2018年10月より放送がスタートしたTVアニメ『風が強く吹いている』。三浦しをんによる原作小説が2006年に刊行されて以来、漫画やラジオドラマ、舞台、実写映画といったメディアで表現されてきたが、TVアニメになるのは今回が初めて。物語は、肌寒い夜、寛政大学4年の清瀬灰二(ハイジ)と蔵原 走(カケル)が出会ったところから始まる。2人を含め、竹青荘(通称・アオタケ)に下宿する個性豊かな10人の大学生が箱根駅伝を目指す姿を瑞々しく描いた本作。今回は大塚剛央(カケル役)、豊永利行(ハイジ役)、興津和幸(岩倉雪彦=ユキ役)、株元英彰(ムサ・カマラ=ムサ役)の4人に作品の魅力や互いの印象など、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / とみたまい 撮影 / 小賀康子
シナリオの冒頭から、主人公がパンを盗んで逃げていてビックリした
『風が強く吹いている』について、初めてこの作品に触れた際の印象はいかがでしたか?
大塚剛央 オーディションのお話をいただいて初めて知った作品でしたが、「箱根駅伝がテーマなんだ。どんなふうになるんだろう?」って、最初は全然想像がつかなかったんですね。でも、その後に原作を読んで……箱根駅伝を目指すことや走ることについてはもちろんですが、それと同じくらい、それぞれの大学生たちの青春が描かれていて……。
“スポーツもの”ではありますが、ただのスポーツものではなく、これから社会に出ていこうとしている大学生たちの未来をも見据えたうえで、箱根駅伝への挑戦を描いているんだなあと感じました。走ることを通して、それぞれのキャラクターが成長していくのがすごく印象的で、読んだ後に「ああ、青春だな」って思いました。
大塚剛央(写真左/蔵原 走=カケル役)、豊永利行(写真右/清瀬灰二=ハイジ役)
豊永利行 僕もオーディションのお話をいただいてから原作を読んで、実写映画も観ましたが……箱根駅伝を目指す“スポ根系”の物語というより、ヒューマンドラマに重きが置かれているのかな? 裏にどういうメッセージが含まれているんだろう? 人の思考や感情を読み解いていく作品なのかな? といったように、いろいろと感じるところがありましたし、三浦先生の細かい描写をアニメーションではどう表現するんだろう? というのも気になりました。
あとはやっぱり“大学生らしさ”がありますよね。中学生や高校生だったら、もっと直情的になるようなシーンでも、それぞれが言葉を選んで喋っているようなところが垣間見られるので……、その奥深さがアニメーションになったときに、どうデフォルメされていくんだろう? って、楽しみなところもありましたね。
興津和幸(岩倉雪彦=ユキ役)
興津さんはいかがでしょう?
興津和幸 コンビニ泥棒が主人公でビックリしました。
大塚・豊永・株元 あっはっはっ(笑)。
豊永 いま興津さん、(その答えを)用意してました?(笑)
株元英彰 質問に食い気味で答えていましたよね(笑)。
興津 だって……ねえ? シナリオを読んだら、いきなりカケルが逃げてましたから(笑)。
1話の冒頭から、いきなり「万引きでーす!」でしたからね(笑)。
興津 うん、いきなり(笑)。PVだけだと“爽やか青春ドラマ”っぽく映ったかもしれませんけど。
豊永 パンを盗んで逃げてるだけだから(笑)。
興津 そうそう(笑)。爽やかさの裏に、それぞれの事情があるんだなって。そういうところが面白い作品だなって思います。
株元英彰(ムサ・カマラ=ムサ役)
株元 僕もオーディションをいただいたときに原作を読みましたが……すでに9人の登場人物で空気が作られているアオタケのなかに、カケルという存在が入ってきて、それぞれの人間関係が少しずつ変わってくると思うんですよね。そういったときに、自分の役だったらどう思うのかな? とかって考えましたね。その後シナリオを読んだときには、原作でものすごく細かく描写されていたキャラクターたちの心理が、うまくアニメーションに落とし込まれているんだなあと感じました。
株元英彰が演じる、タンザニア人“ムサ”のことが「みんな大好き」
大塚さんは口下手で心を閉ざしがちな“カケル”、豊永さんはアオタケの住民を箱根駅伝出場へと巻き込む“ハイジ”という役柄ですが、それぞれ演じる際に意識した点や「難しい」と感じた点はありましたか?
