




 結局、ラビを抱いたまま宿まで帰ってきた。

 宿の一階は早めの夕食をとる客でごった返している。

 おなかが満たされればラビも落ち着くかもしれない。

 そう思ったものの食べたくないと言われてしまった。

 仕方ないのでくっつき虫みたいなラビを抱っこしたまま部屋へ向かう。


 ベッドの上にラビを座らせ、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭う。

 ラビは腫れ上がった目で俺を見上げてきた。

 泣いて少し落ち着いたのか、険しい感情はもう宿っていない。


 俺は隣のベッドに腰を下ろし、ラビと向き合った。


「話してもいいか?」

「うん……」


 許可してくれたことにホッとする。

 とはいえ、どこから何を話せばいいのか。

 俺が助太刀を拒んだ理由。

 いったいラビにどう説明するのがいいのだろう。


「あー……その……だな」


 考えがまとまらずに無意味で煮え切らない声が零れ落ちた。


 娼館にラビを近寄らせるのは抵抗がある。

 しかし率直に伝えていいのだろうか。

 娼館という場所の存在する意味や、娼婦という職業。

 子供にそれを聞かせるのは、娼館に連れて行くことと変わらないのではないか?


 欲望にまみれた大人の世界。

 そこには子供に見せたくないような汚いものが山ほどある。


 できればラビには美しいものだけを見せてやりたい。

 大人の世界なんて知らなくていいじゃないか。

 感情をコントロールできず泣いてしまうほど、ラビは子供なのだ。


 だったら娼館の存在はうやむやにし、何か別の理由を作って助太刀をしなかった説明に変えるべきか。

 ……いや。

 都合よくつく嘘もまた、大人の汚れた嫌な部分だ。


「……」


 考えても考えても正解がわからない。

 大人として、保護者としてどう振る舞うかが正しいのか。


 俺とラビの血が繋がっていないから、ある程度は諦めるべきなのか。

 ……いや、だめだ。

 それを言い訳にはしたくない。


『血の繋がりがない』。

 それは俺とラビの間の絆を踏み潰す言葉なのだから。


「……お父さん。……助けてあげたくない人たちがいるの……?」


 突然、ラビの小さな声が静寂を破った。

 思考の迷路にはまり込んでいた俺は、ハッとして顔を上げた。

 また泣きそうな顔になってしまったラビが俺を見つめている。


「い、いや……。そういうわけではない……」

「じゃあどうして助けてあげなかったの……?」

「……」


 問いかけて来る瞳の真っ直ぐさ。

 その純真さの前では誤魔化しなど通用しない。

 はっきりとそう理解した。

 ならばもう俺にできることはひとつ。

 俺は腹をくくって口を開いた。


「今日、俺たちが行ったのは『娼館』と呼ばれる場所だ。聞いたことはあるか?」


 ラビが首を横に振る。

 やはり知らなかったか……。


「娼館というのはだな……あー……なんというかその……男の欲望が金によって……いや、そうじゃない……。そういうことが言いたいのではなく……」

「……?」


 俺は大きく息を吸って吐き出した。

 もう一度だ。


「あのな、ラビ。好きな人ができて、その人と恋人同士になれたとする。愛情があるとお互いに触れあいたくなるものだ。抱きしめるとホッとしたり、幸せな気持ちにもなれる」

「私、お父さんがギュッてしてくれるとうれしい……」


 う、うん!?

 ……それとはちょっと違うが、まあいい。


「それでだ。愛し合う人がいて触れ合えるのが一番幸せな形だ。でもそういう人と巡り会えないこともある。それはすごく寂しい。その寂しさを埋めるために、お金を払って女の人に優しくしてもらうことがある。それが娼館という場所なんだ」

