レビュー
自由に組み合わせできるカスタマイズ性が魅力

FX AudioやTOPPINGの小型コンポーネントで構築する「箱庭オーディオ」の世界

「箱庭オーディオ」に注目した理由

オーディオに「箱庭」とか「盆栽」と称されるジャンルがあることをご存知だろうか? 確立された定義はないものの、フルコンポ(幅42cm)やミニコンポ(フルコンポの半分程度)よりさらに小柄で、いうなれば弁当箱サイズの筐体だが、プリアンプやパワーアンプ、DACなどと自由に組み合わせられるオーディオコンポとしての性格を持つ。実際に聴いて楽しめるミニチュアオーディオ、といったところか。

いま、その箱庭オーディオが熱い。いま、といってもいきなり現れたわけではなく、製品カテゴリーとしてはだいぶ以前から存在したが、誰しも自宅滞在時間が長い昨今、インドア指向のうえ場所をとらず価格は手頃、結果(音質やビジュアル)もわかりやすい点が受け、人気が集まっているのだ。

男もすなる箱庭オーディオといふものを...というわけで、筆者も手を出すことに。ただ闇雲に手を出しても仕方ないため、5万円の予算でアコースティックギターを美麗に奏でるミニシステムを構築しよう、しかも見た目が格好いいものを、という線を狙うことにした。

なぜアコースティックギターかというと、最近アンドリュー・ヨークにハマっていることもあるが、ギター1本のためオーケストラのように広大な音場を必要としないうえ、低域不足でもそれなりにこなせるため(箱鳴り感が足りないのはガマンするとして)、小型スピーカーでもそこそこ納得できそうだからだ。

2万円で最小システムを組めた!

最初に選んだのは、スピーカー。箱庭サイズに適合するパッシブとなると選択肢は限られるが、店頭価格約1.1万円のバスレフ型「FOSTEX P802-S」を選んだ。オーディオ機器の予算に占めるスピーカーの比率は5割が妥当といわれるが、今回は幅100×高さ195×奥行120mmというサイズを重視。FOSTEXの「かんすぴ」シリーズには約2万円の「P804-S」もあるが、サイズが幅140×高さ264×奥行き172mmとひと回り大きく、箱庭感にやや乏しくなると判断したからだ。

スピーカーをドライブするアンプには、FX-AUDIOのプリメイン「YD-202J」をチョイス。デジタルアンプIC(YAMAHA YDA138)を2基搭載したデュアルモノ構成で、最大48kHz/16bit対応のUSB DACを搭載、DAPをつなげば再生環境が整うというオールインワン感がある。付属のリモコンで音量調節や入力切り替えできる点もうれしい。そのうえ価格は6千円前後、別途手配が必要な12VのACアダプター込みでも7千円前後とお手頃だ。

FX-AudioのUSB DAC内蔵プリメインアンプ「YD-202J」

FX-AudioのUSB DAC内蔵プリメインアンプ「YD-202J」

つくりは予想以上にしっかり。電源をON/OFFするトグルスイッチや入力を切り替えるボタンに高級感はないにせよ、スピーカー端子はバナナプラグ対応でLINE INはRCAと3.5mmステレオの2系統。ヘッドホンアンプもデュアルモノ構成と、細部にまでこだわりが感じられる。

手持ちのスマートフォン(Xiaomi Redmi Note9S)をUSBケーブルでつなぎ試聴したが、明瞭なチャンネルセパレーションとそこから生まれる音像定位には価格帯以上のクオリティが感じられる。P802-Sの80mmコーン型ウーファーでは、さすがに量感の部分でもの足りなさは否めないが、プレイヤーを除き2万円以下の出費でこれだけの音と思うと、また印象は変わってくる。

FOSTEXのバスレフ型スピーカー「P802-S」で試聴。音源にはAmazon Music HDを利用

FOSTEXのバスレフ型スピーカー「P802-S」で試聴。音源にはAmazon Music HDを利用

予算5万円の範囲でコンポを入れ替える

さて、残りの予算3万円をどう使うか。低域もさることながら、ギターのハーモニクスの伸びと透明感を改善したいと考え、USB DACを別に用意することにした。選んだのはDACチップに192kHz/24bit対応・Burr-Brown PCM1794Aを搭載したFX-Audioの「DAC-SQ5J」、これをYD-202Jに接続するとどうなるか。

Amazon Music HDをソースに試聴したところ、印象は一変。ラルフ・タウナー「マイ・フーリッシュ・ハート」では、YD-202Jに直接つないだとき(48kHz/16bit)はやや痩せた印象だったアコースティックギターの巻弦の音に瑞々しさがくわわり、96kHz/24bitの情報量を実感した。

FX-AudioのUSB DAC「DAC-SQ5J」

FX-AudioのUSB DAC「DAC-SQ5J」

ソースが変われば音も変わることを確認すると、いろいろ試したくなるのが人情というもの。予算5万円を使い切る前に他のコンポを試すべく、FX-Audioを展開するノースフラットジャパンと、やはり箱庭オーディオ系ブランドとして知られる「TOPPING(トッピン)」代理店の伊東屋国際に連絡を取り、いくつかの製品を借りて試すことにした。

