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においや味がわからない後遺症の深刻さ:新型コロナウイルスに感染した料理人やパティシエ、ソムリエの苦悩

新型コロナウイルスの感染者のなかには、においや味がわからなくなる後遺症に苦しんでいる人も少なくない。なかでも料理人やパティシエ、ソムリエといった飲食にかかわる人々にとっては、キャリアに大きな影響を及ぼしかねない深刻な事態だ。

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ヴィーガンのパティシエであるフィリツァ・グレイは、デイリーフリー(乳製品不使用)のバタークリームを口にしたとき、あることに気づいた。味覚と嗅覚が機能しなくなっているのだ。2020年3月、ある日の午後のことである。

最初は単に「おかしいな」と思った。自分の嗅覚は、においを壁越しでもかぎとれるほど鋭いと知っていたからだ。その後、強い倦怠感に襲われ、「これは大変なことになった」と気づいたという。

グレイは5年前にヴィーガン向けのケーキ店を始めたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかって数カ月は、味も香りも何もわからなくなってしまった。検査結果が陰性になっても症状は続き、7月には刺激性異嗅症と診断された。においを正しく識別できなくなる嗅覚の病気のことだ。

ひよこ豆は炭火で焼いた魚の皮のようだったし、普通の水は薄めた漂白剤の味がする。オートミールのお粥はプラスティックのレジ袋を食べているようで、チョコレートは排泄物と同じにおいがしたという。

それでも店を閉めるわけにはいかなかった。グレイは「そのときもケーキは焼いていて、普通に仕事を続けていました」と話す。「いまだに『実はこんなことがあったのよ』と言うときには、非常に恥ずかしく感じてしまいます。誰にも知られたくありません」

彼女はロンドン在住で、Instagram経由で注文を受けたケーキや菓子を自宅でつくって発送している。フォロワーは順調に増えており、有名人の顧客も多い。新型コロナウイルスに感染したあとも、100種類以上のケーキを焼いたという。ボーイフレンドも一緒に感染したが、嗅覚も味覚もすぐに元通りになったので、いまはすべてのケーキの味見をして品質管理をしてくれている。

グレイはこう話す。「ストレスのためにキッチンで本当に何回も泣きました。目の前で味見してくれる人がいなければ、もうお手上げです。完全に絶望して『もうやめてしまおう』と思うのですが、そうするわけにもいきません」

職を失う恐れに直面

英国では昨年、ホスピタリティ業界は1年のうち最も売り上げの高い季節に店を閉めなければならなかった。ロックダウン(都市封鎖)が終わって営業を再開すると、レストランや市場、食料品店で働く人たちはエッセンシャルワーカーに含められた。つまり、仕事をしているだけで新型コロナウイルスに感染するリスクが高いということになる。

こうしたストレスに加え、食品業界で働く人たちは味やにおいがわからなくなることで職を失う恐れに直面した。嗅覚の異常は当初、英国政府が示したウイルスへの感染の有無を判断するためのチェックリストには含まれていなかった。その後、においがわからなくなるのは最も一般的な症状のひとつであることが徐々に知られるようになり、現在は感染者の半分以上が嗅覚障害もしくは味覚障害を発症することが明らかになっている。

嗅覚や味覚がおかしくなった人のうち3分の2は、6〜8週間以内に回復する。しかし、数カ月が過ぎてもこの状態が続くことも多い。ただ、パンデミックが始まってからまだ1年であることから、長期的な影響についてはほとんどわかっていない。

ソムリエの致命傷に

この後遺症に対する不安は、ワイン業界や高級レストランにも広まっている。ワインにかかわる者にとって嗅覚の喪失は致命的であり、取材したソムリエのうち数人からは匿名にすることを求められた。

ロンドンの高級レストランで働くあるソムリエは、アスリートがひざの靭帯を痛めるようなものだと説明する。アスリートの前十字靭帯(ACL)損傷は、かつては自動的に選手生命が絶たれてしまうほど恐ろしいものだった。