「お金を払って優しくしてもらう……」


 ラビは俺の言葉を繰り返して、考え込むように黙った。


「お父さん、お金で優しくしてもらうのはいけないこと?」

「……いや。その人が抱える寂しさや悲しさが、どのぐらい辛いのか。本当のところはその人にしかわからない。だからいけないことだと決めつけるのは間違っている」

「……寂しいのが悲しいのは私もわかるよ……。お父さんに会う前は……私も寂しかったから……」

「ラビ……」

「あ……! でもいまは寂しくないよ」


 慌てたようにそう付け足してラビがニコッと笑う。

 俺も微笑み返してラビの頭を撫でた。


「ただな……お金で愛を買うのはやはり悲しいことだと俺は思う。だからそういう場所にラビを近づけたくないと考えてしまった」

「それでお手伝いするのを断ったの……?」

「ああ」


 ラビは戸惑ったように眉根を寄せた。

 一生懸命に考えてくれている。


 子供だから大人が導いてやるべきだ。

 そう思って勝手に結論を出してしまった俺が、また間違えたことを今さらになって理解した。

 相談をしようなんて言ったくせに。

 何をやっているのだ俺は……。


「ラビ、色々とすまなかった……」

「私もごめんなさい……。お父さん、私のこと考えてくれていたのにちっともわかってなかった……。で、でもね……。私はみんなを助けてくれるお父さんが好き……」

「……!」

「だから……困ってる人、助けて欲しい……」

「そうか……」


 ラビに背中を押されて心がふわりと軽くなる。

 ラビを守りたい気持ちは今ももちろん変わらない。

 だが、ラビにとって恥ずかしくない振る舞いをする大人でありたい。


 困っている人に背を向けて、ラビだけしか存在しない小さな世界に閉じこもる。

 それをこの子自身が望んでいないのだ。


 もっと外の世界にも目を向けよう。

 大切な者を傷つけず守っていける。

 それにはもっと大きな器が必要なのだ。


「ラビ。明日、ふたりでもう一度、娼館を訪ねようか」


 ラビの表情がパアッと明るくなる。


「うん……!」


 その顔を見れば一目瞭然だった。

 これが正しい選択なのだ。


 そんなことを考えていると――……。

 グルルルル。


「ん?」

「あ……!」


 照れた顔でラビが両手をお腹にあてる。

 どうやらラビの腹の虫が鳴ったようだ。


「夕食がまだだったな。1階に下りていって何か作ってもらえないか聞いてみよう」


 夕食の時間はとうに過ぎているが、パンとスープぐらいなら出してもらえるかもしれない。


 ラビを連れて食堂へ降りていく。

 女将はちょうどテーブルを拭いているところだった。

 この宿の女将は背中の曲がりはじめたお団子頭の婆さんだ。


「ああ。うちは時間が過ぎた人の食事は、勝手にやってもらうことになってるよ。食材はそこの棚の中。肉はそこ。使ったものはあとで自己申告。宿代に上乗せするからね」


 テキパキと出される指示に圧倒される。

 女将は雑巾をバケツにホイッと投げ入れて食堂を出て行った。

 宿の中には台所や道具を客に貸し出してくれるところもある。

 さすがに食材を自己申告で使わせてくれる宿は初めてだったが。


 カウンターをくぐって台所側へ入る。

 教えてもらった棚を覗いてみると……。


「丸ニンジンと化け物ニラ。ツクツク鳥の卵。それに東洋ニンニクもあるな」


 今度は肉がしまわれているほうの箱を開ける。

 塊氷とともに細切れのオーク肉が入っていた。

 頭の中に浮かんだのは元気が湧いてくる肉料理。

 スタミナ炒めだ。


 ボリューム満点だからラビのおなかも満たしてくれるだろう。

 そうと決まったらさっそく準備にとりかかる。

 袖をまくり上げ、しっかりと手を洗う。

 肉は作業台の上に出して、常温に戻す。

 その間に野菜を洗って切ってしまうつもりだ。


「私も手伝う……」

「お、そうか。それじゃあラビ、人参とニラを洗ってくれるか?」

「うん」


 俺はその間にニンニクをみじん切りにした。


 次はラビの洗ってくれた野菜を切っていく。

 皮むきをした人参は千切りに。

 ニラは3センチほどの長さで切り分ける。


 オーク肉には塩、こしょうで下味をつけ、酒をかるくかけて肉の臭みを取る。


「さあ、炒めるぞ」


 温めたフライパンに油を流し込み、刻んだニンニクを入れて炒めると、香ばしい匂いが台所にふわっと漂った。

 ますます腹が減ってくる。


 ニンニクは強火で炒めるとすぐに焦げてしまう。

 油に匂いがついたところで、いったん小皿に取り出した。

 黄色くなった油の中に今度はオーク肉を入れる。

