86話 おっさんと少女、懐かしい人々と再会する
立ち寄る町々で補給所により、馬を交換する。
旅は順調に続いた。
アクシデントと言えば、あぜ道に車輪がはまってしまって、少し往生したぐらいだ。
それもマッスルパワーで対処し、予定に遅れはほとんど出なかった。
そして出発から10日目。
俺たちを乗せた幌馬車は、予定どおり『スノークの森』まで辿り着いた。
この先にエルフの集落フローリアがある。
「懐かしいな、ラビ。この分かれ道の先が、ちょうどルーイとニキに会った辺りだ」
あの日は嵐のような大雨だったな。
懐かしく感じながら、青空を見上げる。
立ち往生をしているところで出くわしたエルフの親子ルーイとニキ。
手助けを申し出たところ、人間だからという理由で最初はひどく警戒されてしまったものだ。
他種族嫌いなエルフが相手だというのに、いま思えば俺も無遠慮すぎたな。
それでも同じように幼い子を持つ親同士だったのもあって、すぐに打ち解けることができたのはいい思い出になっている。
その後、木の上に建てられた家に招待され、エルフ族に伝わる料理を振る舞ってもらったりもした。
そういえば、落雷で焼けた家はあのあとどうなっただろうか。
「みんな元気にしていればいいな。ラビもニキに会いたいだろう」
「うん。また遊びたいな」
「本当にあのエルフと友達なんてすごいですっ! あ! でも部外者の私が一緒に行って大丈夫なんでしょうか……?」
俺とラビのやり取りを聞いていたカトリが心配そうに尋ねてくる。
そのことについては俺も考えてみた。
確かにエルフは他種族への警戒心が強い。それでも直接接したことでわかったことがある。
俺の印象では、巷で言われているように、根拠なく人間を拒んだりはしなかった。
少なくともフローリアで暮らすエルフたちはそうだった。
だからこそ俺とラビは彼らの友人となれたのだしな。
「初対面では多少、警戒されてしまうかもしれない。それで嫌な想いをさせてしまったらすまない。ただ悪意のある態度を取ったりするような者たちではないから安心してくれ」
「わかりました……! 初めて会った相手にたいして緊張するのは、私も一緒ですし!」
「ははっ。言われてみれば、それはエルフだけの特徴ってわけではないな」
馬車には集落へ続く道の手前で下してもらい、明日また同じ時刻に迎えをよこしてくれるよう頼んだ。
それから3人で森の中の道を歩いていった。
「あ! お父さん、みんないる……!」
ラビの弾んだ声を聞いて顔を上げると、集落の入口で作業をしていたエルフたちが、ハッとしたようにこちらを振り返った。
彼らの表情に、驚きと喜びの色が浮かぶ。
あれ……!? でもあいつらなんだか……。
「ダグラスさん!?」
「ラビちゃんも……!!」
「うわあ!! お久しぶりですね~!」
作業を中断し、エルフたちがのっしのっしと音をたてて駆けつけてくる。
「おい、みんなー! ダグラスさんとラビちゃんがいらっしゃったぞー!」
「なんだなんだ? ダグラスさん親子が遊びにきてるって!?」
あっという間に大騒ぎとなり、集落の方々で作業を行っていたエルフたちも、わらわらと集まってきた。
みんなあのときと同じ笑顔で、元気そうだ。
歓迎してくれているのが伝わってきて、俺たちもうれしくなった。
ただ、驚かされたのが彼らの容姿だ。
「ん? ……今日は亜人の女の子も一緒なのかい?」
「よそものか……。でも、まあ……ダグラスさんたちの仲間なら……」
「は、はじめまして! カトリといいます!!」
緊張しているカトリに、エルフたちもぎこちなく挨拶を返す。
なんとかうまくいきそうなのはいいんだが。
でも今はひとまず置いておいて……。
「なんでそんなムキムキになったんだ……!?」
「みんなおっきくなってる……」
ラビも驚いて目を真ん丸にしている。
それもそのはず。
エルフの男たちは、しばらく見ない間に筋肉ムキムキに、体格も倍近くたくましくなっていたのだ。
以前会ったときは、皆、線が細く、すらりとしていた。
顔を見れば、ああ、知っている奴らだとなる。
にしても体型が変わりすぎだろう……!?
「ダグラスさんを目指して、あれから毎日鍛えまくったんです」
「ダグラスさんは憧れですから!」
「あなたのマッスルパワーには程遠いけれど、結構、成果が出てると思いませんか!」
白い歯を見せて笑う彼らは、筋肉を見せつけるようにポーズを取った。
その顔はいかにも誇らしげだ。
「結構どころか、十分すぎるだろう……」
俺の発言を褒め言葉と受け取ったらしく、エルフたちは手を叩いて喜び合っている。
彼らが幸せなら、まあいいのかなとも思う。
そこへ遅れてルーイたちがやってきた。
「ダグラスさん!! 久しぶり!!」
「あ、ああ……ルーイ、あんたもすっかりたくましくなって」
ルーイもやはり3倍ぐらいの大きさになっていた。
ただ相変わらず控えめな微笑を浮かべているので、なんとなくホッとした。
外見が変わろうと、彼の中身が変わったわけではないのだ。
ただそれより衝撃だったのが、ニキのほうだ。
「お、おう、ラビ。ひ、久しぶりだな……」
「え……?」
大人と大差ないガタイをした長身の少年が照れくさそうにラビの前に出る。
もじもじした恥ずかしげな表情には、たしかにニキの面影がある。
すごいなニキ……。
子供ってほんの数ヶ月でここまで成長するものなのか……。
大人たちと一緒になって鍛えていたようで、かなりがっしりした体つきにもなっている。
「ラビ、驚いたな。ニキもすっかり大きくなって……」
そう言って振り返ると、ラビがさっと俺の後ろに隠れた。
「え!?」
ラビの態度を見て、ニキが悲痛さの混じった驚きの声を上げる。
「どうして隠れるんだ? ラビ! 俺だよ!」
「だ、だれ……」
「ええええ……!? ニキだっての! この村で会ったじゃないか!」
「……ニキ、そんなにおっきくなかったもん……」
オロオロして動揺するニキと警戒するラビ。
ニキは目に見えて落ち込んでいき、しまいには涙目になってしまった。
ラビがニキをニキとして認識するまで、しばらく時間が必要そうだな……。
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