【先生ができること(6)】全ての子どもに包括的性教育を

弁護士 太田 啓子
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子育て中の親としてとても気になっていることの一つに、日本では一部の熱心な教員以外では、十分な包括的性教育を受けられないということがあります。

著書『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』で詳しく書いたのでここでは概要のみにとどめますが、私は性教育に関連する漫画や本で良いと思うものを見つけると、子どもの目に届きやすいところに置いてきました。息子たちの幼児期には絵本を使うなどして「プライベートゾーン」について、「水着で隠れるところはその人だけの大事な場所」と説明してきました。小6の長男は、妊娠の仕組み、月経、精通、避妊のための具体的方法についての基本的知識を漫画で身に付けました。読んでも分からないことは「ママ、性感染症って何?」「受精と精子って何が違うの?」などと聞いてくるので、その都度、決してもじもじしたりごまかしたりせず、理科の質問に答えるような態度で答えています。ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によれば、12歳までに「どのように妊娠するのか、避けられるのかを説明する。避妊方法を確認する」ことが目安とされていることもあり、決して早すぎるとは思いません。思春期に入る前に最低限身に付けてほしい基本的知識は、長男にはどうにか教えられたかなと思っています。

包括的性教育を受けさせたいと思うのは、仕事を通じて、性被害や夫婦間の性的DVが決して少なくないという実感があるからです。私が扱う離婚案件では、「避妊に協力しない」「意に反する性行為を強要する」「妻を盗撮する」などの性的DVに及ぶ夫の話をよく聞きます。妻に対し性的尊厳を傷つけるような接し方しかできず、そのことに何の問題意識も持てない男性を見るにつけ、パートナーが離れていってもなお内省を深めることもしないということに暗たんたる思いがします。そして、子どもの頃からきちんとした性教育を施していれば、こういうことの何割かは防げたのではないかと思います。

包括的性教育は他者と良質な関係性を築くため、自分の体も他人の体も尊重するために必要不可欠なものです。家庭の方針の差で、身に付けられるかどうかが変わるようなことではやはり駄目です。

学校で全ての子どもが包括的性教育を受けられるように、近い将来、学習指導要領を変えられるような機運をつくっていきたいと思っています。


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