ソムリエの嗅覚が損なわれてしまうと“きず物”というレッテルを貼られるか、この仕事には不適格とみなされるという。また、こうした嗅覚異常が求職活動において負の要素になることを懸念する人たちもいた。

以前ある高級レストランでワインのバイヤーをしていた人物は、半年間もコロナによる嗅覚障害に悩まされている。このため、いまは仕事ができないのだと語る。「ワインのニュアンスを見つけるすべを失った」からで、自分で楽しむために高価なワインを買うのもやめてしまったという。

英ソムリエ協会副会長のフェデリカ・ザンギレッラは昨年3月に嗅覚を完全に失い、回復するまで数カ月かかった。彼女はワインのテイスティングのコースの講師をしており、参加者にワインをどう味わうかを教えている。

「わたしも経験したので、どれだけひどいことか身をもって理解しています。長期間にわたって味もにおいも本当に何もわからなくなるのです」と、ザンギレッラは言う。「レストランで働いているなら、自分に起きたことを受け入れるのは難しいでしょう。ある意味、仕事をするにはふさわしくないからです」

ワインの貿易に携わっていたティム・ニコルズにも、同じようなことが起きた。ニコルズはワインを専門に扱う会社のオーナーの孫で、人生を通じてワインの世界で働いてきた。最初に働いたのはオークションハウスのクリスティーズで、著名なワイン評論家で「マスター・オブ・ワイン」の資格保持者でもあるマイケル・ブロードベントが在籍していたころの話だ。

ニコルズの場合、鼻がおかしいと気づいたのは5月のある日、妻がつくってくれた昼食を食べていたときだった。いまも完全には回復していない。彼は「もちろん、いいことではありません。まだワイン業界で働いていたなら、非常に不安になっていたと思います」と語る。

「心配なのは、わたしは多くを記憶に頼っているという点です。ベートーヴェンに似ているかもしれません。ベートーヴェンは素晴らしい音楽を生み出しましたが、自分の曲を聴くことはできませんでした。わたしは、いまの状態では誰かにワインを薦めたいとは思いません」

ニコルズは特にクリスマスは憂鬱だったという。「自分の味覚や嗅覚が奪われるなんて、考えたこともありませんでした」

嗅覚の喪失が起きる理由

嗅覚は味覚と深く結びついているが、人間がにおいをかぎ分ける仕組みは完全には解明されていない。味覚については、舌のそれぞれの領域が特定の味と結びついているとされる「味覚地図」が、実は誤りであることが明らかになっている。

さらに、人間の身体がにおいを処理する方法の背後にあるメカニズムも、科学的に完全にわかっているわけではない。こうしたこともあり、研究者や医療関係者にとって、新型コロナウイルス感染症による嗅覚障害は、当初はまったくの謎だった。

現在は、嗅覚の喪失はウイルスが嗅上皮の支持細胞を破壊するために引き起こされると考えられている。嗅上皮は鼻腔の上部のにおいを検知する領域で、嗅細胞と支持細胞で構成される。これらの細胞が損傷を受けると、新しい細胞をつくって脳とのつながりを再構築する必要があるのだ。刺激性異嗅症は、細胞が再生していることを示すものだと考える科学者もいる。

嗅覚や味覚といった五感の障害は、精神面でも大きな影響を及ぼす。耳鼻咽喉科(ENT)の専門医でLondon ENT Surgeonsで働くイルファン・サイドは、「嗅覚は非常に軽視されています」と指摘する。

「視力や聴力を失うと重大な障害とみなされますが、においがわからなくなったと訴えても、必ずしも同情してもらえるわけではありません。実際に嗅覚に問題が生じたことがない限り、日々の生活にどのような影響が出るかきちんと理解することはできません」

