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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

11章 蘇れ! 『豚の夜鳴き亭』編

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90話 おっさんと少女、材木店見学をする

 翌朝も快晴。

 俺たちは早起きに付き合ってくれたエルフたちに見送られながら、フローリアを旅立った。

 質のいい酒のおかげで二日酔いが残ることもなく、すがすがしい気分だ。


 ルーイは宴の席で話した通り、俺たちの旅に同行することになった。

 それからもう一人。

 父の旅を知ったニキがどうしてもついていきたがり、なんとか許可を得たのだった。


 原木を積み込んだ幌馬車で、フローリアを出発して12日。

 帰りの道程も、行きと同じぐらい順調に進めた。

 途中、雨に降られて2日ほど足止めを食ったものの、おおよそ当初の予定通り、バルザックへ戻ってこられた。


「ここがバルザックかあ! うわーっ、人間がたくさんだ!!」

「ニキ、うろちょろするんじゃないぞ。しかし、大きな町だなあ……」


 ルーイたち親子は辺りを物珍しそうに眺めている。

 聞けば、バルザックに木材を持ち込む役目は決まった者の仕事らしく、ニキだけでなくルーイすらこの街を訪れるのは初めてだという。

 数ヶ月に一度、人間の暮らす街で買い物をするときも、近くの小さな村で済ませていたらしい。

 それに比べたら、たしかにバルザックは大都会だ。

 見るものすべてが驚きに満ちているのだろう。


 大工仕事を手伝ってくれることになっているルーイたちには、俺たちと同じ宿屋『丸い四角亭』に泊まってもらう手筈を整えた。

『丸い四角亭』はエイハブの知人が営んでいる。小さな二階建ての居心地のいい宿だ。

 俺とラビもこの宿を気に入っていた。

 とくにこの店の朝食はレパートリーが多くて、毎朝のちょっとした楽しみを与えてくれるのだ。


 バルザックに到着した翌日は、カトリを連れて早速病院へと向かった。


 俺たちが材料集めの旅に出ている間に、エイハブのリハビリはかなり進んだらしい。

 病棟の看護師から、もうとっくに退院したと聞かされ、うれしい驚きを覚えた。


 その後、エイハブ一家の仮宿に会いに行けば、なんともうほとんど杖も使わなくなっていた。


「ラビちゃん! 久しぶり!」

「ダイアナちゃん……!」


 手を取り合って再会を喜び合う少女たちの横で、俺はエイハブに調子を尋ねた。


「しばらく見ない間にかなり元気になったようだな」

「言っただろ、俺は大した怪我じゃないって。ただ、向こうのほうは……会ってきたか?」


 エイハブが言わんとしたことを察して、俺は頷いた。


「ああ、病室に少し顔を出してきたよ」


 アランの話だ。

 彼は相変わらず目覚めないまま、眠り続けている。

 治療のおかげで体力は回復し、どこも悪いところは見られないというのに。

 医者の話では、「目覚めたくない、現実に戻りたくない」と強く思っている場合、こういうことも稀にあるらしい。


 アランの心が現実を拒絶しているのか。

 そう思うとやりきれない気持ちになる。

 同情心とも罪悪感とも違う。

 あんなに真っ直ぐだった青年が、そこまでの闇を抱えてしまったという事実が、重くのしかかってくる。

 運命の気まぐれな側面を見せつけられているような気がして、自然とため息が零れた。


 それも到底他人事とは思えない。

 俺は今、ありえないぐらい幸せだ。

 でもこんな喜びを抱いているなんて、1年前には想像もつかなかった。

 突然、ふって湧いた幸福は、またいつの日か突然、ふっと消えてしまうのではないか。

 それもやはり運命の女神の気まぐれなイタズラによって。


 ぞっとして、ごくりと息を呑む。

 馬鹿だな俺は。

 起こってもいないことを想像して不安になるなんて……。


「ダグラス? どうした?」

「あ、いや……なんでもない」

「そうか? ――それで、そちらのお嬢ちゃんは?」

「お、すまない。紹介が遅れたな。彼女が職人ギルドで出会った大工なんだ」


 エイハブの怪我も直っていなかったので、カトリの紹介は今日まで見送っていたのだ。


「え!? 大工って……女の子だよな!?」


 エイハブが驚いたのを見て、カトリが少したじろいだ。


「エイハブ。彼女は――」


 俺が庇おうとしたのを察したのか、大丈夫というように首を振ってから、カトリが一歩進み出た。


「あのっ……私、大工のカトリといいます」


