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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

11章 蘇れ! 『豚の夜鳴き亭』編

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84話 おっさんと少女、馬車の旅に出る

 ガタガタゴトゴト。

 あぜ道を走る幌馬車が、穏やかなリズムで揺れ続けている。


 空の荷台に乗っているのは、俺とラビ。

 それからもう一人。

 昨日知り合ったばかりの少女、カトリだ。


「わあ! 見てくださいラビちゃん、あっちの草原にウサギさんが!」

「え……ど、どこ……?」

「あっちですあっち!」

「わあ、ほんとだ……!」

「ふふ、そういえばラビちゃんもウサギですね。私もウサギなんでお揃いです」

「うん……お揃い……」


 少女ふたりが楽しそうに話しながら、荷台から見える景色を楽しんでいる。

 俺はそんなふたりを見守りながら声を掛けた。


「ラビ。カトリ。あまり身を乗り出していたら危ないぞ」

「はいっ、気をつけます!」

「お父さん、心配かけてごめんなさい」


 ラビは俺の言いつけどおりきちんと座り直して、きらきらした瞳を目を走り去っていく景色に向けた。

 時々驚いたり、喜んだりしながら、この旅を楽しんでいる。


「あっ。この道、前も通ったところだ……。ねえお父さん、お馬さんたちすごいね……! こんなに早いんだね」

「ああ。この馬は特に速度が出る馬なんだ」


 帰り道は重いものを持つ分、行きは少しでも速度を出したい。

 だからできるだけ持久力のある若い馬を選んでもらったのだった。


「帰りの馬はまた違う馬にするぞ。木をたくさん運ぶからな。重いものを運べる馬に助けてもらうんだ」

「お馬さんてそんな重たいものまで持てるの?」

「ああ。馬車だと車輪の助けを借りられるからな。8トンは運べるぞ」


 ほーっと口を丸く開けて、驚くラビがかわいい。


「お客さん、詳しいね。馬車の積載量を知っているなんて、もしかして同業かい?」


「お馬さん、力持ちですごいね。でも、お父さんの方がもっと力持ちだよね」

「ラビちゃん、そうなんですか? さすがはあの冒険者ダグラスさん!」

「お父さん、いつもすごいけど、ムキムキになるともっとすごいの!」


 ラビがうれしそうに胸を逸らして、俺のことを自慢している。

 人から褒められるのが苦手な俺なのに、娘に自慢されるのはたまらなく嬉しい。

 俺は照れくささから苦笑して、辺りの様子を見回した。


 いまの橋は、ミルトンへ分岐する十字路だったな。

 あの街で出会った人々、ヴェロニカやテッド、バラ姫にマダム。

 彼女たちのことを懐かしく思いつつ、進んでいく道の先に視線を向けた。


 なぜ俺たちが馬車に揺られているかというと、話は昨日、カトリと出会ったあとに遡る――。


 ◇◇◇


「――なるほど。そういう理由から金貨5枚で、家を建設しなければならないんですね……」


 カトリは白くて長い耳を動かしながら、俺の説明を熱心に聞いてくれた。

 あのあと俺たちは職人ギルドを出て、別の通りにある『逆さ風見鶏亭』という店に移動したのだった。

 ギルドの中にも職人や依頼者が食事をできる食堂があるのだが、そこでは周囲が気になってしまう。

 俺もこの少女も、職人たちから色んな意味で注目されているからだ。

 特にこの少女は、女性ということもあるのだろう。

 面白くなさそうな顔を露骨にしている者もあった。


「ダグラスさんのお友達を思う気持ち、しかと分かりました。この際です。私の人件費はいりません!」

「いや。それはきちんと受け取ってほしい」

「ですが……」

「お前にだって生活はあるだろう」


 カトリはもじもじと俯いた。

 ラビが心配そうに言う。


「カトリお姉さん、どうしたの……?」


 幼い少女に心配されたせいか、カトリは勇気を出すように顔を上げた。


「すみません……正直に話しますね。私、普段ほとんど仕事がないんです。私に直接依頼がきたことは……今のところゼロ件で……。誰かが忙しくて手が足りない時、助っ人として働かせてもらうだけで……」


 それはカトリが女性の大工だから、不当な目に遭っているからではないか。

 職人ギルドでのやりとりを思い出し、俺は密かに思った。


「そんな私に初めて仕事の依頼をくれたんです。それもあのダグラスさんが! 私、それだけで本当にうれしくて。だからお給金なんて……」


 この仕事が、彼女の自信に繋がるのは嬉しい。

 しかしやはり仕事をしていくというのは、それだけではだめなのだ。


「お前は慈善事業としてではなく、一流の職人として、仕事で請け負ってくれたんだろう?」

「そ、それは……」

「仕事に見合った給金を受け取らなくてはだめだ。誰かを安く働かせて建てた宿だなんて友人に話したら、彼は確実に怒る」

「う……でも私は、誰からも仕事を頼まれない新米で……」

「それでも、親方のところでちゃんと学んだのだろう?」

「は、はい! そこだけは自信があります……! うちの親方はすごい腕を持つ大工ですし!」

「だったら尚更だ」


 彼女の気持ちがわからないわけではない。

 俺も力を失って、まともなクエストをクリアできなくなっていたころ、自信を喪失して周りが見えなくなっていた。

 自分でも受注できるクエストがあるだけ有り難いと思い、それをクリアするために、山ほどポーションを買い込んだりして。

 クエストをクリアして報酬を貰ったところで、ポーション代で赤字にしかならなかったのにな……。

 あれは冒険者として失格だった。


「お前が俺に感謝してくれているのと同じように、俺だって引き受けてくれたお前に感謝しているんだ。だから自信を持って、仕事をこなしてほしい。そしてその能力に見合った報酬を受け取ってくれ」

