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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

4章 歓楽の都市ミルトン編

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21話 おっさんと少女、歓楽の都市ミルトンへ

 アランのパーティーが人員を募集している、か……。

 いったい誰がパーティーを抜けたのだろう。

 それとも5人目のメンバーを探しているのか?

 賢者エドモンドは俺がいるときから、パーティーの人数は最低限がいいとしょっちゅう言っていた。

 数を増やすとはあまり考えられないな。

 仲違いで人が減ったわけではないといいが……。

 そこまで思ったところで、どう考えても余計なお世話だなと苦笑した。


「……お父さん?」

「……!」


 ラビに呼びかけられてハッとなる。


「……すまん。ぼんやりしていた」

「平気……?」

「ああ、心配をかけてすまない。問題ない」

「……ほんと?」


 ラビはまだ心配そうだ。

 そういえば以前もこうやってボーッとして、ラビに気遣われた。

 聡い子だから俺が何かを抱え込んでいると察しているかもしれない。


 俺は節くれだった手でポンポンとラビの頭を撫でた。

 アランたちのことは意識的に頭の中から消した。

 そのとき。


「ねえ、おじさん。勇者たちの情報にいくら出す?」


 突然、横から話しかけられた。

 驚いて顔を上げると、荷台の隅に座った少女がこちらを見ていた。


「なんだって?」

「勇者のこと知りたいんでしょ? あたし、こないだまでバルザックでお針子をしていたから詳しいよ。金額次第では結構レアなネタまで聞かせてあげるけど、どう?」

「……」


 情報を売ってくれるということか……。


「おじさん、あんまお金持ってなさそうだし負けとくよ?」


 少女が笑うと左の頬にえくぼができる。

 彼女は艶やかな長い黒髪を右肩に流しながら、値踏みするように俺を眺めてきた。

 恐らく年齢は17、18。

 やけに大人びた艶やかな化粧をしている。

 堅気ではないとなんとなく察した。


「あんた。相手にしないほうがいいぜ。騙されたくなけりゃな」


 さっきの男たちが呆れ顔で話に入ってきた。


「その女、さっき降りた奴にはミルトンのまじない師だと言って、インチキな品を売りつけてたからな」

「ちょっと! 言いがかりはやめてくんない?」

「言いがかりなもんか。おい、御者。あんただってこいつが汚ねえ商売してんのを聞いてただろ」

「いやー……否定はしませんけどね……。でも巻き込まないで下さいよ。面倒ごとはごめんなんでね」


 御者が前を見たまま言った。


「……ふん。ばっかみたい」


 少女は愛想笑いを消して、俺たちを睨みつけた。

 乗合馬車内の雰囲気が重くなる。


 ラビが不安がって俺のコートを掴んできた。

 大丈夫だというように頷き返す。


 男たちと少女。

 どちらの言っていることが正しいのか。

 その場に居合わせなかった俺が判断をすることはできない。


 俺は忠告をしてくれた男たちにまず礼を言った。

 それから少女のほうを向き直る。


「あんたもすまなかったな」


 俺が謝ると少女は怪訝そうな顔をした。


「……なあに? いい人ぶりたいの?」

「いや、そういうわけではない。今はミルトンの呪い師でも、以前はバルザックのお針子だったのだろうと思っただけだ」

「あのさぁ白々しいよ。お針子が呪い師に転職? 誰がそんな話信じるもんか。種明かしされちまった以上、ダラダラ喋ってる気はないよ」


 少女は忌々しそうに呟くと、ドカッと音をたてて座り直した。

 もうこちらを見ようともしない。

 それ以降、彼女は一言も口を聞かなかった。


 ◇◇◇


 乗合馬車は町や村に寄りながら、数日間かけてミルトンへ辿り着いた。

 到着したのは昼過ぎ。


 ミルトンはアディントン以上の大都市だった。

 とても都会的な雰囲気で、主要な通りはすべて石畳になっている。

 しかし不思議と静かで人気も少ない。

 まるで街ごと眠りについているかのような雰囲気だった。


 普通なら真っ昼間はかなり騒がしいはずだがな……。

 首を傾げつつ、とりあえず宿屋を探す。


 街は中心部が丘になっている。

 高台には栄華を誇る歓楽街メイシーがあり、この街の象徴となっている。

 ルルド川を挟んで右岸は16区と呼ばれる高級住宅街だ。

 左岸の北側は旧市街で現在は市民たちが暮らしている。

 南側にはスラムや墓地、監獄塔などがあるらしい。


 旧市街の繁華街で宿を取ったあと、その足でラビと16区に向かった。

 セオ爺さんが教えてくれたモリス男爵を訪ねるためだ。


『ミルトンに住むちょっとした知り合いなんじゃが、呪術にまつわる品を集めてるコレクターじゃよ。モリス男爵ならいくらでも積むじゃろう。訪ねてみるといい』


 セオ爺さんの言葉を思い出しながら、教えられた住所の屋敷を訪問した。

 しかし残念ながらモリス男爵は留守だった。

 対応した執事の話によると、小旅行に出ていて帰るのは5日後らしい。


 うーむ。

 5日か……。

 移動をしているだけでも日数はかなりかかる。

 そのうえアディントンやフローリアには、数日間、滞在してしまったしな。

 ここにきてまた5日足止めを食うことをラビはどう思うだろう。


 俺は慣れているが、旅を続ける生活は負担も多い。

 早く定住できる街へ辿り着きたいのではないか。