 ジュッといい音を上がった。

 薄い肉だがオークはしっかり火をとおさなければまずい。


 ピンク色の部分が見当たらなくなったら、人参を入れる。

 ニラは最後にサッと炒める。

 味付けはニンニクが効いているから塩をかけてシンプルに。


 炒めものは時間との勝負だ。

 野菜のシャキッとした歯ごたえをしっかり残して皿へ盛りつける。

 これで完成だ。


「ラビできたぞ」

「わあ……! 私、取り皿とフォーク運ぶ」

「ああ、頼むな」


 トレイの上に、スタミナ炒めをよそった皿とパンを入れたカゴ、スープの椀を乗せる。

 それを手に、食堂のテーブルへ向かった。

 あとをラビがついてくる。


「よし、食べよう」

「うん」


 ふたりで手を合わせて料理に頭を下げる。

 まずはスタミナ炒めから。

 肉と野菜をバランスよくフォークで掬い上げる。

 大きく開けた口にそれを運び込むと……。


「うむ……」


 最初にニラが香る。

 口の中に溢れ出る肉汁。

 食欲を煽るニンニクの辛み。

 しゃきしゃきとした人参の歯ごたえがアクセントになっている。

 塩分が効いているからパンがぱくぱくと進む。


「お父さん、とってもおいしい……!」


 頬袋をふくらませたラビが幸せそうな声を上げた。

 俺はうれしくなって何度も頷き返した。


「腹いっぱい食え。スープのお代わりもまだあるぞ」

「うん」


 ニコニコと笑顔を浮かべたラビが、両手で椀を持ち上げる。


「スープもおいしい……」


 はふはふと息を吐きながら、お椀を置いたラビが頬に手を当てた。

 本当に美味そうに食べてくれる。

 俺の眦も自然と下がった。


 温かい食卓をラビと囲めるよろこび。

 それを改めて感じていると、急に階段のほうが騒がしくなってきた。


「なあなあ、なに作ってるんだ?」

「すげえ美味そうな匂いが上の廊下まで届いてたぞ」


 そう言ってわらわらと宿の客たちが食堂へ入ってきた。

 いっきに賑やかになる。

 彼らは鼻をすんすんと鳴らしながら、俺たちの皿を覗き込んだ。

 今にも涎を垂らしそうな表情だ。


「あー……もしよかったら、あんたたちも食べるか?」

「……!! いいのか!?」

「やったー!!」


 もう一度、食堂に向かって宿の客たちの分もスタミナ炒めを作った。

 味付けの仕方は同じ。

 ただ人数が多いからキャベツを入れて嵩増ししておいた。


「よし。できたぞ」


 カウンターに並んで台所を覗き込んでいた宿の客たちから歓声が上がる。

 大皿に盛ったスタミナ炒めをどんとテーブルの上に置く。

 フォークを配ると、宿の客たちはいっせいに料理を食べはじめた。


「美味い! 肉に味がしみこんでるな……!」

「野菜の歯ごたえも最高だ!」

「ああ、こんなに美味い野菜炒め初めて食ったな」


 いくらなんでも褒めすぎだ。

 俺は参ったなあと思いながら頭に手をあてた。


「あんたプロの料理人か?」


宿の客の中でも最年長の男が俺に問いかけてくる。


「まさか……。独り者の男がやむにやまれず覚えた素人料理だよ」

「なんだよ男手ひとつで娘を育ててんのかよ。かーっ……! 泣かせる話じゃねえか!」

「おい、誰か酒持ってこい!」

「俺、部屋いってボトル取ってくる!」

「俺も!!」


 数人がバタバタと2階に上がっていく。

 彼らは安い酒の瓶を手にすぐに戻ってきた。


「さあ飲むぞー!」

「美味いつまみに安い酒! いいねえ!」


 いつの間にか大宴会のような状態になってしまった。

 俺は苦笑しながらラビを見た。

 ラビは、はにかみながらも楽しそうにしている。

 ラビが幸せそうなのが一番だ。

 その夜は遅くまで、食堂内の笑い声が絶えなかった。

長いこと更新が止まってしまいすみませんでした……!

やっと色々落ち着いたので再開します。

楽しくてほっこりできる物語を書いていけるよう、これからも頑張ります。

また応援していただけるとうれしいです!

明日も夜更新あるよ( ´∀`)

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
「ひあっ……?」

俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
しかも、花火とは真逆で、めちゃくちゃ性格のいい美少女から、「ずっと好きだった」と告白されてしまった。

って花火さん、なんかボロボロみたいだけど、どうした?

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