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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

11章 蘇れ! 『豚の夜鳴き亭』編

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91話 おっさんと少女、地鎮祭に参加する

 材料も集まり、図面も完成した。

 それと併せて行われていた解体作業も無事終わり、『豚の夜鳴き亭』があった場所は完全な更地に戻った。

 これで施工に着手出来るのかと思ったら、その前に重要なイベントがあるのだという。


「地鎮祭?」

「はい。土地の精霊にお供え物をして、工事の安全と建物への護りを祈願するんです」

「ほお。確かにそれは大事な行事だな」

「地鎮祭のあとにある『建前』と一緒に、大昔、東から伝わってきた文化らしいです!」


 土木工事や建築の際には、地鎮祭を必ず行うらしい。

 俺も色んな世界を見てきたが、家を建てることには縁がなかったから、すべてが新鮮だ。

 段取りもカトリが熟知していたので、彼女の指示のもと、皆で準備に取りかかることとする。


 俺とラビ、ルーイとニキは、カトリが言ったお供え物を買い集めてくることになった。

 神殿に行き、地鎮祭の依頼をして日程を調整するのは、施主であるエイハブたちが行う。

 以前、宿を建てたことがあるので、それに関しては問題なさそうだ。

 カトリは俺たちをまとめて、抜けがないようチェックをする係となり、準備は順調に進んでいった。


 ◇◇◇


 そして、ついに地鎮祭当日がやってきた。


「ようやくこの日がきたな」


 更地になった土地の前で、エイハブが感慨深そうに言う。


「カトリちゃん、あんたのお陰だ。ありがとう」

「いえいえ、そんな!」

「カトリ、なんでそんな隅の方にいるんだ? 今日は施主であるエイハブ一家と棟梁のおまえが主役だろう?」

「あ……それなんですけど……」


 カトリが何か言いかけたところで、ちょうど馬車が到着した。


「お父さん、あのおじいちゃん誰……?」

「神殿から来た御遣いだ」


 ラビがおじいちゃんと言った通り、御使いは老齢の男性だった。

 頭も髭も真っ白で、白い装束を身に纏い、杓を手にしている。左右に若い男を二人連れていた。

 御使いは馬車から降りると咳払いを一つして、しずしずとした足取りで、『豚の夜鳴き亭』跡地の前に立った。


「まずは、この地に結界を張らせていただきます」


 御使いが唱えたのは、結界スキルの呪文だった。

 土地一帯を覆うようにして結界が張られる。


(魔除けの結界か……)