サイドが指摘するように、嗅覚障害はこれまではどちらかと言えばニッチな病気だった。ただ、いまでは彼のクリニックには患者が押し寄せており、その多くが不安やうつなどの精神的な問題を抱えている。

広がる精神面への影響

NPOのFifth Senseが嗅覚に障害をもつ496人を対象に実施した調査では、57%が感覚異常により孤立を感じていることが明らかになった。また、全体の半分以上は落ち込んだり不安を覚えたりすることがあると答えている。さらに、嗅覚が機能しなくなると、女性のほうが男性よりも社会的および家庭内で問題を抱える傾向が著しく高いことも明らかになった。

英国鼻科学会会長のクレア・ホプキンスは、英国政府が公表する新型コロナウイルス感染症の典型的な症状のリストに、嗅覚異常を含めるよう最初に提言した人物だ。それだけでなく、ホプキンスは患者の精神面への影響にも注目するよう促している。

「患者は家族や友人に何が起きたか説明するのに非常に苦労します。また、かかりつけ医や耳鼻科の医師から適切なサポートを得られないこともあります」と、ホプキンスは語る。「患者は医師が親身になってくれず、生活にどれだけ影響が出ているか理解してくれようとしていないと感じるのです」

ホプキンスはまた、次のようにも指摘する。「目に見えない障害であるためことで、患者自身が自分は本当に問題を抱えているのか疑問視するようになります。ほかにも同じ状態に陥っている人がいると知ることが、非常に重要です」

“長期戦”と向き合うということ

新型コロナウイルス感染症の長期的な影響に関する研究が進む一方で、多くの人は感染の後遺症を抱えながら暮らしていく方法を学ばなければならない。ホプキンスの患者には、新しい料理を模索しながら仕事を再開したレストランのシェフがいるという。

彼女はアイスクリームのベン&ジェリーズの話を引き合いに出しながら、「こうしたシェフたちの料理は変化し、食感が重要になっています」と説明する。ベン&ジェリーズの共同創業者のベン・コーエンは先天性の嗅覚障害の持ち主で、食感にこだわるあまり、アイスクリームに入れるクッキーやチョコレートの固まりを次第に大きくしていったのだ。

また、自分なりの答えを見つけられずに苦しんでいる人たちのためには、オンラインのコミュニティが存在する。嗅覚障害者のためのチャリティー「AbScent」が20年3月にFacebookで立ち上げたグループには、2,000人以上の参加者がいる。

このFacebookグループでは参加者たちがレシピを投稿したり、刺激性異嗅症とどう付き合っていけばいいかといったことを話し合っている。楽観的になれるエピソードを紹介するメンバーもいた。AbScentはフォーラムや支援組織も運営しているが、ほかにも多くの人が集まる同じような自助グループがいくつかある。

パティシエのグレイは、オンラインのコミュニティで知り合ったヴィーガンの人たちと一緒に、嗅覚が働かなくてもおいしく感じられるレシピを考えている。グレイは「いまの自分にできることに集中することを学びました」と言う。

「ネガティヴなことを考えないようにすれば、仕事をやり遂げることができます。これは長期戦で、ひと晩ですべてが解決したりはしないということを受け入れなければならないのです」


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コカ・コーラ ボトラーズジャパンのCSVを統括する執行役員のレイモンド・シェルトン(左)と、サステナブルストラテジー部の近藤彩子(右)が、あえて“高い目標”にしているというコカ·コーラシステムの「容器の2030年ビジョン」とその達成への道筋を語ってくれた。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

「設計・回収・パートナー」が循環する社会へ:コカ·コーラ ボトラーズジャパンはこうして廃棄物ゼロ社会を実装する

コカ・コーラ ボトラーズジャパンが製造・販売する天然水「い·ろ·は·す」で使用されているペットボトルが、100%リサイクル素材でできているのをご存知だろうか。ペットボトルのリサイクルにおいて“高い目標”を掲げるコカ・コーラシステムの一員としてサステイナブルな取り組みを続けているコカ·コーラ ボトラーズジャパン。今回は同社が達成を目指す「容器の2030年ビジョン」について話を訊いた。

