『テラフォーマーズ』 この映画にはいくつか問題がある。それはどこから生まれたものか、順番に考えていきたい(柳下毅一郎)
→公式サイトより
『テラフォーマーズ』
監督 三池崇史
脚本 中島かずき
撮影 山本英夫
音楽 遠藤浩二
出演 伊藤英明、武井咲、山下智久、山田孝之、小栗旬、ケイン・コスギ、菊地凛子、加藤雅也、小池栄子、篠田麻里子、太田莉菜、滝藤賢一
えー、一部ではいろいろ言われている三池崇史監督作品。原作はヤングジャンプ掲載の人気コミック。26世紀、人類は人口過密に陥った地球を脱出すべく、火星のテラフォーミング(地球化)に着手した。酸素と水を大気に供給すべく、コケ類とゴキブリを火星表面に放ったのだ。五百年が過ぎ、大気も呼吸可能なレベルになり、人間の入植をはじめてもいい頃合いとなった。だが、その前に住み着いたゴキブリを駆除しなければならない。というわけで高い報酬と罪からの赦免を餌に集められた命知らずの十二人が火星に向かう。だが、その火星で彼らを待っていたのは予想もしていなかった怪物だった……
さて、この映画、いくつか問題がある。それはどこから生まれたものか、順番に考えていきたい。なのでいつものようなストーリー説明はしません。そもそもストーリーを語ろうとしてもほぼそれぞれのメンバーの能力説明になってしまうし。
1)そもそも出オチ漫画である。
これが実は最大の問題で、まず最初の出オチが火星に行ったらそこに住んでいたのが急速な進化により直立歩行して道具も使うようになっていたゴキブリ、というかマッチョなG人間。筋骨隆々な上に硬い外骨格を持ち、スーパースピードで移動する二足歩行昆虫だったという奴。で、いかにもヒロイン然として登場した奈々緖(武井咲)があっさり首をポキンとされて死んでしまう。漫画だったらこれで笑えるんだろうけど、映画はこのあと一時間五十分あるからね……そのあとも凄腕のテロリストとして出てきたケイン・コスギが大言壮語してあっさり殺されるとか、ほぼ出オチで笑いを取るばかり。ストーリーとしてどうだっていう話じゃないんだよね。これは映画にする以前の問題なのだ。
2)VFXが酷い。
いや、これはね……まあ言い訳しようがないレベルでGさんの造形と動きが酷い。肌の質感が全然だめ。合成が浮きまくってる。人間が変身したあとの造形もいかにもメイクしました感にあふれている。ただ、これも予想されていた範囲ではある。三池崇史はもともとVFXになど興味ないので、それを実写部分となじませる努力なんてほとんどしていない。というか、そもそも監督にすべてを任せようとするほうがいけないのかもしれない、と『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』をはじめとするアメリカ製ヒーロー・アクション映画をいろいろ見て考えるようになった。いいかげん円谷英二/本多猪四郎の二頭体制システムの意味を考えなおす時期かもしれない(そして樋口真嗣は特撮監督に……)
3)演技が酷い。
これも言い訳しようなし。刈り上げで前髪で顔を半分隠すという謎の髪型でファッションにこだわるマッド・サイエンティスト本多を演じる小栗旬は出てきた瞬間にリモコンで早送りしたくなるレベル。まあここは『進撃の巨人』なんかと同じ。じゃあそれ以外の役者はいいかというと、安心して見られたのは山田孝之くらいで、ほぼ役作りに失敗しているイメージ。不思議なのは菊地凛子で、この人だけは変身したあとの特殊メイクと過剰な化粧で演じる昆虫人間のほうが変身前より全然魅力的なのである(ほかはまったくそうなっておらず、完全にただの仮装になっている)。元があまりに潤いがない容姿だからなのかなあ。ともかく、この人だけはアニメ特撮映画の勘所がわかっているようで、デル・トロ仕込みに嘘はなかった。
4)ブレードランナー。
冒頭登場する人口過密な東京なんだけど、このディストピア描写が完全に『ブレードランナー』。「強力わかもと」のかわりに「ヒサヤ大黒堂」の広告が点滅するんだが、これがかぎりなくダサい。こういうの、ワンポイントのオマージュにするのと、まるっきり真似をするのとはまったく意味が違うんだけど、それくらいわからない三池崇史じゃないと思うんだけどなあ。そろそろ近未来SFでの『ブレードランナー』ごっこも法律で禁止する頃合いかもしれない。
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