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前世聖女は手を抜きたい よきよき【コミカライズ開始】 作者:彩戸ゆめ

エレメンティアード

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141話 ベアトリーゼ・ゴルト・エルトリア

 エルトリア王家特有のタンザナイトの瞳がベアトリーゼを見上げる。


 艶やかなロイヤルブルーの髪や目を奪うほどの美貌を見るにつれ、息子のアルバートや孫のレオナルドよりも、セシルが一番よく亡くなった夫に似ているとベアトリーゼは思っている。


 ベアトリーゼが一目見て恋に落ちるほど、先代国王のリチャードは美しかった。


 エルトリア王国は美男美女が多いと言われているが、その中でも友好のために訪れた使節団の一員であった王太子リチャードの美貌は群を抜いていた。


 柔らかく微笑むタンザナイトの瞳を見て、結婚するならばこの人しかいないと思った。

 それが運命だと思ったのだ。


 今でもベアトリーゼは自分たちの出会いが運命だったと信じている。

 ただ忌々しいことに、それを邪魔するものがいただけだ。


 エルトリアはベアトリーゼの母国ゴルト王国よりも小さな国だ。


 だからベアトリーゼの父がリチャードに婚姻の打診をした時、二つ返事で了承されるものだと思っていた。


 なのに、思う相手がいるからと断られた。


 それを聞いて、ベアトリーゼはなぜリチャードは運命を信じないのだろうかと思った。


 ベアトリーゼはリチャードに運命を感じた。

 ならばリチャードもまた、ベアトリーゼに運命を感じたはずなのに、(かたく)なにそれを認めない。


 いずれはそれが分かったはずなのに、きちんと理解する前にリチャードは亡くなってしまった。


 一人息子のアルバートはどちらかというとゴルト王国の血が濃いのか、色彩こそはエルトリア王家の色をまとっているが、がっしりとした体格で、リチャードのような繊細な美貌を持ってはいない。


 孫のレオナルドも、アルバートに似てがっしりとした体格をしている。


 それに比べると、もう一人の孫であるセシルはリチャードの面影が色濃く残っていた。


 今はまだ幾分幼さを残しているからそれほどでもないが、おそらくもうすこし大きくなれば、王国中の娘たちの目をくぎ付けにするだろう。


 だからセシルには、なんとしてもゴルト王国の姫を(めあわ)せたい。

 できればベアトリーゼに似た姫がいい。


 それでようやく、ベアトリーゼの運命が正しい道に戻るような気がしているのだ。


 だが候補者として心に留めていた、セシルよりも少し年上だがベアトリーゼによく似ていると兄が可愛がっていた姫は、ベアトリーゼが、レオナルドを結婚させてエルトリアの王妃にするのとセシルと結婚させて間違った運命を元に戻すのと、どちらがいいかと迷っているうちに、真実の愛を見つけたといって他の男と結婚してしまった。


 何度もエルトリアに招いて孫たちとの仲を深めるためのおぜん立てをしてやったのに、なんという裏切りかとベアトリーゼは激怒した。


 だがそうなってしまったものは仕方がない。


 レオナルドには教会が薦めてくる聖女とやらをあてがって、今度こそ、セシルには自分の納得のいく姫と結婚させたい。


 それはすでに、ベアトリーゼの妄執ともいえるものだった。


 なのに、そのセシルの隣にいるのは、ベアトリーゼの運命を捻じ曲げたあの憎い女の孫娘だ。


 名前も呼びたくないあの女の娘も来ていると聞いたが、ベアトリーゼの威光に恐れをなしたのか、会場内にその姿はない。


 だから安心していたというのに……。


 一目であの女の血筋だと分かった。


 王家のタンザナイトの瞳を盗み、あの女とよく似た金の髪を持つ娘。


 それが、馴れ馴れしくベアトリーゼの最愛の孫に近づいている。


 しかも守護精霊はエアリアルなどという最も劣る精霊ではないか。セシルのそばに近づけるのすら腹立たしい。


 だがセシルがあの娘に完璧な敗北を味わわせるのを見るのも一興だと思っていた。


 そして当然、レオナルドもあの女の息子を完膚なきまでに叩き潰してくれることだろう。


「レオナルドの個人優勝を見られるのでしょうね、楽しみです。それを見るためにわざわざ私が来たのですから」


 王太后ベアトリーゼを席に案内した学園長が、凡庸な顔を向けて「それはどうでしょうか」と首を傾げる。


「勝負は時の運だと申しますし、対抗のアーサーくんもなかなか強いですからね」


 アーサーの名前を聞いて不快感を隠そうとしないベアトリーゼにも臆することなく、学園長はひょうひょうとした態度を崩さない。


「実力的には五分五分でしょう。いやぁ、今年のエレメンティアードは非常に見ごたえがありますね」


 みしり、とベアトリーゼの持つ扇が音を立てる。


 それを聞いて慌てたのが国王だ。

 母の怒りをそらそうと、慌てて話しかける。


「母上、この次が楽しみになさっていたセシルの競技ですよ」


 体が大きくても気の弱いアルバートは、気の強いベアトリーゼに逆らうことができない。今も激しい怒りを恐れて、ちらちらとご機嫌をうかがっている。


 これではどちらがエルトリアの支配者か、まったく分からないと陰口を叩かれるのも無理はない。


「当然、セシルが勝つでしょうけれど」


 そう。

 もしものことを考えて、すでに手配はしている。


 ベアトリーゼはここから、最愛の孫の雄姿を見ればいい。


 王太后ベアトリーゼは、優雅な手つきで扇を広げながら、にんまりと笑った口元を隠した。



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『前世聖女は手を抜きたい よきよき』
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