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「コカ·コーラシステム」で取り組むサステイナビリティ

コカ·コーラシステムは、「日本コカ・コーラ」と5つの「ボトラー社」などで構成されている。簡単に言うと、販売されている各種製品の“IP”をもち、新製品の企画開発と原液の製造をするのが日本コカ·コーラであり、日本コカ·コーラから“宝物”である「コカ·コーラ」や「綾鷹」などブランドの原液を仕入れ、缶やペットボトルにする製造部分と消費者への販売、さらに使用済み缶・ペットボトル回収、リサイクルまでを担うのがボトラー社だというわけだ。

日々、わたしたちが手にするコカ·コーラ社のペットボトルはボトラー各社が製造したものであり、さらにボトラー各社が地域に密着したリサイクル活動にも取り組んでいることは、意外と知られていない。

ボトラー各社のなかでも国内最大規模の1都2府35県を担うのが、コカ·コーラ ボトラーズジャパンだ。17年にコカ·コーライーストジャパンとコカ·コーラウエストが統合し、国内最大のボトラーとなったことで、日本コカ·コーラと「ワンボイス」で目指すべきサステイナビリティの方向性を策定することができるようになった。

今回はこのコカ·コーラ ボトラーズジャパンでCSV推進部を統括するレイモンド・シェルトンと、実働部隊としてその実装に尽力するサステナブルストラテジー部の近藤彩子に、自ら“高い目標”を掲げる同社の環境施策とその達成への道筋について話を訊いた。

100%リサイクルペットボトルが使用されている同社製造・販売の「い·ろ·は·す 天然水」。20年4月から販売開始された、より環境に配慮された「い·ろ·は·す 天然水ラベルレス」の製品(左)は、現在ケース販売のみとなっており、通常ラベルに記載される原材料名などの法定表示は外装ダンボールに記載することで、ラベルレス製品としての販売が可能となっている。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

「い·ろ·は·す」は100%リサイクルペットボトル

「街の自動販売機を利用したことがない」という人はどれだけいるのだろう。おそらく圧倒的に少ないはずだ。

街にあるコカ·コーラ社の自動販売機横にはリサイクルボックスがあり、人々はそこに飲み終わったペットボトルや缶を捨てる。このリサイクルボックスはコカ·コーラ ボトラーズジャパンが回収し、捨てた空容器がリサイクルされていることを「なんとなく」知っている人も多いだろう。

現在、ペットボトルは「100%」リサイクルが可能だ。使用済みペットボトルを原料化し、新たな飲料用ペットボトルに再利用することを「ボトルtoボトル」という。例えば、「い·ろ·は·す 天然水」は以前ボトルの30%にリサイクルペット素材を使用していたが、20年3月からは100%リサイクル素材となった。

シェルトンは「新しいペットボトルは石油からつくられますが、『ボトルtoボトル』では新たな石油を使う必要がありません。このプロセスによってきれいな循環をつくることができます」と語る。

「い・ろ・は・す 天然水」の場合、「ボトルtoボトル」により、石油から新規に製造されるプラスチックの使用量は、年間で「およそ自動車4,000台分の重さ相当」削減できる。CO2排出量は、石油由来100%のペットボトルと比較し、1本あたり49%削減可能になるのだ。

「容器の2030年ビジョン」が、「設計」「回収」「パートナー」によっていかに実現されようとしているのか。動画内ではその実現までの道筋が解説されている。

課題は利用者への認知向上

近藤にリサイクルのプロセスを尋ねると次のように教えてくれた。

「みなさん、自宅でペットボトル飲料を飲んだあとは、リサイクル用に分別して自治体のゴミ収集に出していると思います。そこから先は、回収業者が工場へ運び、集めたものを立方体に圧縮し、それを再生施設で原料に変えています。飲料メーカーだけではなくさまざまなプレイヤーが間に入り、再生のペットボトルとなってみなさんのもとに戻ってくるわけです。そのプロセスはわれわれ飲料メーカーだけでは完結できず、多くの方々の協力があってこそ実現できるものです」

