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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

4章 歓楽の都市ミルトン編

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22話 おっさん、父としてのあり方を悩む

 男たちが完全に立ち去っていく。

 それを見送ってから、俺は地面に座り込んだままの若者を振り返った。

 若者はビクッとして大きな体を縮ませた。


「大丈夫か?」

「あ、う、うん。だ、大丈夫。痛っ……!」


 どうやら右足を痛めているようだ。

 屈みこんで見てみると赤黒くなって腫れはじめている。


「手を貸そう。遠慮なく掴まれ」

「うん。ありがとう」


 肩を貸し、支えながら助け起こす。

 相当痛むらしく、若者は右足を地面につけなかった。


「病院に行ったほうがいいな。案内してくれるか?」

「オレ、病院、知ってる。けどいいのか?」

「遠慮するな」

「う、うん」


 ラビも連れて若者の案内した近くの町医者へ向かう。

 診察をしてもらった結果、全治2週間、小指の骨折だとわかった。


「足、かわいそう……」


 包帯でぐるぐる巻きになった若者の足を見てラビが呟く。

 若者の痛みをそのまま自分も感じてるかのように辛そうな顔をしていた。


「お父さん、おうちまで送っていってあげる?」

「そうだな」


 若者は杖を渡されていた。

 しかし慣れていないせいで歩き方が心許ない。

 乗り掛かった舟だ。

 見捨てていくのもあんまりだと思い、家まで送ろうと申し出た。


「ありがとう。あんた、いいひとだ」


 若者は素朴な顔に笑顔を浮かべて勢いよくお辞儀をしてきた。

 その拍子に杖がカターンと音を立てて倒れた。


「わ! 杖、倒れた」


 若者が慌てて杖に手を伸ばす。


「私、拾ってあげる……」


 ラビが急いで拾ってやると、若者はラビに対してもペコペコと頭を下げた。

 あんまり生きるのが上手いタイプではなさそうだ。

 その不器用さに親近感がわく。

 とても他人事とは思えなかった。




 そんなわけで若者を家まで送り届けることになったのだが……。


「……」


(……これは予想外だった)


 彼の指示通り道を進み、辿り着いたのは予想外の場所だった。


『歓楽街メイシー』。


 その地区の南門を見上げて、あんぐりと口を開ける。

 まだ日も高い時刻。

 門前にいる見張り役の男たちは暇そうに雑談を交わしている。

 区の入口に大層な門があることにも戸惑ったが、何よりこっちは子供連れだ。


「オレの働いている娼館。門をくぐって少し進んだところにある」

「娼館……!?」

「オレ、娼館の下働き、だから」

「……そうだったんだな」


 しかし困った。


(ラビを連れて娼館へ向かうのはさすがにな……)


 彼を助けてやりたい気持ちは当然あるが……。

 保護者という立場が俺を躊躇わせた。


「……悪いがここまででいいか?」


 見捨てるようで気が引ける。

 しかし明るい時間とはいえ、ラビを歓楽街に連れて行くわけにはいかない。


「う、うん。助かった。ありがとう」


 若者は太い眉を下げて微笑むと、杖を頼りに俺から離れた。

 フラフラとして危なっかしい。


「お父さん……?」


 ラビが戸惑った表情で俺を見上げてきた。

 どうして最後まで助けてあげないのかといいたいのだろう。

 責められているわけではない。

 ただ純粋な目で見上げられると、罪悪感はますます募った。


「送ってあげないの……?」

「う……ううむ……」


 若者は俺たちに向かってお辞儀をすると、ひょこ、ひょこっと歩き出した。

 しかし……。


「あ……!」


 ラビが手を口に当てて叫ぶ。

 数歩も進まないところで、バランスを崩した若者が転倒してしまったのだ。

 さすがに放ってはおけない。

 俺は急いで駆け寄って若者に手を貸した。


 若者を助けながら門番たちのほうを見る。

 彼らは雑談に夢中でまったく気づいていなかった。


「お父さん……。あのね……送ってあげて欲しい……」

「……そうだな」


(ラビをひとりで待たせるのもな……)


 ラビには俺の傍から離れないよう言い聞かせて、結局、娼館まで若者を送り届けることになった。




 若者の働いている娼館は随分立派な佇まいをしていた。

 まるで貴族の邸宅のような館だ。

 敷地も広く、館の裏手には中庭があった。

 真っ白なシーツが何枚も風にはためいている。

 働いている女性たちはまだ休んでいるのか、姿は見えない。

 健全な午後の昼下がりという雰囲気。

 それは俺が持っていたイメージとはあまりにかけ離れていた。


(昼間の娼館はこんなに静かなんだな……)


 こういう場所にはあまり縁のない生活をしてきたが、自分の中に勝手なイメージがあったことを認めざるを得ない。

 変に警戒しすぎたことを少し恥ずかしく感じた。


 とはいえラビがこの空間にいることは、やはりどうしても受け入れがたい。


(できるだけ早くメイシーから出よう……)


