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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

3章 緑豊かなエルフの集落フローリア編

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20話 おっさんと少女、「好きなのはお父さん」

 ルーイたちの好意に甘えて、もう一晩泊めさせてもらった翌朝。

 目を覚ましたラビはすっかり元気になっていた。


「頭が痛いとか、喉が痛いとかはないか?」

「うん、大丈夫。お父さん、あのね……」

「ん?」


 ラビはワンピースの裾を握って、もじもじとしてから顔を上げた。


「えっと……看病してくれてありがとう……。……すごくうれしかった……」


 俺が笑って頷くと、ラビもニコッと微笑み返してくる。

 無理をしている笑顔ではない。

 感情のまま表に出てきたような、はにかみ笑いを見て幸福な気持ちになった。

 いつもどおりのラビだ。


(薬を飲んでぐっすり眠ったのがよかったんだな)


 念のため鑑定スキルで確認する。

 疲労と風邪の状態異常はちゃんと消えていたので安心した。


「お父さん、出発する?」


 着替えを終えたあと。

 ラビのリボンを結ってやっていると尋ねられた。


「ラビは旅に出られそうか?」

「うん」


 ラビがこちらを振り返って頷く。

 正面を向いていてくれないとまとめた髪が崩れてしまう。

 俺は苦笑して、ラビの小さな頭をよいしょと戻した。


「ラビが元気なら今日、出発しよう」


 火災現場の片づけは終わった。

 ラビも回復して、雨は上がった。


 数日間、世話になったエルフの集落フローリア。

 エルフたちが受け入れてくれたのはうれしかったし、居心地のいい集落だった。

 しかし旅立つ時が来たのだ。



 荷物をまとめ終えたところで、爺さんがもう一度ラビのスキル適性を見てくれることになった。

 1回目の時はうとうとしていたし。

 しかも本人は鑑定したことすら覚えていなかった。


「それでは見てみましょう」


 ニコニコと笑いながら皺だらけの手をラビの頭の上に掲げる。

 爺さんの右手がポウッと光った。


「……ほほ、なるほどなるほど。安心なさい。ちゃんとスキル適性はあるようです」


 スキル適性はある。

 そう聞いた瞬間、ラビの表情がパアッと明るくなった。


「ただすこーし深いところで眠っているようですな。覚醒するにはきっかけがいるでしょう。でも大丈夫。この子の心が求めているのなら、いつかきっと呼応し目覚めるはずです」

