83話 おっさんと少女、職人探しをする
あけましておめでとうございます!
冒険者ライセンスも連載開始からついに1年を迎えました。
今年もマイペースで更新をしていけたらいいなあと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
『豚の夜鳴き亭』再建を目指して行動開始だ。
まずは手を貸してくれる大工を探すため、職人ギルドを訪れた。
時刻はちょうど昼過ぎ。
酒場を併設している職人ギルドには、仲間と昼休憩を過ごすため、多くの職人が集まっていた。
出入りしているのは荒っぽい男たちばかりだ。
冒険者ギルドのそういう連中とはまた雰囲気が違う。
若く無鉄砲な人間が活躍する冒険者ギルドと違って、職人ギルドには、年を取った頑固そうな男たちが多い。
「お父さん大工さんいるかなあ?」
「ああ。きっといるさ」
俺がラビと手を繋いで受付に立つと、受付は不思議そうにこっちを見た。
「子連れのお客さんとは珍しいね。職人をお探しかい?」
「大工に仕事を頼みたいんだ」
「――ってあんた、ダグラス・フォード!?」
やれやれ、またこの展開か。
「悪いが、娘も連れているし、あまり騒ぎ立てないで欲しい。俺は大工を探しに来ただけだ」
ラビを怯えさせたくない。
その一心で毅然とした態度で接したら、以前ほどひどい騒ぎにはならなかった。
それでも俺たちの周りには、やはり人だかりができてしまった。
「なんだなんだ!? あのダグラスが大工を探してるって!?」
「おっ! 大工ならここにいるぜ!」
「英雄ダグラスの仕事を請け負えるなんて最高じゃねえか!」
どうやら集まってきたのは大工たちだったようだ。
注目された結果、助かったのはこれがはじめてかもしれない。
大工たちは皆、真っ黒に日焼けしていて、筋肉質なのに無駄のない体型をしている。
年は俺とたいして変わらなそうだった。
「大工を探してるって、この街に御殿でも建てるのか!?」
「大きい仕事だったら俺らスコセッシ建設が請け負うぜ!」
御殿だって……!?
早とちりした大工たちは、金もうけができると思ったのだろう。
ギラギラした目でにじり寄ってきた。
前言撤回。
やっぱり注目されるなんてロクなことがない。
「おい、待て。勘違いをするな……!」
怯えるラビを抱き上げつつ、俺は要件を説明した。
話を聞いているうちに、大工たちの顔からみるみる覇気がなくなっていった。
「金貨5枚での建築?」
「土地代が不要だっていっても、それで宿屋を立てるってのは無理があるぞ……」
「ダグラスさん、あんたそんだけ有名人なんだ。金には困ってねえだろ」
「いや、そこは事情があってだな……俺の宿じゃなく、友人の宿なんだ」
「それにしたって、バルザックの宿屋ってんなら粗末な建物ってわけにもいかないだろう? その値段じゃあなあ」
「……そうだよなあ……」
「やっぱり難しいだろうか?」
「難しいと言うより、はっきりいって無理だな」
「そうか……」
諦めて他を当たろうとしたときーー。
「あ、あのっ……私、どうでしょうか……」
声を聞いて振り返ると、おそるおそる手をあげている少女の姿があった。
ふさふさした真っ白い耳に丸い尻尾。
獣人だと一目でわかった。
つなぎの服を着ていることや、腰回りにぶら下がった道具袋を見て、おやっと思う。
道具袋から顔を覗かせているのは、トンカチやくぎ抜きだ。
大工は屈強な男たちの仕事というイメージが強かったので、驚かされた。
「あんた、大工なのか?」
「はいっ、私は――」
俺の質問にウサギ耳の少女が答えようとしたところ、嘲笑うような声とともに横やりが入った。
「おい、カトリ! やめとけやめとけ。おまえみたいなチビの、それも女に宿を建てるなんざ出来るわけねえって!」
「カトリ、本気で大工でやってくつもりだったのか? そんなことより、料理の腕でも磨いた方が幸せな結婚ができるぜ」
「むうっ。皆さん、私はちゃんと親方について5年間学んできました! そういうことを言うのはやめてください」
「ぶははっ。ウサギがなんか吠えてるぞ」
「もう!」
若い大工にはやしたてられ、ウサギ耳の少女は悔しそうに項垂れた。
長い耳はぺたんと倒れ、赤い目には涙が滲んでいる。
俯いた横顔から彼女の悔しさが伝わってきた。
さっきまで騒がしかったギルド内に、いやな沈黙が流れる。
そのとき、俺の足にしがみついていたラビが、ウサギ耳の少女と大工たちを見比べたあと、不思議そうに首をかしげた。
「女の人だとどうしてだめなの?」
まっすぐな瞳で尋ねられて、大工たちが「うっ」とたじろぐ。
「そ、それはなお嬢ちゃん、昔っからそういうもんなんだよ。女が大工をやるなんて聞いたことねえしな!」
「そ、そうだとも。大工は男の仕事なんだ」
「どうして?」
「ええっ……ど、どうしてって言われても、なあ?」
大工たちは純粋なラビの質問にたいして、タジタジしながら気まずげに視線を逸らした。
当然、それでラビが納得するわけなどなかった。
「お父さん。どうしてなの? 女の人だって、大工になったっていいよね?」
「……ああ、そうだな」
ラビの言うとおりだ。
大工は男がつく仕事だと、知らぬ間に偏見を持っていた自分自身を、俺は恥ずかしく思った。
「そうだな。変だよなラビ。女性だってだけで、大工になるのはおかしいと思うほうがどうかしているんだ」
俺は気持ちを入れ替えるためにすうっと深呼吸をしたあと、ウサギ耳の少女に向き直った。
「……すまなかった。俺も心の中で、女性で大工など珍しいと思ってしまった」
少女に向けて深々と頭を下げる。
「わっ、謝らないで下さい……! それが普通の反応ですし……! たしかに私以外、大工になろうなんて女の子会ったことないですし!」
その言葉に、少女のこれまでの苦労が窺えた。
「あの、でも私、腕には自信があるんです。もしよければ話だけでも聞かせてくれませんか?」
「こちらは相場の半額しか出せないんだが、それでもいいのか?」
「事情がおありなんですよね。その額で賄える方法をなんとか考えてみましょう!」
「頼もしいな。請け負ってくれるというのなら、是非お願いしたい」
「はいっ、よろしくお願いします!」
俺が差し出した手を、ウサギ耳の少女が握り返す。
俺たちのやり取りを隣で見守っているラビもうれしそうだ。
「お父さん、大工さん見つかってよかったね……!」
「ああ、これで最初の難問を突破したぞ」
微笑みを交し合う俺たち親子の後ろでは――。
「あ、あのウサギ……英雄ダグラスと契約をかわしやがった……」
「すげえな……」
こうして俺とウサギ耳の少女カトリは、ギルドでの契約を交わしたのだった。