花咲徳栄が埼玉県勢として初めて夏の甲子園を制覇した2017年の主将で、19年4月に強盗致傷事件などを起こした千丸剛(ちまる・つよし)被告(21)らの裁判員裁判が27日、千葉地裁(坂田威一郎裁判長)で開かれ、千丸被告の被告人質問が行われた。
千丸被告はスポーツ推薦で18年に駒大に進み、2月から野球部に入部した。弁護側の被告人質問で、1年春からリーグ戦に出場していたにもかかわらず、退部した理由を、千丸被告は「深夜2時、3時までコンクリートの上に正座させられたり、雨の中、傘もさせずに先輩たちの買い出しに行かされたり、たばこの火で根性焼きさせられたりしました。3月から9月に退部するまでほぼ毎日ありました」と供述。「チームの体質、風習についていけなかった」ことが退部の理由と説明した。
通学は続けたものの、駒大はキャンパスがひとつのため「顔を合わせたくない先輩たちと顔を合わせるのが苦痛になった」ため、19年3月に退学したとした。
被告は「(花咲徳栄の同級生で)プロになった選手が2人(中日・清水達也、西武・西川愛也)いて、自分に不安と情けなさを感じた。野球をやっていない自分は価値がないと絶望した」という。
東京都町田市の自宅で引きこもりのようになり、小中学校時代の同級生と遊ぶようになったころ、同級生の1人から「人のいない家からお金を運ぶ仕事があるけど、やらない」と誘われた。報酬は数十万円。「大丈夫かな」と思ったが、「全然問題ないから」と言われた。「野球関係者と疎遠になっていく中で、野球をしていない自分を励ましたり、声をかけてくれた人間なので承諾しました」。
電話番号を渡され、犯行当日の19年4月26日、他の実行犯3人と初めて会った。現場の千葉県八街市に向かう車中で果物ナイフと粘着テープを渡された。「聞いていた話と違うので驚きました。バールを手にした吉添(主犯格の勇人被告)から『バックにやくざがついている。拒否したり逃げたりしたらお前やお前の家族が狙われる』と言われた。逃げたら殺されると思った。吉添には『覚悟を決めろ』と言われた」。
吉添被告が住民男性(61)の頭をバールで殴り、侵入した民家で千丸被告は被害者の妻(59)に粘着テープを巻くように言われたが、気が動転して粘着テープが切れなかった。妻が大声を出したため、逃走した。果物ナイフは恐怖のあまり、現場に落としたという。翌日、吉添被告に呼び出され、「『他言したり自首したら殺す』と言われた。吉添の体に入れ墨が入っていたので信ぴょう性を感じた」という。
千丸被告ら4人は20年1月逮捕された。被害男性は頭骸骨骨折など全治3カ月の重傷を負った。千丸被告の両親は30年入っていた保険を解約し、500万円の弁償金を受け取ってもらったが、被害者からは「実刑は望んでいない」など情状酌量を求める言葉はもらえなかった。情状証人に立った母親は「野球がやりたくて大学に入ったけど、その野球ができなくなった。(18年の)夏ごろ、夜中に泣きながら電話をかけてきて『限界だから助けてほしい』と言われました。野球のことしか考えないで生きてきて、(逮捕当日に事件を起こしたと聞いて)世間知らずの本当にばかな子だと思いました」と証言した。
千丸被告は花咲徳栄の岩井隆監督(50)の紹介で、判決が確定したら、岩井監督が東北福祉大野球部時代に同室だった後輩が代表を務める大阪の不動産店で働くことが決まっている。宅建取引主任の勉強をする。働きながら弁済を続けようと考えている。【中嶋文明】