続けてシェルトンは「みなさん、自動販売機の横にあるリサイクルボックスに捨てるでしょう?」と問いかける。

「実際にはゴミ箱だと思って、違うゴミを入れてしまう人も多いと思います。でも、純粋なPET(ポリエチレンテレフタラート)でないとリサイクルのプロセスに問題を起こしてしまいます。回収後、実は手作業で仕分けしているんです。ですから、違うゴミは捨てないで欲しいですね。きれいなペットボトルだけが集まれば、より効率的な循環を促進することができます。消費者のみなさまに知っていいただくことがこれからの課題です」

コカ·コーラ ボトラーズジャパンの執行役員兼IR&コーポレートコミュニケーション本部長を務めるレイモンド・シェルトン。飲料の原液を製造販売する日本コカ·コーラ株式会社と連携して実現を目指す「容器の2030年ビジョン」など、同社のCSVを統括している。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

日本独自の目標設定

もちろん、リサイクルボックスにほかのゴミを捨てるのはご法度。理想の状態は、「ラベルを外し、中もきれいに洗って捨てること」だが、屋外などでは難しい。

近藤はこのように啓蒙を促す。「自動販売機横のリサイクルボックスには、現状ペットボトル・缶以外のごみが約30%入っています。また、飲み残しがあったり、ほかのゴミが入ってたりしているペットボトルだと、再生可能な原料は減ってしまう。これが難しいところです。『リサイクルボックスにごみを入れない』という行動が、新たな石油を必要としない行動やCO2排出が不要なアクションに繋がっていくと思います」

とはいえ、現状、日本のペットボトルの回収率は諸外国に比べて非常に高い。シェルトンは、「投入口の形状に工夫を施すなどリサイクルボックスの改良はされているものの、やはり消費者にペットボトルはゴミではなく“資源”だと理解してもらう必要がある」と念押ししながらも、「きちんと取り組むことで、日本のリーダーシップを世界に見せることができる」と期待を寄せる。

そして、期待値が高い日本だからこそ、グローバルの基準よりも厳しい日本独特の目標を据えているのだ。

米国のザ コカ・コーラ カンパニーでは、18年に「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」を目指すグローバルな目標を掲げている。同年、日本でもこれまでの知見に基づき30年までにすべてのペットボトルをリサイクルPET樹脂または植物由来PET樹脂に切り替えることなどを目指す「容器の2030年ビジョン」という新たな環境目標を策定した。そして翌年の19年には目標を「前倒し」し、よりハードルの高い目標値に更新した。

なぜ、前倒しをしたのか。「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」というグローバルな目標に対し、日本独自の目標設定についてシェルトンはこのように話す。

「22年までには50%リサイクル資材、2030年には90%リサイクル資材にし、残りの10%は少なくとも石油からではなく植物由来からのペットボトル資材をつくる。そうすれば2030年には100%サステイナブルなペットボトルをつくることになります。これは厳しい目標ではありますが、実現可能な目標として設定しています」

「容器の2030年ビジョン」は、「設計」「回収」「パートナー」という3つの柱で構成される。地域社会のパートナーと協働しながら、3つサークルを循環させていくというもの。いかにこのサークルが円滑に回っていくか。その実態を少しひも解きたい。

コカ·コーラ ボトラーズジャパン サステナブルストラテジー部の近藤彩子。廃棄物ゼロ社会の実装に向けて回収業者や再生施設など、さまざまなパートナーと連携しながら環境施策を推し進めている。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