「自信を……?」

「そうだ。自分で自分の価値を下げるようなことは言うな。仕事のあるなしなんて関係ない。君が君自身を立派な大工だと思うのなら、堂々としていればいい」


 少女の赤い目に、うるっと涙が滲む。

 彼女はすぐにそれを袖で擦り、鼻を擦った。


「わ……わかりました……」

「給金のことは納得してくれたか?」

「は、はい……。ありがとうございます……っ」

「うさぎのお姉さん、泣かないで……」

「そ、そうだぞ。ほら、食事の手が止まってるぞ。どんどん食べてくれ」

「あ、ありがとうございますうう」


 カトリはサラダをもしゃもしゃと口に詰め込んだ。


「カトリ、と言ったな。そんなわけで君への報酬はしっかり払わせてもらう。しかしそれ以外の費用はなんとか抑えたいというのが本音だ。どうにか節約する案はないだろうか?」

「そうですね、なかなか難しいとは思いますが、がんばって考えてみます!」


 サラダのおかわりを頼みながら、カトリが黙り込む。


「悪いな。無理難題を持ちかけてしまって……」

「いえ、そんなっ! 私嬉しいです! 頼ってもらえて、気持ちが引き締まりました!」


 カトリはフォークを握ったまま、うーんと考え込んだ。


「お金が掛かるのは、やっぱり人件費と材料費です。人を減らせばそれだけ費用は減りますけど、完成がそれだけ遅くなるので」

「それはどれくらい影響するものなんだ?」

「宿屋は民家より大きいので、そうですね。5人くらいの大工がいても、1ヶ月半はかかりそうです。となると、もし私がメインで手伝いの人を1人呼んで作業をした場合、早くても3ヶ月くらいはかかってしまうかなと思います……。最低でも人員が2人必要なのは、材木を運んだり、支えたりするので、どうしても一人では無理なんです」

「なるほどな……ちなみにだが、ものすごく力の強い素人が参加した場合、役には立てるのだろうか」


 ラビは合点がいったように、ぱっと顔を上げる。


「お父さん、筋肉もりもり?」

「ああ。マッスルパワーを使えば戦力になるんじゃないかと」

「手伝いの方は大工でなくても大丈夫です!」

「よかった」


 俺はほっとする。

 エイハブの宿の件は、やはり俺の責任もある。

 見ているだけ、指示を出すだけというのも落ち着かないからな。


「材料に関しては……なかなか難しい問題で……」

「聞かせてくれるか?」


 カトリは頷いた。


「建築に適している木って実はすごく高いんです」

「そ、そうなのか……」

「普通は家を建てるとき、金貨十枚が相場ですけど、そのうち金貨六枚分は木材の値段です」


 費用のほとんどが木材に消えているじゃないか。


「どうしてそんなに高いんだ? 貴重なものなのか?」

「いえ、木材自体は北に広がるシシカバの森にあります。でも、そこはエルフの領地ですから。木材を買うには、エルフが持ち込んだものを購入するしかありません。バルザックには月に2回ほど入荷されます。でも、このエルフが厄介なんです」


 カトリが落ち込んでいる理由に俺は気が付いた。


「エルフはエルフ以外の種族が嫌いですから。伐採や運搬にかかる手間賃でかなりふっかけてくるし、びた一文負けてくれません……」


 要するに、木材そのものの価格よりも、エルフたちと取引をする手数料が嵩むということだ。


「困りました。せめてエルフの里に行って、直接買い付けでも出来ればとおもうんですけど」


 やはりそういう事情か。

 エルフは警戒心が強くて、他の種族と関わることを極力避けている。

 気を許すことは滅多にないし、特に人間嫌いだ。

 人間の宿を建てるためと知ったら、取引すら出来ないかもしれない。


「人間に優しくしてくれるエルフもいるんだが……」


 そう言って、俺は不意に思いついた。


「そうだ。フローリアのエルフたちに頼んでみてはどうだろう。彼らには縁がある。俺が自分で木を切って運ぶと言えば、少しは安く済むかもしれないぞ」

「え!?」


 カトリの大きな目が丸くなった。


「お父さん、ニキたち?」

「ああそうだ。きっと俺たちのことを覚えていてくれるだろう」

「わあ。会えるの楽しみ……!」

「え? え、ええ?」


 きょとんとするカトリに、俺は説明する。


「知り合いがいるんだ。数日泊めてもらったこともあるし、話は聞いてくれるかもしれない」

「え……えええええええええ!?」


 カトリは大きな声で叫んだ。


「エルフに知り合いがいるって……一体どうやったんですかー!?」


 そんな大げさじゃない。

 ただ旅の道行きが一緒になっただけだ。


「フローリアまで馬を使えば往復20日で済む。切った木を運ぶのには馬車が必要だしな」


 馬車を借りる分のお金は、建設費とは別だと考えてもいいだろう。

 ちょっとずるになるかもしれないが、そのぐらいは俺の金を出させてほしい。


 こうして俺たちは、馬車に揺られることになったのだ。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
「ひあっ……?」

俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
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