 庭の先に娼婦や下働きたちが生活をする屋敷がある。

 若者は屋敷のほうに送り届けた。

 そのまますぐに帰るつもりだったが、事情を聞いたマダムに引き留められてしまった。


「あのチンピラどもをひとりで追っ払ったってのかい!?」

「殴ったりしてないのに。怖がって逃げっていったんだ」


マダムに向かって若者がうれしそうに説明する。


「すごいじゃないかい!」

「う、うん。すごかった。そ、それにこのひと優しい」

「なるほどね。――ねえ、ちょっと物は相談なんだけど、あんたうちで用心棒をしてくれないかい?」

「用心棒……?」


いきなり提案され、思わず聞き返してしまった。


「あのチンピラのリーダーがうちの売れっ子に入れ込んでて、最近、色々と悪さをしてくるんだよ」


マダムが頬に手を当てて、はあっとため息を吐く。

さっきのチンピラたちの姿が俺の脳裏に過った。


(なるほど。そういういきさつだったのか……)


「なになに? 用心棒が見つかったの?」


 俺たちのやり取りを聞いて、いつの間にかマダムの後ろに若い女性たちが集まってきてしまった。

 いっきにその場の雰囲気がかしましくなる。

 何か花のような甘い香りがふわっとした。


(娼婦の女性たちとラビが顔を合わせるのはまずいんじゃないか……)


 まずそう思って焦ったが……。


「わあ……いい匂い……」


 俺の背後から少し顔を出して、ラビがうれしそうに呟いた。

 やはり女の子だからこういう香りが好きなようだ。


 変に慌ててラビを連れ帰るのは女性たちに対して失礼すぎる。

 どう振る舞うのが『親』として正しいのか、俺には正解がわからなかった。


「あら。子連れの用心棒さんなの?」

「やーん、かわいい女の子じゃない。食べちゃいたい!」


 突然、注目されたことにびっくりしたのだろう。

 ラビは大慌てで俺の後ろに隠れてしまった。

 苦笑しながらその頭を撫でた。


 女性たちは店に出るしたくをする前らしく化粧などはしていない。

 ただ薄いサラサラとした寝間着姿だからギクリとした。

 俺はおっさんだ。

 今さらどうこう感じるものもない。

 それに女性たちは薄着だということを全然気にしていなかった。

 ただラビが彼女たちの服装を見てどう思うかだけが心配だ。


「この人がチンピラどもを追っ払ってくれたそうだよ」

「ひとりであいつらを!? すごーい!!」


 女性たちが俺とラビをわらわらと取り囲む。


「おじさんってば、優しそうな見かけによらず頼りになるのね!!」

「よかった! これで安心して働けるじゃない! まああんなチンピラごときにビクついてたわけじゃないけどね!」

「そうよ! あんなヤツら、股間蹴って追い出してやるんだから!」


 ワーワーと華やかな声があがる。

 それだけではなく、あちこちから伸びてきた手にペタペタと筋肉を触られたり。

 腕に絡みつかれたり。

 なんだか大変なことになってきた。

 ラビも撫でくり回されて固まっている。


「おじさん、いつから用心棒になってくれるの?」

「いや……。すまないが、俺は旅をしている身だ。それに子連れでもあるしな」

「えー! 断っちゃうの!?」


 女性たちから一斉に引き留められて参る。

 最後にマダムからも改めて頼まれてしまった。


「5日間だけでもだめかい? 5日経てばあいつらも悪さできなくなるんだよ」


 なぜ5日ということに拘るのか。

 気になったが仕事を受ける気がないのに、突っ込んだ質問をするのも憚られる。


「お給金は弾むよ。うちには女の子たちの産んだ子供たちもたくさんいる。娘さんも一緒に遊ばせておけるよ」


 困っているのはわかる。

 一人なら間違いなく助けていた。

 しかし今は一人ではない。

 ラビの安全を守る保護者なのだ。


「……」


 俺はラビをチラッと見たあと、首を横に振った。


「……本当にすまない。やはり引き受けられない」


 俺が項垂れて謝罪すると……。


「いやいや、こっちこそ無理を言って悪かったね。あんた、そんな気にしないでおくれ! まあチンピラぐらい今までもなんとかしてきたから、平気だよ!」


 マダムはカラッと明るい声でそう笑ってくれたのだった。


 しかしそれで本当によかったのか。

 娼館からの帰り道、ラビが俺の迷いをその純粋な言葉でかき立てた。


「お父さん……あのひとたち、助けてあげないの……?」

「……う、うむ」

「……」


 さっきと同じようにラビが俺をじっと見つめてきた。

 戸惑うような視線。

 どうして助けてあげないのかとラビの目が問いかけている。


 宿に帰ったらラビと話しをしよう。

 そう思いながら俺は小さくため息をついた。

おかげさまで月刊総合ランキング1位になれました。

応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました!


2月の更新頻度については活動報告のほうに書いておきます( ´∀`)

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
「ひあっ……?」

俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
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