消え行く歴史~なくなる地酒『吟雪』~(2)
もう一度、外観なんかが観たい → 「消え行く歴史~なくなる地酒『吟雪』~(1)」
■ 「物が大きすぎるので・・・」
せっかくなので、途中から私も話に割って入った。
私「本当になくなってしまうの、残念ですよね・・・。」
店員「そうですね・・・。」
おじさん「江戸東京建物園とかに、寄付できないもんかねぇ?」
店員「それも検討したんですけど、何せ、物が大きすぎるので・・・。」
おじさん「建物園って、小金井公園にもあるよ?」
私「ああ、建物園とかいいじゃないですか。」
店員「運ぶのにも、ものすごいお金がかかりますし・・・何せ大きいので。」
おじさん「崩した木材とかはどうするの?どこかに寄付するのかい?」
店員「いえ、とにかく大きいので、それはできないんです。普通の木造建築に使う木材の3倍は大きいので・・・。」
おじさん「もう中は見れないんだよね?」
店員「ええ、もう中には(業者の)人が入っているので・・・。」
私「・・・何年くらい建ってたんですか?」
店員「そうですね、一度、火事で焼けているので・・・。それでも100年以上は建ってると思います。」
おじさん「もったいないねぇ・・・。」
その後も「もったいないねぇ」を連発するおじさんだったが、宅配でたくさん日本酒を注文してから帰ってしまった。おじさんが帰った後、レジでお会計をしながら、「本当に残念ですね」という話をした。たまたま来店した訳を話したら、酒蔵の樽を特別に見せてくれるとのこと。言ってみるもんだ。
写真が撮れるとワクワクしていたら、さっき帰ったおじさんが再び顔を出し、「中、本当に見れないんだよね?」と聞いてきた。店員さんは「すみません、業者が入っているので。」と答えていたが、タイミングの良さといいなんといい、コントのようだった。
おじさんがいなくなったのを確認すると、「さあ、おじさんが来ないうちに早く!」と言って小走りで中に案内してくれた。悪い事をしているわけではないのだが、おじさんに見つかるか見つからないかのスリルで、アドレナリンが大変なことになっていた。追っ手から逃げるために逃げ道を広げてくれた、みたいな。きっと店員さんも同じ心境だったのかもしれない。恩人だ。
「さあ!早くこの奥へ!!」
この奥に、大きな酒樽がたくさんあるのかなぁ。とにかく小走りで店員さんについていく。
中に入ると、大きな酒樽がたくさん並んでいた。はしごがかかっており、「写真を撮るならその上に登って撮るといいと思いますよ。」と教えてくれた。親切すぎる、渡辺酒造。はしごをカツカツ登っていくと・・・
どどどーーん。
写真がぼやけているのは私が涙目だったから。
写真では限りがあるが、本当はもっとたくさん写っていた。高さはだいたい3メートル弱くらいあっただろう。はしごを降りる時、無駄にドキドキしてしまった。はやく降りないとあのおじさんが追ってくる気がして落ちそうになった。こうなるとちょっと厄介だな、あのおじさんの幻影。
酒造りはたいてい3月までに済ませるので、今はもう動いていないらしい。ここにある大きな樽全て、ほとんど3人の職人(+ときどき社員)で回していたという。今はもう動いていないとはいえ、センチメンタルな気持ちでいっぱいになる。
最後、酒造を後にする際に店員さんが、「煙突を撮るときは、道路を渡ってからがいいですよ!」と教えてくれた。どこまで親切なんだ、渡辺酒造。
ここからもう煙が上がることはない・・・。
下戸が日本酒を飲みあさる → 「消え行く歴史~なくなる地酒『吟雪』~(3)」
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