 モリス男爵の邸から引き返す途中でラビの意見を尋ねてみた。


「えっと……5日待つで大丈夫」

「そうか。ラビがいいなら待とう。いわくつきの装飾品を買い取ってくれる人は、モリス男爵以外心当たりがないしな」

「……どうしてもネックレスが売りたいんじゃなくて……お父さんとの旅、楽しいから……。いっぱい時間がかかってもいいの……」

「ラビ……」


 そんなふうに思っていてくれたのか。

 楽しいと言われればやはりうれしいものだ。

 俺は照れくささと喜びを感じながら、ラビの言葉を胸に刻んだ。


 ◇◇◇


 16区から宿屋に戻るため、ルルド川にかかった橋を渡った。

 橋を降りたところから繁華街がはじまる。

 しかしこの辺りに来てもまだ静かだ。

 閉まっている店のほうが圧倒的に多い。

 看板をよく見れば、酒場がやたらと多いのでそれもそうかと納得する。


 歓楽街メイシーだけでなく、この辺りも治安が悪そうだ。

 5日間、夜にラビを連れて出歩くのは避けたほうがいいだろう。


 などと考えながら歩いていると――……。


「――うるせえ! 口答えしてんじゃねえよ!」

「……!」


 突然の聞こえてきた怒声に驚いて振り返る。

 道を行く人々もさすがに足を止めて、声のしたほうを気にしている。

 通りすぎたばかりの道に薄暗い路地があった。

 人々の視線はどうやらその中に注がれているようだ。


「でくの坊の分際で生意気なんだよッ……!」


 今度は怒鳴り声のあとに、ドガッという鈍い音が響いた。

 あれは人の体を殴るか蹴るかした音だ。

 とっさに駆け出しそうになってハッとする。


(俺はいまラビを連れているんだ)


 しかし躊躇っている間にも、人が人を痛めつける嫌な音が響き続けている。

 他の通行人も心配そうな顔をしているが、助けに入る者はいない。


「……ラビ、心配だから様子を見てくるぞ」

「うん。助けてあげて……」

「そうだな。そこの店の影に隠れていろ」


 ラビがこくこくと頷く。

 俺はラビが隠れるのを確認してから、ひとりで路地の中に入った。


 すえたような臭いの立ち込める暗がりの中に数人の若い男がいる。

 派手で高級そうな服を着ているものの、あまり品はよくない。

 金持ちの家の放蕩息子たちだろう。

 彼らがゲラゲラ笑いながら取り囲んでいるのは、大柄な若者だった。

 地面に転がり丸まっていても、図体のでかさが際立つ。


 若者は庇うようにして両手で頭を覆っていた。

 その代り腹や背中が無防備になってしまう。

 そこを何度も容赦なく蹴りつけられていた。


「ほら、とっととあの女を連れてくるって言いやがれ」

「ゲホッ……だめです……。それはできません……。バラ姫さまをお守りするのがぼくの仕事だから……」

「うるっせーんだよ!!」


 ――ドカッ!


「うぐっ……。い、痛い……」


 なにが原因かは知らないが一方的過ぎる。

 俺は慌てて蹴られている若者の前に割って入った。


「おい、その辺にしたらどうだ」


 突然乱入してきた俺に対し、苛立った視線が向けられる。


「あ? なんだよおっさん」


 中心にいた長髪の男がいきなり俺の胸倉を掴んできた。


「部外者は引っ込んでろ。それともあんたもこうなりたいのか」

「部外者なのはわかっている。だがこれ以上続ければ怪我だけでは済まなくなるぞ」

「ああそうかよ。そんな粗大ゴミ、別に死んだって問題ねえんだよ!」


 振り上げられる拳。

 ――パシッ。

 手のひらでそれを受け止める。

 長髪の男は切れ長の瞳を大きく見開いたあと、忌々しげに顔を歪めた。


「てめぇ……」


 男が拳を奪い返そうとするより先に、俺はその手首を捕えた。


「悪いが引き下がってくれないか」

「なッ……。ふ、ふざけるな……! お前もそのゴミもぶっ殺してやる!」


 唾をまき散らして喚きながら、男が拳を取り戻そうと力を込めてくる。

 だが残念ながらびくともしない。

 俺と男では力の差がありすぎるのだ。

 マッスルパワーを使うまでもなかった。


「……く、くそ……。なんだこの馬鹿力は……ッ」


 男の表情にだんだん焦りの色が浮かびだす。

 周りの仲間たちも様子がおかしいのに気づいたようだ。


「……お、おい。カルロス……?」

「どうしたんだ……? はやくそんなやつ殴っちゃえよ」

「……う、うるせえッ!」


 カルロスと呼ばれた長髪の男が怒鳴る。

 仲間たちはビクッと肩を揺らして、一瞬で静かになった。


「もう一度頼む。このまま引き下がってくれ」


 カルロスの額から一滴汗が落ちる。

 この間もまだカルロスは拳を取り戻そうと必死に腕を引っ張っている。

 しかし本人も、もうわかっているはずだ。

 力の差はやはり歴然としていた。


「……いいだろう。だが覚えてろよ。絶対に殺してやるからな……」


 俺が手を離すと、勢い余ったカルロスがヨタッとよろけた。

 慌てて支えようとした仲間を殴りつけながら、カルロスが後退る。

 去っていく直前。

 カルロスは、憎悪に燃える自分の双眸を二本の指でさしてから、俺のほうへ向けてきた。


 この目を忘れるな、というメッセージだろう。

 俺は参ったなあと思いながら頭を掻いた。

次回の更新は確実なのが2月1日です。それまでに1回更新できたらいいな( ´∀`)

修正、ステータスについても2月に入ってからになります……!

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
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