 勇気を振り絞るように、手をぎゅっと握りしめて自己紹介をしたあと、彼女は書き溜めていた図面を取り出して、エイハブに差し出した。


「ダグラスさんから色々とお話を聞いて、私なりに考えさせてもらいました。ご自身の意見を最優先しますが、そのためにもこういうものがあったほうがいいかと思いまして」

「こ、これは……!」


 エイハブは目を真ん丸にして、図面を食い入るように眺めている。


「……すごく丁寧な図面だな。最初に宿屋を立てたときとは大違いだ……」

「そうなのか、エイハブ?」

「ああ。その時の大工は『建てる人間に分かればいいんだ』と言って、ろくに図面も見せてくれなかったぞ」

「俺たちのような素人にも分かるよう、色々と用語を解説してくれているんだ。分かりやすいだろう?」

「ああ本当だな! ……ん? この台所。流し台が高いよな?」


 俺と同じポイントに気づいて、エイハブがうれしそうな声を上げる。


「この図面もいいし、こっちもいい。ああ、迷っちまうよ!」

「……! き、気に入っていただけたんですか……?」

「もちろんだ! どれにするかは決めかねるが、ぜひあんたにお願いしたい。待ってくれ、妻や娘とも相談して、どの案がいいか決めるから! ああ、夢が膨らむなあ……」


 嬉しそうなエイハブを前に、カトリは動揺しているようだった。

 どうしたらいいかわからないという目で俺を振り返る。

 俺は何も言わず、ゆっくり頷いた。


「……!」


 カトリが、はっと目を見開く。

 自信を持てという気持ちが伝わったのだろう。

 エイハブに再び向き直ったカトリは、自分の胸に手を当てると、ぐっと顎を上げた。



「素敵な宿を立てられるよう頑張ります!」


 溌剌とした彼女の宣言に対しに、エイハブは「期待している」と力強い答えを返した。


「あ! でも、費用のことはいいのか?」

「それに関しても、お任せください」


 少し自信のついたらしいカトリが、胸をポンっと叩いてみせた。


「木材は破格で入手できましたし、建築自体はダグラスさんや、有志の方々が手伝ってくれるそうです」

「なんと……」

「だから十分予算内で建てられますよ!」


 カトリの言葉に、エイハブは心底安堵したらしく、はあっと大きなため息をついた。


「ありがとう。みんな、本当にありがとう」


 エイハブの喜ぶ顔を眺めながら、俺とカトリは、この先も頑張ろうと決意を新たにしたのだった。


 ◇◇◇


 それから何度かの打ち合わせの末に外装と内装が決定した。


 必要な材料が具体的に割りだせたので、次は原木の加工に入るのだとカトリが教えてくれた。

 これは素人でどうこうできるものではないので、材木店に依頼して用途別に加工してもらった。


「お父さん、カコウって何をするの?」

「この丸太を綺麗にして、すべすべにするんだ」

「すべすべになるの……!?」


 ラビは目を輝かせている。

 どうやら興味があるようなので、カトリと一緒に加工を見学させてもらうことにした。


 原木はまず皮むきしてから、角材にしていくようだ。

 カンナをかけたり、抜け節を埋めたり。

 丸の木から、様々な工程を経て、どんどん形が変わっていく。

 最終的に、つやつやになった木を触らせてもらったラビは、面白がってきゃっきゃと声を上げた。


「わあ、ツルツルだあ!」


 目を輝かせるラビに、材木店の職人たちが笑顔を向ける。

 全員屈強なおっさんたちなのに、目じりが垂れまくっていた。

 俺もだいたいあんな感じなんだろうな……。


「お父さん、すごいね。あっという間に木が四角くなったね!」

「ああ。まさに職人技だな」

「ラビちゃん、職人さんを応援しようか」

「うん……が、がんばってください……!」


 カトリに言われて恥ずかしがりながらもガッツポーズを作るラビは、天使のような可愛さだ。


「ダグラスさん、あんたの娘は可愛いなあ」


 そうだろう、そうだろう。


「こんなかわいい応援団がいたら、はりきっちゃうぞ!」

「ラビちゃん、おじさんにも頑張れって言ってくれるか」


 む!?

 ちょっと待った!


「お、おいおい! ラビは俺の娘だぞ! そういう依頼は俺を通してからにしてくれ!!」

「お父さん……」


 俺が慌てると、職人たちはげらげらと笑った。

 ラビは目を白黒させている。


「英雄ダグラスも、娘には弱いんだな!」


 過保護と言われようが構わないぞと開き直る俺を見て、職人たちが明るい笑い声を上げた。


 結局、ラビの応援の甲斐もあり、木材の加工は手早く終わったのだった。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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