144話 ランスの活躍
そんなレナリアの耳に沸き起こった大歓声が聞こえる。
どうやらランスが最高得点を挙げてゴールしたようだ。
ゴール地点にいるランスが片手をあげて大喜びしているのが見える。
「ランスくんの素晴らしい走りでした。魔法のコントロールもスムーズで、そこが高得点につながったのでしょう。今年の一年生の風魔法クラスは大活躍ですね。コリーンくんとロウィーナさんも健闘しました。これからもがんばってください。さて次は——」
今までからするとありえない結果にしんと静まり返る観客席に、ポール先生の穏やかな声が響く。
エレメンティアードではずっと最下位の風魔法クラスの活躍に、誰もが信じられないと目を疑った。
だがランスが魔法部隊のエリート一家であるエイリング家の息子であることに気がつくと、なるほどそれで風魔法といえども高得点を取ったのかと納得する雰囲気になる。
「いや、驚きました。さすがエイリング家のご子息ですな。エアリアルの守護と聞いた時はどうなることかと思いましたが、これならば安泰でしょう」
強制ではないが、一年生の保護者で貴族籍にあるものは、社交も兼ねてエレメンティアードの観戦をする。
ランスの両親も、息子がエアリアルの守護しか受けられず大して活躍できないと思っていたので来たくはなかったが、予想外の活躍に大喜びしていた。
「息子もエアリアルの守護という事実に腐らず、精進したのでしょう」
「お父上の教えが良かったのでしょうなぁ」
知り合いの貴族からそう持ち上げられ、ランスの父もまんざらではない。
「いや、それほどでも……」
当のランスは、走り終わっても息も乱していないリッグルを労わっていた。
入学当初のすこし荒れていた様子からは考えられないほど、落ち着いている。
風魔法クラスで過ごすうちについた自信によって、本来のランスの性格が表面に現れてきたのだ。
「クーレ、ありがとう。そしてフォルスも、感謝してる」
レナリアがリッグルに名前をつけたのに習ってランスも自分のリッグルに、古語で「走る」という意味を持つ「クーレ」という名前をつけた。
レナリアを真似してエアリアルに「フォルス」という名前をつけてから、明らかに魔法の発動が良くなった。
だからリッグルにも同じように名前をつけたら、少しは意思の疎通ができるのではないかと思ったのだ。
それに風魔法クラスの生徒たちは全員、ポール先生の提案で、時間のある時にはリッグルのお世話をするようにしている。
普通は飼育員に任せっぱなしなのだが、空いた時間にニンジンを持っていくだけでも、リッグルと仲良くなれた。
そのおかげで、ランスの思った通りにリッグルが走ってくれたのだ。
今年は直線の距離だけだから、観客たちにはその効果のほどは分からないだろうが、来年、再来年になればコースも今より複雑になっていくので、明らかにその違いが分かってくるだろう。
だがきっと一年生の最高得点は自分ではないと思っている。
ランスは、スタート地点の最後尾にいる輝くような金髪の美少女を見る。
レナリア・シェリダン。
きっと彼女が……。
(ああっ惜しいわ。マリーさん、もうちょっとだったのにー!)
そんなレナリアはランスの視線になどまったく気づかずに、風魔法クラスの同級生の応援をしていた。
声には出さないまでも、顔には表れているので、一喜一憂しているのがよく分かる。
レナリアの隣のマグダレーナはセシルのほうしか見ていないので分からないが、前を向いているセシルは視線の端でころころと表情を変えるレナリアを見て微笑ましく思っていた。
「もーちょっと、思い切ればいいんだけど。もったいないよね」
(きっと人が多くてあがってしまっているのよ)
ランスの次に登場したマリーは、今年の風魔法クラスは凄いのかと思いっきり注目されたことにより委縮してしまって、ことごとく魔法を外していた。
練習の時より精彩のない動きに、やっぱり風魔法クラスはダメだなという空気になってしまっている。
だがその後のローズやエリックが健闘して、圧倒的な最下位という得点ではなくなった。
レナリアの前に走ったエルマも、なかなか奮闘している。
このままレナリアが高得点を取れば、最下位どころか学園優勝……は無理にしても、準優勝くらいは狙えそうな勢いだ。
「いよいよ最後の走者です。セシル・レイ・エルトリアくん、レナリア・シェリダンさん、マグダレーナ・オルティスさんの三人ですね。現在のところ、水魔法クラスの成績がトップのようです。次に火魔法クラス。そしてその次がなんと風魔法クラスです。これはエレメンティアードが始まって以来の快挙ではないでしょうか。この後の三人の走りは、そのまま優勝争いの走りになるでしょう。皆さま、応援のほど、よろしくお願いします」
そしてついに、レナリアの走る順番になった。
スタート地点にいるマーカス先生の助けを借りてラシェに騎乗したレナリアは、そっとその首をなでる。
「よろしくね、ラシェ」
「キュルゥ」
「きゅっ」
そこへ、ラシェのものではない声が重なる。
驚いてあたりを見回したレナリアの目に、ぴょんぴょんぴょーんと飛び跳ねてラシェの頭の上にちょこんと乗った小さなウサギの姿があった。
「ラヴィ!?」
「きゅ」
突然現れたのは、魔石の中で眠っていたはずの原初の精霊の、ラヴィだった。
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