地域で取り組むサステイナブル

街のリサイクルボックスはもちろん、家庭でのゴミ出しももちろん重要だ。20年10月、コカ·コーラ ボトラーズジャパンは、東京都東大和市と「地域活性化包括連携協定」を締結した。これには「ボトルtoボトル」の促進を目的に、「PETボトル自動回収機」を市内に設置し、ペットボトル回収事業に協働で取り組むというものが含まれる。

このプロジェクトについて近藤は「大きな目的は資源循環です。東大和市はリサイクル率を上げ、資源循環をいかにつくるかが大命題でした。お互いの思いが合致してスタートしたプロジェクトです」とし、「経済的な利益だけでなく、社会的側面もしっかり両輪でやっていく必要がある。国や自治体などのステークホルダーも一緒に目標に向かっていかなければいけません」と語る。

「PETボトル自動回収機」は、飲み残しやラベルの有無を自動でチェックし、OKとなれば空容器を取り込んで回収する。週1回、月1回など資源ゴミの回収頻度が自治体によって異なるなかで、「PETボトル自動回収機」を導入することで、定期的に“質の良い”ペットボトルを回収でき「ボトルtoボトル」がより進めやすくなるのだ。

近藤はこう続けた。「ペットボトルのゴミの約半分は家庭から、残りの半分はスーパーなどに置いてあるリサイクルボックスから回収されます。自治体のインフラで回収する割合は大きいですが、住民はいつでも捨てられるわけではないので、捨てる場所を提供して回収すれば確実に循環できると考えました。飲料メーカーがペットボトルとして再生するという責任あるモデルにするためです」

同様の取り組みは、ドラッグストアチェーンのウエルシアともおこなわれている。ウエルシアの一部店頭にペットボトルのリサイクルボックスを配置することで、買い物客から高質なペットボトルを回収するのが狙いだ。

コカ·コーラ ボトラーズジャパンの社員は、全国に2万人近く在籍する。近藤が「“地域に根ざした会社”として活動をしなければなりません」と言うように、自治体や小売業との取り組みからは、同社の地域の“すぐ近くにある”会社としての環境活動が垣間見える。

さらに、ケミカルリサイクル(使用済み資源を化学反応で組成変換させてリサイクルすること)によって使用済みペットボトルから再生ペット原料を製造する台湾のPET樹脂およびポリエステル繊維メーカー「遠東新世紀」との共同プロジェクトにも着手し、数年内の商業化を目指している。20年11月にはその再生PET原料を使った製品が一部地域でテスト販売されるなど、新たな技術にも挑戦中だ。

環境施策を統括するシェルトンとその実装を担う近藤のチームの連携によって「容器の2030年ビジョン」は着実に目標達成に近づいている。米国から日本に来て約15年というシェルトンは流暢な日本語で、時折ジョークを交えながらインタヴューに答えてくれた。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

未来のヴィジョンを考える

最後に、30年まで具体的な目標数値とともに施策を掲げるふたりに「廃棄のない未来」は訪れるのか、それはどんな未来なのかを尋ねてみた。

シェルトンは「“World Without Waste”という考えがとても大事。われわれ、コカ·コーラシステムにはWasteのない世界を実現する力があると思いますし、その責任を強く感じます」と語った。

近藤は「廃棄のない未来がきたら、地球という大きなひとつのエコシステムがつくれると思います。消費者レヴェルも企業も国も、それぞれが一体となり、新たな資源を搾取することもなく、CO2の削減につながっていく。海がきれいになり、生物の生態系も維持されていく。地球自体が持続可能な社会を築くことで、地に足を着けて生きていける。明るい未来になると思います」と語る。

持続可能な未来のために、ペットボトルという、わたしたちにとって身近なものに目を向け、意識を変えていく。技術はすでにある。それを十分に発揮させるためには利用への認知向上が不可欠だ。まずは一歩。明日からでもできる一歩から始めてほしい。

[ コカ·コーラ ボトラーズジャパン株式会社 ]