「そうか……」

「スキルの潜在能力は5120」

「な……! すごいじゃないか」


 爺さんの言葉に驚く。

 潜在能力5120とはかなり高い。

 スキルを使える人間の潜在能力は平均3000。

 ちなみにスキル適性がなければ潜在能力は0ということになる。

 この能力が高いほど、複雑なスキルを習得しやすくなる。

 それにスキルレベルに必要な経験値も高く入る。

 潜在能力は持って生まれた才能のようなもの。

 その数値は生まれた瞬間から固定されていて変化することはない。


「5120ってすごいの……?」


 俺の言葉にラビが首を傾げる。

 爺さんは何も知らないラビに向かい優しく笑いかけた。


「ええ。かなり高い。きっと目覚めたら良いスキル使いになることでしょう」

「お父さんはどのぐらい……?」

「俺は……」


 そうだ。

 ここで俺の数値を教えたら、ラビの自信に繋がるかもしれない。


「俺は900ちょうどだ」

「え……!?」


 それまで隣で黙って話を聞いていたルーイが素っ頓狂な声をあげる。


「そんな……。さすがにそれはないでしょう……!? 900じゃ初歩的な生活魔法をいくつか使えるぐらいですよ。あなたほどのスキル使いが900なんて考えられません」

「い、いや。そうは言われても本当なんだが……」

「ほほ。どれどれ」


 爺さんが笑いながら手を差し出してくる。

 どうやら俺の潜在能力も測ってくれるつもりなのだろう。

 身を屈めて頭を前に出す。

 ブツブツと聞き取れないぐらいの声で爺さんが呪文を呟く。

 俺の頭上が微かに温かくなった。


「……ほお。……これは……なるほど……。ルーイ、この方の言ったとおり。潜在能力は900と出ていますよ」

「……! で、ではどうしてあんなすごいスキルが使えたんです……!? 超強力な水魔法や見たこともないレベルのバフをかけれるんですよ……!?」


 ルーイが息巻く。

 爺さんは笑みを浮かべただけで何も言わない。

 そして俺のほうに視線を戻した。


「想像を絶する努力をしてこられたのですな……」


 しんみりとした優しい口調でそう言われる。

 俺は目を見開いて爺さんを見返した。


 自然と心に思い浮かんだのは若い頃の鍛錬三昧だった日々の記憶だ。


 別に大した話じゃない。

 才能に恵まれなかったから、天才たちの何十倍も努力をした。

 ただそれだけのことだ。


「あなたの生きてきた日々に敬意を表します」

「爺さん……」


 だが数十年も経った今、そんな言葉をかけられると胸にこみあげるものがあった。

 情けない話かもしれないが、目頭が熱くなってしまった。


「ダグラスさん、あなたは本当にすごい人だったんですね……。努力で才能を超越するなんて……」


 ルーイが圧倒されたかのように呟く。


「ルーイ、この方は天才と呼ばれる者たちよりも、よっぽど尊敬に値する人なのですよ」


 爺さんがあまりに持ち上げてくれるから俺は困ってしまった。


「と、とにかくラビ。おまえは頑張り屋だし、才能もあるからきっとすごいスキル使いになれるぞ」

「ほんと? お父さんみたいになれる……?」

「……!」


 お父さんみたいになりたい。

 この言葉の破壊力を俺が思い知ったのはこの時が初めてだった。


 ◇◇◇


 ありがたいことに今回も俺たちの見送りに大勢の人が集まってくれた。

 しかも餞別にエルフ秘伝のスパイスや風邪薬までもらってしまった。

 見送りの人の中にはローズの姿もあった。

 こちらが気づいた直後、目が合った。

 他の人には気づかれないようなささやかな微笑をお互いに浮かべて、俺たちはそれを別れの挨拶とした。


「なあ、本当に出発するのか……」


 俺たちが旅立つとわかった瞬間から、ずっとむっつりしていたニキが口を開いた。


「ああ。世話になったな」

「あ、ありがとう……」


 ラビも小さな声でお礼を伝える。

 その途端、ニキの顔が真っ赤になった。

 照れているのとは違う。

 涙が溢れ出そうな感情を我慢しているのだ。


「ラビ! おっさんと一緒にここに残ればいいじゃん! 俺がお嫁さんにしてやるから!! そしたらずっと一緒に暮らせるだろ!?」


 涙の湧き上がってくる瞳を腕でゴシゴシとこすりながら、ニキがそう叫んだ。


「んなッ……!?」


 ラビより多分、俺のほうが驚いている。

 喉から引っくり返ったような声が出てしまった。


(よ、よよよ嫁………………)


