142話 一年生の競技
休憩時間も終わりに近づくと、一年生の生徒たちが続々と競技場に集まってきた。
それぞれのリッグルを飼育員から受け取って列に並ぶ。
レナリアはセシルと同じグループで最後に走ることになっているから、列の最後尾に並んだ。
三人で競うので、観客席側からセシル、マグダレーナ、レナリアの順番で並んでいる。
セシルの隣になったマグダレーナは、自分をアピールする良い機会だとばかりにセシルに話しかけていた。
「セシルさま、杖の材料探しの際には助けてくださってありがとうございます。改めてお礼申し上げますわ」
「クラスメイトを助けるのは当然のことだ」
杖の材料を探す授業の時に、マグダレーナは他の火魔法クラスの生徒とともに、希少な素材を求めて結界の外へ出た。
だがそこで木の魔物であるトレントに襲われて危ないところだったのだ。
なんとか逃げ出してセシルに助けられた。
……と、思っているが、本当はトレントのツタに捕まって捕食されそうになっていたマグダレーナを助けたのはレナリアだった。
たまたま結界の外へ向かうマグダレーナたちを見てこっそり後をつけて、気づかれないように風魔法でトレントのツタを切ってマグダレーナを逃がしたのだ。
だがそんなことは知らないマグダレーナは、トレントに襲われたところをセシルが助けにきてくれたと思っている。
運よくセシルが来る前に逃げ出せたが、助けにきてくれたというのは事実だ。
だからクラスメイトの中でも少し特別な存在だと思ってくれているのではないかと、少し期待しているのだ。
「セシルさまの杖は桃ですのね。桃の木は見かけなかったと思うのですが、どのあたりに生えていたのですか?」
「さあ、呼ばれたから分からないな」
魔法学園では一年生の時に自分の魔法杖の材料となる木を探しに、学園の裏にある森へ行く。とりたてて珍しい木は生えていないのだが、ごく稀に一生使える杖の材料が見つかることがある。
毎年一年生が杖の材料を取りに行くのだから、何年も歳月を経た木など存在するはずもないのに、何年かに一度、そういう木を見つけて杖にする生徒が現れる。
その場合「木に呼ばれた」という言い方をする。
セシルの場合は王族が好む桃の木がなぜか結界の外にしか生えないので、王族の特例として十分な護衛をつけて取りにいくことが許されていたのだが、あくまでも特例なので便宜上は「木に呼ばれた」ということになっている。
「王族の方は桃の木の杖を好まれますものね」
そこでマグダレーナはチラリとレナリアの持つ杖を見る。
レナリアの杖は——中身はエルダートレントの木だが、外側からは見えないので、普通の桃の木でできた杖に見える。
つまり、見かけだけはセシルとおそろいだ。
マグダレーナの視線を感じたレナリアは思わず自分の杖をマントで隠した。
あんまりじろじろ見られて、杖についている魔石が増幅ではなく減衰の魔法紋であることを知られたくはない。
一応カモフラージュはしてあるが、練習の時に競技場を壊してしまったので、減衰効果を大きくしてあるのだ。
「そうだね。兄上も最初は桃の木の杖をお持ちだったし」
「まあ、そうなんですか?」
それは知らなかったらしく、マグダレーナは驚いたように五年生が座る席のほうへ目を向ける。
そろそろ競技場へ移動しようとしている生徒たちの中でも、背が高くがっちりしているレオナルドの姿はとても目立っていた。
その手に持つのは菩提樹の杖だ。
歴史に名を残した英雄や悪人が持っていたことから「破天荒の杖」と呼ばれる菩提樹の杖はレオナルドにぴったりで、他の杖を持っていたとは想像できない。
レオナルドも最初は授業で取りにいった桃の木の杖を使っていたのだが、すぐに折ってしまって新たな杖をあつらえたのだ。
学園にいる間は学園の森で採れる材料で作った杖しか認められないから、もう一度杖の材料を取りに行ったレオナルドだが、それこそ「木に呼ばれて」立派な魔石をつければ生涯使えるほど立派な菩提樹の枝を持ち帰った。
それからずっと愛用しているので、レオナルドといえば菩提樹の杖というイメージがついている。
「レナリア、そろそろ競技が始まるよ!」
セシルとマグダレーナの話をなんとなく聞いてしまっていたレナリアだが、フィルが競技の開始を伝えてくれたので、慌てて前を見る。
「さて、次は一年生の競技となります。学園に入学したばかりの生徒たちが、守護精霊の加護を受けてどれほど成長したのか、ぜひご覧になっていただきたいと思います。まずはパスカル・ドーリー、トレイ・サーバー、ロイス・ファーゴットの三名が競います。それでは位置について。スタート!」
ポール先生のアナウンスで、競技が始まった。
オレンジ色のリッグルたちが一斉に飛び出す。
意外にも大人しそうな見かけの木魔法クラスの女子生徒、トレイ・サーバーが先頭だった。見事な手綱さばきで最初の的に魔法を放つ。
だがわずかに外れた。
トレイはすぐに反対側の的に魔法を放つ。
これは的の端に当たった。
歓声が上がる。
その後をロイス・ファーゴットとパスカル・ドーリーが追う。
二人ともトレイほどの手綱さばきは見せられなかったが、魔法の腕はなかなからしく、得点を稼いでいる。
思ったよりも接戦になって、観客たちの応援の声も大きくなる。
三人がゴールすると、大きな歓声が響き渡った。
「三人とも素晴らしい走りを見せてくれましたね。魔法の腕もなかなかのものです。では次はロウィーナ・メルヴィスとランス・エイリング、コリーン・マードックの三人です。拍手をお願いします」
ポール先生がランスの名前を告げる。
レナリアはがんばってと応援しながら、ランスがスタート位置につくのを見守った。
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