80話 おっさんと少女、守り守られる
エドモンドは、ラビの誘拐と『豚の夜鳴き亭』の破壊、宿の客に負傷者を出した件で逮捕されることになった。
逮捕時には結構な騒ぎとなってしまった。
エドモンドは「自分は勇者パーティーの一員として国を護ってきた英雄なのですよ。捕まえるなんてありえない!」と喚いて、暴れ出したのだ。
攻撃魔法を放てるほどの魔力はもう残っていなかったため、たいした抵抗はできなかったものの、あっという間に周囲には人だかりができあがっていた。
結局、彼は憲兵隊員に小突き回され、「あまり見苦しく騒ぐな」と叱責されながら連行されていった。
集まった人々は「あれが英雄の成れの果てか」と失笑する。
俺は複雑な気持ちを抱えたまま、顛末を見届けた。
これから数日間、エドモンドは憲兵隊の牢屋に拘留され、書類の手続きなどが終わり次第、刑務所に輸送されるだろう。
かつての仲間といえど、ラビやエイハブたちにしたことは許せない。
エドモンドには、刑務所の中でしっかり罪を償い、心を入れ替えて欲しい。
それ以外、彼にたいして抱く感情はない。
エドモンドのことはこれで一つの決着がついた。
次はアランだな……。
ほとんど身動きが取れない状態だとしても、ラビが危険に晒される可能性が少しでもあるのなら、放っておくことはできない。
エドモンドのように、先手を打たれてからでは遅いのだ。
それにあいつには、返したいものもあるしな。
コートの胸ポケットにしまったままの指輪。
その存在を忘れたことはなかった。
エドモンドは、アランがバルザックの宿屋に滞在していると言っていた。
それが事実なら見つけ出すのに、そう手間はかからないだろう。
問題はラビだ。
救出して抱き上げた直後から、ラビはずっと俺の首にしがみついていて、片時も離れようとしない。
時々、ぐずるような小さな声を出して、俺の胸にぐりぐりと額を押しつけてくる。
「私……甘えてごめんなさい……」
「なんで謝るんだ。俺はうれしいぞ。ラビに気持ちを我慢されるほうがずっと嫌だからな」
「うう……」
言葉にはならない呻き声を零して、またラビがぐりぐりとしてくる。
こんな状況じゃなければ、その仕草のかわいさにデレまくっていたことだろう。
知り合って間もない頃とは違うラビの反応。
あの頃は恐ろしいことがあると、青ざめた顔で人形のように固まり、気持ちを押し殺してしまっていた。
それが今はこんなふうに、俺を頼ってくれている。
うれしい、と言った言葉は嘘なんかじゃない。
ラビにとって心を許せる場所になれた。
そう自惚れてもいいのだろうか?
「お父さん……。私、ずっとお父さんの傍にいられるよね……?」
「もちろんだ。もう二度とあんな目には合わせない。約束する」
「うん……。ひとりぼっちは怖い……」
背中をポンポンと叩いてやると落ち着くようなので、「もう大丈夫だ」と囁きかけながら、ラビのことをあやし続けた。
こんなラビを残して、アランのところへひとりでなどいけないな。
ただアランのところに連れていって、怖がらせたくもない。
一体どうしたものか……。
本音を言えば、しばらくは片時だって目を離したくない。
これから先の人生、毎日、四六時中ラビの傍にいるわけにはいかないとしても、こんな事件が起きたあとだ。
せめて時間がラビの心を癒してくれるまで、そういう期限付きなら、いつもより過保護に振る舞っても許されるよな……?
「ラビ、少し話を聞いてくれるか?」
くっつき虫になっているラビに声をかける。
そろそろと顔をあげたラビは、こくりと頷いて、緊張した面持ちで俺を見上げてきた。
「俺には会わなければならない男がいる」
「……昨日の男の人が言ってた人……?」
昨日の男とはエドモンドのことだろう。
俺はラビの言葉に頷き返した。
「そいつ――勇者アランと昨日の男エドモンドと俺は、かつて仲間だったんだ。しかし色々あって、こじれた関係になっている。おそらくアランは俺を憎んでいるだろう。だから会いに行って決着をつける必要があるんだ」
ラビを護るために。
俺は自分の過去としっかり向き合わなければならない。
「……勇者さんも怖い人? お父さんに何かあったら私……」
ラビが心配そうな顔で尋ねてくる。
俺はなんと答えたらいいか迷っていると、ラビの大きな目が不安からうるっと揺れた。
い、いかん!
「大丈夫だ。何もさせやしない。そのために会いに行くんだからな。指輪を返して、二度と関わることがないよう話をつける。それで終わりだ」
「指輪……。お父さんに悲しい顔をさせた指輪のこと……?」
俺は指輪を見て、アランに呪われていたことを知り、ショックを受けた。
確かにその姿をラビは見ていた。
覚えていたのか……。
ラビが子供だからといって、ごまかすようなことはしたくない。
「そうだ」
「……でも会わなきゃだめな人?」
「ああ、そうだ」
「……会ったらお父さん、悲しくならない……?」
難しい質問だな。
自分の感情がどう動くのか。
俺には予想がつかなかった。
でもひとつだけ断言できることがある。
「アランにあって、どんな想いをしようとも、俺にはラビがいる。だから何があっても平気だ」
俺にとって唯一無二の確かな光。
大事な大事な宝物。
そう思っていると、不意にラビが俺をふわりと抱きしめてきた。
背中に回された小さな両手。
しがみついてきたときとは何かが違う。
まるで優しく包み込もうとしているかのように、俺を包み込む。
ラビに抱擁されているみたいな気持ちになって驚いた。
「お父さんがいつも守ってくれるように、私もお父さんのこと守ってあげたい……。悪い人がいっぱいいても、どんなときでも……」
「ラビ……」
情けないことに涙でじわりと視界が滲んでしまった。
今まで一度だって呼びかけたことのない相手に、思わず話しかける。
神様。
俺にこんな尊い宝物をくれてありがとう……。
新作始めました!
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『少年賢者は日陰の道を歩みたい。〜闇の支配者として臣下を育成した僕は、最強国家を築き上げる〜』
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