 たしかにニキはラビを気に入っているようだった。

 だがまさかそれが恋愛感情だったなんて。

 今の今までまったく気づいていなかった。

 焦ってルーイたち家族に視線を向ける。

 全員が全員、微笑ましそうな顔で見守っている。

 どうやら恋心に気づいていなかったのは俺だけだったらしい。


 ラビはいったい何と返事をするのだろう……。

 俺はぎくしゃくと顎を動かし、ラビを見下ろした。


「……」


 ラビは無言のままニキを見ている。


「え……えっと。お、俺はラビが好きだ! だからお嫁さんにしてやるっての!」

「私はお父さんがすき」

「へ……」

「え……」


 ニキと俺の驚いた声が重なる。

 ラビは俺を見上げると、照れくさそうに笑った。


「ははは。ニキ、フラれてしまったなあ」


 ルーイが明るく笑いながら息子の肩を叩く。

 ニキは父の体をポコポコ叩いてから、ワッと泣いてその足にしがみついた。


 ……これはものすごく複雑な気持ちになるな。

 ラビの言葉はかわいらしくてうれしかった。

 しかしニキの気持ちもわかる。

 ……ううむ。


 俺が仏頂面で固まっていると、ルーイがうちの子のことは気にしないでくださいと言ってきた。


「男の子ってのは失恋して成長していくものでしょう」

「な、なるほど……」


 俺も思わず遠い空を見上げたくなった。


「ところでダグラスさん。実はこれから避雷針の設置について前向きに検討していくことになったんです」


 ルーイが言う。

 みんなも彼の言葉に頷いた。


「私たちにその技術はないから、設置が決まったら人間の街に依頼を出すことになるでしょう。あなたのような善き人と出会える確率は稀でしょうが、それでも歩み寄ってみたいと思わせてくれた。あなたのおかげです」

「いや、俺なんか……。だがいい出会いがあるよう祈っている」

「あなたたちにも!どうか素晴らしい旅を!」

「ああ。ありがとう」


 俺たちが歩き出すと、後ろから「せーの」という掛け声が聞こえてきた。


「マッスルパワー!!!」


 エルフたちが一斉に叫ぶ。

 驚いて振り返るとみんなが笑顔で手を振っていた。

 ニキも泣きながらブンブンと右手を振っている。

 ラビと俺も笑いながら手を振り返した。


 ◇◇◇


 エルフの集落を出発した日の午後、俺たちは南へ向かう乗合馬車に遭遇した。

 次の目的地はミルトンだという。

 俺たちもラビのネックレスを売るため、ミルトンに立ち寄るところなのでついている。

 2人分の料金を前払いして荷台の空いているスペースに乗り込んだ。


 先客は3人。

 顔見知りらしい商人風の男たちと、10代と思しき少女だった。


 ラビは憧れていた乗合馬車に乗れてとてもうれしそうだ。

 キラキラした瞳で流れていく風景を楽しんでいる。

 俺たちが乗車して少しした頃、おっさんたちふたりが雑談を始めた。


「なあ、そういえば知っているか? 勇者アラン様ご一行の新情報を」

「お! ついに魔王討伐に向けてバルザックを出たか!?」

「いやいや。それがまだバルザックにいるうえ、新メンバーを募集してるらしいんだ」

「なんだいそりゃあ。もうかなり長いことバルザックにいるよな」

「ああ、なんかちょっと不安になってくるよなあ……」

「……!」


 突然聞こえてきた話にドクンと心臓が高鳴った。


(まだバルザックにいるだって……。あれからもう半年以上経つというのに……?)


 それに新メンバーを募集しているというのはどういうことなのだろう。

 パーティーバランスは完璧なものだったはずだ。


 男たちは突然前のめりになった俺に怪訝そうな視線を向けてきた。


「……その話を詳しく教えてくれないか?」


 思わずそう尋ねると、男たちはきょとんとした顔で顔を見合わせた。


「へ? 勇者の話か?」

「ああ」

「なんだ。あんたも勇者ファンかい?」

「ま、まあ、そんなところだ」

「そうだったのか。でも悪いな。知ってるのは今の話がすべてなんだよ」


 噂話を披露していた男がすまなそうに謝ってくる。


「あ……。そ、そうか。悪かったな。突然、口を挟んだりして」


 俺は頭を下げてから座り直した。


(……そうか。アランたちはあの街にまだいるのか)


 複雑な気持ちでため息をつく。

 そんな俺たちを乗せた馬車は、ガタガタと音をたて、南へ向かって進んでいくのだった――……。

次回更新は(たぶん)26日です

※2月1日まで変則更新になります

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
「ひあっ……?」

俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
しかも、花火とは真逆で、めちゃくちゃ性格のいい美少女から、「ずっと好きだった」と告白されてしまった。

って花火さん、なんかボロボロみたいだけど、どうした?

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