能楽師は物語の中にいつも自分を置いているから色気を感じるのかも
宮藤 ところで、なんか、能楽師の方って色気みたいなのを感じませんか?
西田 ああ、それはありますね。指導してくださっている先生も、なんかツヤツヤしてるっていうか。それは芸が打ち出す色気なのか、あるいは普段の暮らしぶりの中にそういう艶っぽい要素があるのか。
宮藤 どうなんでしょうねえ。
西田 声をいつも出してるからっていうのもあるのかもしれないけど、やっぱり「羽衣」とかね、あの辺りを“謡(うたい)”で読んでいるということは、物語の中にいつも自分を置いて、どういう動きかを様式美の中できっちり確認されているからなんじゃないのかなって、ちょっと思ったんだよね。
宮藤 なるほど。“おもて”っていう能面をつけてはいるものの、天女ですもんね。
西田 それで、歌舞伎の女形の“しな”とも、またちょっと違う。内面からこう、私は天女であるみたいなことを言い聞かせながら、おもてをつけて、そーっと舞台へ上がっていくという感じは、イメージとしてわかった気がしますね。
宮藤 それを仕事にしている人だから、色気があるっていうことなのかな。
西田 そうかもしれないですね。
宮藤 だから、モテるんじゃないかなと思って、西田さんの役は女性にモテる設定にしました(笑)。
西田 謡をひとつ聞いただけでも、日本の芸能って奥が深いんだなっていうことがわかるしね。西洋風の発声法じゃないから、もともと日本人が持ってた発声法っていうんですかね。実は今、毎朝起きたら天女の台詞をひとくだりやってるんです。そうすると発声練習にもなって。
宮藤 へえーっ。
西田 ちょっとやってみましょうか? (暗唱して)「それは天人の羽衣とて。たやすく人間に与うべき物にあらず。もとのごとくに置き給へ」
宮藤 (拍手)うわー、すごいですね。
西田 能楽師に見えました?
宮藤 見えますよ!
西田 大丈夫ですかね。
宮藤 もう、バッチリです。いやあ、能楽師の話にしてよかったなって、今、初めて思いました(笑)。
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ドラマ『俺の家の話』
プロレスラーの観山寿一(長瀬智也)は能楽の宗家である父・寿三郎(西田)の介護を手伝うことに。そこに現れたのが介護ヘルパーの美女・志田さくら(戸田恵梨香)。寿三郎は彼女にすべての遺産を譲ると言い出し……。
脚本:宮藤官九郎
チーフプロデューサー:磯山晶
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、桐谷健太、西田敏行ほか
TBS系金曜ドラマ(金曜22:00~)
https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/
西田敏行(にしだ としゆき)
1947年福島県生まれ。70年に劇団青年座の団員となり、以後数々の舞台を踏む一方、「西遊記」「池中玄太80キロ」などのドラマで人気を博す。『釣りバカ日誌』シリーズや三谷幸喜作品など映画でも活躍を続け、演技賞を多数受賞。宮藤脚本ドラマへの出演は、長瀬智也主演の「タイガー&ドラゴン」「うぬぼれ刑事」に続き、2021年1月スタートの「俺の家の話」が3作目に。
宮藤官九郎(くどう かんくろう)
1970年宮城県生まれ。91年より大人計画に参加。脚本家・監督・俳優として活動。著書には、週刊文春の連載をまとめた3冊目『ん!?』、『NHK大河ドラマ「いだてん」完全シナリオ集』第1部・第2部(文藝春秋)などがある。自身がギターを務めるバンド、グループ魂の5年ぶりのアルバム『神々のアルバム』が現在好評発売中。
2021.02.05(金)
文=進藤良彦
写真=柏田テツヲ
スタリスト=チヨ(Corazon/宮藤さん)、平田博美(西田さん)
ヘアメイク=村田美代子、阿部麻美子(ARTS/西田さん)
この記事の掲載号
CREA 2021年1月号
特別な一年に想いを伝える
贈りものバイブル
特別定価900円
思いもかけない日々となった2020年。いつもと違う毎日のなかで新しい習慣ともなんとか付き合ったり、戸惑うこともあったと思います。思い通りに会えない日々が続いても、贈りものという形で気持ちを届けたい――。誰もが頑張った一年と、新しい明日に贈る、感謝とご褒美、ときどきエール。いろいろな想いをギフトにして届けます。