大塚 “走るのが得意で、すごく能力がある”カケルというキャラクターに対して、オーディションをいただいたときから「どうしよう?」って思っていました。僕がまったく通ってきたことのない道を、カケルはずっと走ってきたので……「カケルの見ている世界ってどんなだろう? どういうふうにお芝居していったらいいんだろう?」と、すごく悩みました。
蔵原 走[カケル](声:大塚剛央)
大塚 あと、アニメーションのカケルは原作よりも心を閉ざしているところがあるので、「心を開きすぎないように」というディレクションはいただきました。ですから、「この段階では、まだカケルはそんなに本心を見せない」とか「このキャラクターに対しては、少し本音を出す」といった、それぞれのキャラクターたちとの距離感はすごく意識しています。
豊永 僕の場合は、ハイジのような性格や人柄の役をいままでほとんどやったことがなかったので、ハイジというキャラクターを演じさせていただけるだけで「挑戦だな」とは思っていました。1話~2話の段階では、ただの“やべぇヤツ”っていう……。
大塚・興津・株元 あははは!(笑)
清瀬灰二[ハイジ](声:豊永利行)
豊永 ただ、そういったハイジを演じるときに、狙ってやっているような“策士感”はあんまり出さないようにしようと心がけていましたね。もちろん野村(和也)監督からのディレクションもありましたが、ハイジには「この10人で箱根を目指したいんだ」っていう純粋な心を持っていてほしいから……あんまり嫌味ったらしくならないように、皮肉っぽくならないように。まあでも、2話の「コイツやべぇな」っていうところから、僕はなかなか抜け出せなかった部分もあるんですけど(笑)。
興津 あのハイジは、豊永さんにしかできないですよ。(いい声で)
豊永 いやいや、先輩やめてください(笑)。でも、なんていうか……ハイジの飄々としたところは僕個人が持っている性格のなかにもあったりはするので、そういったものがうまく合わさっていければ、物語が進むにつれて段々ハイジに馴染んでくるのかなあって思いますね。
岩倉雪彦[ユキ](声:興津和幸)
興津さん演じる“ユキ”も、“司法試験に合格済みで、毎晩のようにクラブに通う”個性的なキャラクターですね。
興津 ムサさんには敵いませんけど(笑)……ユキは走りたくないんです。だから、ハイジに流されないように自分をしっかり持とうと思って、夜な夜なクラブに出かけているんです(笑)。だってね、普通「箱根駅伝で走ろう!」って言われて、「走りたい!」とは思わないから。
株元 みんな普通ですよね? 大体ああやって拒否しますよね。
興津 そうそう、みんな普通なんです。だから普通に演じていますが、あえて言うならば僕はチャラい人間ではないので、「チャラさを出してください」って言われたのが難しかったかなあ……株元さん、なんで僕のほうをじっと見てるんですか?
大塚・豊永 (笑)
株元 いえいえ、「そうなんですね」と思って(笑)。
興津 そうそう。クラブも行ったことないから。動画サイトで研究して、「クラブってこんなところなんだ」って……ウソです!
豊永 ウソなんだ!(笑)
興津 でも監督は、「動画サイトでクラブの雰囲気を研究した」って言ってましたよ。「クラブだと、どんなふうに音が聞こえるのか」とか、そういったところもこだわって作られているので、僕も頑張ってチャラくなろうって思いました。
株元さん演じる“ムサ”は、タンザニア出身の国費留学生ということで……。
株元 みなさんはまだ、いいほうですよ? 天才ランナーは頑張ればもしかしたらなれるかもしれないし、チャラくなろうと思えばなれるし。でも、外国人はさすがに「なろう」と思ってもなれないですから(笑)。
日本語を巧みに扱うキャラクターというのはわかっていましたが、「だとしても、外国人だし」っていうのが最初は頭のなかにあって、すごく引っ掛かっていたんです。そこを意識しすぎると演技ができなくなるので、監督からも「外国人というのは意識しないでください」って言われて……。
なので、ムサの独特な言い回しだったり、言葉のチョイスだったり、キレイな日本語を使おうとしているところを意識するように心がけました。外国人であることを意識するのではなく、“ちゃんと言葉を選んで喋る、優しい人”というのを意識する感じですかね。
ムサ・カマラ[ムサ](声:株元英彰)
興津 株元さんのムサは、すごい素敵です。
大塚 すごいです。
豊永 ほんと、すごいです。
株元 (照れながら)マジでやめてください!
興津 海外で生活した経験があるとか?
株元 ないですないです(笑)。
豊永 「あれ? タンザニアに行ってきたのかな?」って。
興津 ずっと日本にいるんですか?
株元 ずっと日本ですよ、もちろん(笑)。日本語しか喋れませんよ。
ムサのお芝居も見どころのひとつということで……株元さん、熱いですか?(照れて熱くなり、顔を仰ぐ素振りをみせる株元さん)
株元 はい……。
興津 みんなムサのことが大好きですから。
豊永 みんな大好き。
大塚 大好きです!
株元 ……僕も大好き(笑)。みんなも大好きでいてくれたら嬉しいなって思います。