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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

9章 ラビの小さな成長編

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75話 おっさん、ケットシーからサインを求められる

 カシマシ魔法商会の建物は、バルザックでかなり栄えている通りにある。

 同じ通り沿いには冒険者ギルドや商人ギルド、街の総合庁舎などが並んでいた。

 ちなみにエイハブの宿がある区画からは、歩いて二十分ほど。

 ひどい土砂降りだから、俺はコートのフードをかぶって、その道を走ってきた。


「それでもかなり濡れたな……」


 カシマシ魔法商会の軒下に立ったまま、俺はずぶ濡れのコートを脱いだ。

 ぞうきんのように絞ると、ビタビタビタと音をたてて水が流れる。

 いつもの背負い袋は宿に置いてきたが、正解だったな。


 フードをかぶっていても少し濡れてしまった髪に手を当て、水滴を払いのける。


「――さて、中に入るか」


 こうやって苦情を伝えにいくなど初めての経験だが、気が重いなどと弱気なことは言ってられない。

 俺は父親として娘の生活を守りたいのだ。

 そのためなら戦える。


 グッと顔を上げ、扉を開く。

 受付カウンターの中には、ぶち模様のケットシーが一匹立っていた。


「いらっしゃいませにゃ!」


 ぴょこんと顔を出したケットシーのもとへ歩み寄り、かわら版編集部の場所を尋ねる。


「かわら版編集部は六階ですにゃ。お約束されてますかにゃ?」

「いや、約束はない」

「どなたにお繋ぎしますにゃ?」

「あー……俺の記事を書いた記者か、編集長か」

「にゃ!?」


 どちらがいいのだろうと迷っていたら、ケットシーの瞳孔が突然開いた。

 ケットシーは首から下げていた眼鏡を慌ててかけると、さらに驚きの声を上げた。


「にゃにゃにゃにゃー!? よく見たら英雄ダグラスさんではにゃいですかっ!?」

「英雄ではないが……ダグラスだ。それで俺の記事のことでちょっと話しがしたくてな」

「わかりましたにゃ! すぐ連絡を入れるから、そのままお待ちくださいにゃ」


 ケットシーは、カウンターの脇に置かれていた魔法便箋を手元に寄せて、サラサラと連絡事項を記入しはじめた。


 ご来社 英雄ダグラス・フォード様

 お約束 なし

 お取次ぎ先 かわら版編集部 担当記者・編集長


 魔法便箋送付用に記入した文章は、対となっている魔法便箋受取り用のほうにリアルタイムで表示される。

 ケットシーの手元に並べられた受取り用便箋のほうに、すぐ返事が来た。


「ちょうど編集部に、担当記者が在席しておりましたニャ! いまお迎えに降りますとのことにゃ」

「いや、俺が訪ねてきたんだ。俺から向かおう」


「六階へは、そちらの魔法階段で上がれますにゃ。――あのぉ」


 説明を終えたところで、なぜかケットシーが自分の尻尾をいじりながら、モジモジしはじめた。


「なんだ?」

「……こんなことお客様に頼むのは失礼ですが……サイン……もらえにゃいでしょうか……?」

「え? サイン?」


 ケットシーは遠慮がちにこくりと頷いた。


「実はうちの倅が英雄ダグラスさんのファンなんですにゃ」

「それは……なんというか……」


 俺は複雑な気持ちで口を引き結んだ。

 自分は英雄などではないと思う。

 ただ子供が憧れているのだと伝えてくる父親に、バサッと否定の言葉を投げつけることができなかった。


「サイン、なんとかお願いできませんかにゃ……」

「ううむ」


 断りたい雰囲気を出したら、ケットシーの耳がぺたんと倒れてしまった。

 くっ……。

 その耳はずるいぞケットシー。

 なんだかものすごく悪いことをしている気になる。


「……サインと言われても、名前を書くだけになってしまうぞ」


 ケットシーの哀れっぽさに呑まれて、そう伝えたら、ものすごい勢いで耳がピンッと上がった。


「それで十分ですにゃ!! こ、これにお願いしますにゃ!!」


 懐にしまっていた手帳とペンを差し出されてしまった。

 さすがにもう断れない。

 俺は戸惑いながらそれらを受け取り、実にぎこちない手つきで自分の名前を記した。


 バランスも悪いし、本当にただ名前を書いただけだ。

 ……こんなものでいいのか?

 しかし俺の躊躇いをよそに、ケットシーは大喜びで飛び跳ねた。


「ありがとうございますにゃ! 本当に本当にありがとうございますにゃ! 息子も大喜びしますにゃ!!」


 俺の下手くそなサインが書かれた用紙を抱きしめるようにして、ケットシーが何度も何度もお礼を伝えてくる。

 本当にうれしそうに、フレームの向こうの猫目を輝かせながら。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

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