元裁判官「訴因変更、一審に戻すべきだった」 今市事件
朝日新聞デジタル - 2月8日(月) 9時51分
(朝日新聞デジタル) |
栃木県今市市(現日光市)の小1女児が殺された今市事件。昨年3月、殺人罪などに問われた勝又拓哉被告(38)の上告を最高裁が棄却し、無期懲役の控訴審判決が確定した。この1年、裁判所の手続きや判断について批判の声を上げてきた元裁判官の木谷明さん(83)に問題点を聞いた。
◇
——東京高裁が検察に訴因変更をさせて一審判決を破棄し、自判して無期懲役にしました。
殺害日時と殺害場所について「12月2日の午前4時ごろ、死体遺棄場所の林道で女児の胸をナイフで多数回刺して失血死させた」となっていたものを、「12月1日午後2時38分ごろから同月2日午前4時ごろまでの間に、栃木県内または茨城県内またはその周辺において」とした。当初の訴因を大きく拡大したもので、これまでの変更事例とは明らかに次元が異なる。事後審の控訴審では到底許されるものではない。
裁判員裁判に関する控訴審の権能は、裁判員を交えた裁判体が示した事実認定を事後的に審査するにとどまるものと理解されなければならない。
変更後の訴因は、一審裁判では審理されていない。裁判員を交えた裁判体の判断がいまだ下されていない予備的訴因に対して控訴審が自判することは、せっかく軌道に乗りつつある裁判員裁判の趣旨に反するだけでなく、将来の崩壊・形骸化に連なる重大な問題である。自判ではなく、せめて一審に差し戻すべきだった。
——控訴審では殺人容疑で逮捕勾留中に作成された自白調書の証拠能力について肯定しました。
そもそも法的に許されない身柄拘束を利用した取り調べで証拠能力はない。控訴審は、殺人罪に先立ち、商標法違反罪で起訴した後の身柄拘束期間を使い、被告人を44日間にわたる取り調べをしたのは、社会通念上是認されないものであったと認めている。殺人容疑で逮捕前に44日間も殺人に関する強制捜査を受けていたことになる。
取り調べで被告が殺害を否認すると、警察官から治療を受けるほどの激しい暴力を受けた疑いは払拭されていない。このような事実関係があれば、自白の証拠能力は否定されるべきだ。