まずはFX-Audioから、真空管とオペアンプのハイブリッド型プリアンプ「TUBE-03J+」。ACアダプター別で6千円台と、いわゆる真空管アンプとしては安価...どころか超激安の部類に属すが、実力やいかに。

組み合わせるパワーアンプには、TOPPINGの「PA3」をチョイスした。こちらはデジタルアンプだが、ICには定評あるTDA7498Eを採用し出力は80W×2(4Ω)、バナナプラグ対応のスピーカー端子を採用するなど細部もしっかり。曲線を生かした筐体デザインはシンプルながらまとまりがよく、表面のサンドブラスト加工も細やか、小さいながらも佇まいはHi-Fiオーディオのそれだ。

TOPPINGのパワーアンプ「PA3」

TOPPINGのパワーアンプ「PA3」

この「TUBE-03J+」と「PA3」、そして前掲した「DAC-SQ5J」の組み合わせは、音楽を愉しませてくれるという点では「YD-202J」のときよりインパクトが大きい。目的のアコースティックギターは、ハーモニクスの伸びと艶やかさに要改善の部分を感じるが、開放弦を鳴らしたときの響きと量感も増しており、YD-202J単独と比べれば明らかに全体の音質は向上している。

スピーカーを入れても予算5万円に余裕で収まった

スピーカーを入れても予算5万円に余裕で収まった

プレーヤーやケーブル類は手持ちのものを流用するので算入しないとして、3製品合計・ACアダプター込みで約3万2千円、YD-202JとP802-Sを足すとちょうど5万円。音質の変化にくわえてイジり回す楽しみもあり、投資額に比べての満足度はかなり高い。

真空管アンプを導入してみた

せっかくの機会だからということで、5万円の予算とは別にFX-Audioの「TUBE-P01J(チューニングモデル)」も借り出してみた。プリアンプ段に「6J1」、パワーアンプ段に「6P1」真空管を採用した1チャンネル1真空管のシングル構成という、純A級動作のプリメインアンプだ。幅184mm×奥行き158mm、真空管を含めた高さは最大105mmと箱庭サイズを超えてしまうが、並べてみると十分イケる。

純A級動作の真空管プリメインアンプ「TUBE-P01J(チューニングモデル)」

純A級動作の真空管プリメインアンプ「TUBE-P01J(チューニングモデル)」

TUBE-P01J(チューニングモデル)の真空管は、マッチングをとったペアの中からアンプ個体に合わせ計測したものを同梱しているとのこと

TUBE-P01J(チューニングモデル)の真空管は、マッチングをとったペアの中からアンプ個体に合わせ計測したものを同梱しているとのこと

箱庭感は薄れるかと思いきや、並べてみると十分イケる

箱庭感は薄れるかと思いきや、並べてみると十分イケる

10分ほど暖めてから音出しを始めると、TUBE-03J+とPA3のときとは雰囲気がだいぶ違う。量感たっぷりとまではいかないものの、小型スピーカーとはにわかに思い難いほど音に存在感があり、アコースティックギターのハーモニクスがすっと伸びる。解像感指向というよりは質感指向といえばいいのか、真空管アンプの楽しさ・心地よさが音にしっかり現れている。

それにしても、この箱庭オーディオの楽しさよ。弁当箱程度の、しかも1万円前後という手を出しやすい価格帯でありながら、どの製品もそれなりの音・キャラクターがあるし、セッティングを変えたことによる変化も感じ取れる。オーディオの楽しさを凝縮したかのようなところがいい。

難点があるとすれば、ケーブルだ。スピーカーケーブルは自分で適当な長さに切って使えばいいとして、RCAケーブルは市販のものを使うと長すぎて持て余してしまうし、ケーブルが入り乱れた"裏庭"は美しくない。ACアダプターも1つならともかく、3つ4つとなるとコンセントの確保が難しく、これまた美観を損ねる事態となる。

"裏庭"が散らかりがちなのが欠点かも

"裏庭"が散らかりがちなのが欠点かも

ラックは絶対に必要だと断言できる。ラックなしで積み重ねると、放熱の問題もさることながら、コンポごとに横幅・奥行きがまちまちなため不安定さに悩むことになる。今回はFX-Audioの「アクリル製 [ぷち]オーディオラック 3段」を利用してみたが、保護シートを剥くのに手間取ったことを除けば、サイズはまさに箱庭オーディオ向け。支柱を1本外すという裏技でTOPPING PA3を収めることもできたので、大満足だ。

ラックにはFX-Audioの「アクリル製 [ぷち]オーディオラック 3段」を利用した

ラックにはFX-Audioの「アクリル製 [ぷち]オーディオラック 3段」を利用した

さて、これから箱庭オーディオをどのように育てよう? 先々はスピーカーの入れ替えを視野に入れるとして、まずはラズパイで構築したネットワークプレイヤーを導入するか。借りて気に入った真空管アンプ「TUBE-P01J」を導入するのもよさそう。いやいや、短いRCAケーブルを自作して散らかった"裏庭"を片付けるのが先だろう...などと妄想は膨らむ。それでも数万円程度の出費で収まりそうなところが、箱庭オーディオのよさなのだ。

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

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