 詠唱の言葉からすぐにわかった。

 これは悪霊の類を遮断する結界だ。

 もちろん人間や悪意のない生き物は出入りできる。


 荘厳な雰囲気の中、みんなで静かに様子を見守る

 結界の構築が終わったあとは、助手たちの手によって土地の四隅に塩がまかれた。

 そのあとは、土地の真ん中に祭壇が用意された。

 果物、魚、酒、稲などが祭壇に祀られ、着々と準備が進んで行く。


「お父さん……」


 好奇心の強いラビが、隣にいる俺に小声で尋ねてくる。


「どうしてご飯を並べているの?」

「ああやって精霊に捧げるんだ。精霊の力を貸してもらうお礼に、食べ物を渡すんだよ」

「精霊もごはん食べるんだね。何が好きなのかな……」


 子供らしい感想が微笑ましい。

 準備が整ったら、儀式がはじまる。


「施主と施工業に関わる方々は、結界の中に入って下さい」


 助手の指示を受けて、エイハブがまず結界の中に入った。

 妻と娘のダイアナは、そこから動かずに待っている。


「奥さん。一緒に行かないのか?」

「ええ。前に建てたときに言われたんですが……」

「結界の中に入れるのは男性のみです」


 助手が補足するように言う。

 その言葉を聞いて、俺は顔を顰めた。

 またか……。

 あの職人ギルドでの一件と同じだ。


 カトリのほうを見ると、彼女は最初から承知していたのだろう。

 片隅で様子を見守ったまま、結界の中に入ろうとはしていなかった。


「ダグラスさんは、エイハブさんと一緒に儀式に参加して下さい。ラビちゃんは私とここで待っていようね」


 ニコッと微笑んだカトリが、ラビに向かって手を差し出す。

 ラビは戸惑ったように、俺とカトリを見比べて問いかけてきた。


「お父さん。私はここで待ってるね。……でも、ダイアナちゃんたちだけは、一緒に入ったらだめ……?」

「ラビ……」

「ダイアナちゃん、おうちが出来るの楽しみにしてるんだよ。でも、これじゃ……」


 俺はこのラビの質問に対して、「そうだ」なんて言いたくなかった。

 だっておかしいだろ。

 今、この場で行われていることはいったいなんなんだ。


「御使い殿。教えてくれ。どうして女性が結界の中に入ったらいけないんだ?」

「すみません。そういう決まりなので」


 助手が答える。

 俺は食い下がった。


「どうしてそういう決まりなんだ?」


 無知なものを見る目で、助手は諭すように言った。


「女性は穢れているので、神聖な儀式に参加することはできないのですよ」

「穢れてるだって……?」


 俺はついに堪忍袋の緒が切れた。


「女性が穢れているなんて誰が言った? どこが穢れているんだ? 男と何が違う? どうしてそんな妙なことを言う?」

「そ、それは……」


 矢継ぎ早に問いかけられて、助手はたじろいでいる。

 エイハブ夫婦やカトリがびっくりした顔をしているのが視界の端に映った。


「エイハブ、すまない。晴れの日を台無しにしてしまって。でもこれに関しては、どうしても納得がいかないんだ……」

「ダグラス……」


 エイハブは驚いた顔をしていたが、やがて頷いた。


「いや、いい。俺も実は納得がいかなかったんだ。だが、そういうものだと言われて、そうなのかと思ってしまった」

「ああ。俺ももしかしたら、職人ギルドの一件がなければ、同じように思っていたかもしれない……」


 俺は俯く。

 今までは俺も、女性だけがそんな風に遠ざけられている場があるということに、気づけていなかった。

 そんな自分を情けないと思い、反省している。


「助手さん、これは施主が受ける儀式なんだろう?じゃあ、女性が一人で家を建てるときはどうするんだ?」

「女性が一人で家を建てようとしたことなんてありませんよ」

「今後、絶対にないと言い切れるのか。それはなぜだ?」

「そ、それは……」


 女が一人で家を建てない。

 そういう決めつけだって、おかしいだろう。


「うちの子供は女の子だ。俺にとって何より大切な存在だ。俺はこの子を、今のような理不尽な差別から守らなければいけない」


 俺はラビを見た。


「この子が将来家を建てたくなったとき、この子はきっと一生懸命に金を溜めて頑張るだろう。でもそれが出来たとき、こういった儀式をこの子ひとりでは受けられないのか? 女が家を建てるときは、精霊の加護が得られないと?」

「そ、そういうわけでは……」

「あんた矛盾しているぞ」


 俺は助手に語りかける。


「女性が穢れているなんて、そんな最低な発言を当然のように主張して、平気でいられた事実に今一度目を向けてみろ。それでも自分が正しいと言い張れるか? 自分の妻、彼女、母親、娘、誰でも良い。大切な存在が『女だから』という理由で理不尽な差別を受けていても、なんとも思わないのか?」

「……それは……」


 助手は反論できないようだった。

 するとエイハブが松葉杖をつきながら、俺の隣にやってきた。


「俺もこいつと同じ気持ちだ。ここに建てる家で一緒に生活していく大事な家族や、その家を建ててくれる大工さんを参加させずに、儀式を行うなんて間違っている。それでもまだ結界の中に入るなというなら、いっそ地鎮祭なんて行わなくていい」

「エイハブ……」


 エイハブはきっぱり言い切ると、俺の背中をぱんっと叩いてくれた。


「ダグラスさん、ありがとう」


 そう言ったのはエイハブの妻だ。


「私たち、ずっと諦めて来たわ。何を言っても変わらないって。でも……」

「そんなことを言い出した男性は、あなた方が初めてですねえ……」


 御使いの老人がそこで初めて口を開いた。


「いいでしょう。女性も一緒に受けようではありませんか」

「よ、よろしいのですか!?」

「精霊はそれほど了見が狭くない。祝福はみんなに与えられるものですよ」


 御使いの老人はそういって頷いた。

 促されて、俺たちは今度こそ結界の中に入ることになった。


「地鎮祭に参加できるのなんて、はじめてです」


 カトリは嬉しそうに俺を見上げる。


「ありがとうございます、ダグラスさん。精霊の力を借りて、私ますますがんばります!」

「ああ!」


 予定の時間より少し遅れてしまったが、皆の気持ちがひとつになったところで、地鎮祭がはじまった。

 神の御使いが唱える祈りの言葉が、夏の日の晴れた空に朗々と響く。

 俺たちは男も女もなく、工事の安全と『豚の夜鳴き亭』繁盛を祈願して、祈りを捧げた。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
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