先日、Wikipediaから「非性愛/ノンセクシュアル」の項目が削除されました(その経緯については、
Wikipediaから非性愛が消えた日などを参照してください)。
このことはAセク・ノンセク界隈に衝撃を与えましたが、私も衝撃を受けた一人です。このブログを立ち上げようと思い立ったのも、この要因が大きいです。
そこで、
Wikipediaにおける項目「非性愛」の削除に関してなどを参考に、刊行物における非性愛(ノンセク)の使用状況に関してざっと調べてみました(ついでにAセク(無性愛)も)。
・非性愛(ノンセクシュアル)に言及しているもの
・アニース(1996):レズビアン&バイセクシュアル、セクシュアルマイノリティのための雑誌。1号(1996年6月号)は国会図書館に無いっぽいので分かりませんが、少なくとも2号(1996年秋号)には「用語解説」の部分にノンセクとAセクが記載されている。ノンセクは「性的指向がはっきりしない、またはない人」、Aセクは「性的欲求を持たない人」P102
・森(1998):小説。ノンセクシュアルの登場人物を作品中で「恋愛感情というものを全く知らないのである」P45と描写している
・イーディー(2006):辞典。"Asexuality"の訳語として「アセクシュアリティ」と「非性愛」を当てている。説明は、「性的な欲望もしくは性的な徴候がないこと。アセクシュアリティは実際に性的な関係やそういった表現に無関心であるという場合もあるし、慣例的に性的であるとは見なされないような行動をとる場合についても言われる」P35
・松尾(2013):「Aセクシュアル(無性愛者、非性愛者)」について、「性指向がない人、つまり異性にも同性にも性愛の感情を向けない人である。性的指向に関係する。Aセクシュアルについてはほとんど研究が行なわれておらず、用語の定義があいまいである」P18と説明
・北陸中日新聞(2013):「『非性愛者(ノンセクシュアル)』を自認するイリエさん=仮名」が仲間と共にフリーペーパー「
Gender」を発行しているという記事。「ノンセクシュアルは、恋愛感情はあり得たとしても、性的な欲求は抱かない人を指す」
・Aセクシュアル(無性愛)に言及しているもの
・アニース(1996):上記参照
・伏見(1997):架空のAセクシャルを登場させ、「性欲が無い」と語らせている
・梅宮(2002):「アセクシャル(A-sexual)とは、性愛的欲求がない場合を示す」P60
・原口・國武・山田(2009):性的興味を欠いている男性摂食障害患者(30歳)の症例。特に好意を寄せる異性は今までおらず、恋愛・アダルト雑誌・将来の結婚に対し興味が無く、異性との交際歴・性交渉歴は無く、マスターベーションはほんの数回しかしたことが無い。「本症例では特徴的なこととして、少なくとも高校生頃より性への関心が低い傾向にあった。・・・厳密にいつ頃から性への関心が欠如していたかは断定困難であった。経過からはうつ病、発達障害は否定的であり、無性愛者と判断した。無性愛という言葉は明確な医学的定義はないため、今回我々は海外の文献を参考にし、いずれの性に対しても性的指向が欠落している状態と定義した」P148
・柿沼・布施木(2011):「Aセクシャルという概念が研究の対象に殆どなっていないことから、伏見(1997)や梅宮(2002)が述べているだけであり、詳しい定義が存在していない状態である」「上記の(引用者注:梅宮(2002)や伏見(1997)、原口ら(2009)が提出したAセクの)概念と今までの性科学に関する筆者の見地から、Aセクシャルとは性指向が異性にも同性にも向かない状態であり、時として身体的健康と性欲の強弱を複合した、性指向の1概念であると考えられる」「それぞれの(引用者注:非当事者(研究者)によるものと当事者による)研究の操作的定義を比較すると、Aセクシャルは2つの大きなタイプに分けられることが判明する。恋愛感情を含む性的欲求を抱かないタイプと、性的欲求は抱かないが恋愛感情は抱くタイプの2タイプである」P22
・桂(2012):小説。
Amazonの商品説明に、「他人に愛を感じることができない無性愛者の瑞穂」という記述がある
・松尾(2013):上記参照
・暁月(2013):漫画。登場人物にエイセクシャルを「恋愛感情をまったくもたない人間をそう言うのさ」と語らせている(未確認)
・北陸中日新聞(2013):「恋愛感情がない。異性、同性にかかわらず、男女どちらにも性的な欲求を抱かない―。そんな『無性愛者(アセクシュアル)』と呼ばれる人たちがいる」。この記事で紹介されているメグミさん=仮名は、
アセクシャル~ひとりでみんなと生きていく~の管理人の方です。
以上のような感じでしょうか。
確かに非性愛(ノンセクシュアル)の定義なり説明なりをメインにした書き物はあまり無いようですが、言葉としては確かに使用されており、存在していないわけではありません。使う人によって定義が異なるのはまだ新しい言葉だからであり、Aセクも同様です(定義することの難しさは、まきむぅさんが
アセクシャリティに関する放送で分かりやすく述べられています。本編は13:00から)。ついでに、私の定義に関する考えは
Aセクシュアルの定義に書いていますが、柿沼・布施木(2011)及び北陸中日新聞(2013)の概念を、「恋愛指向」「性的指向」という言葉で説明した感じです。
セクシュアリティの「ラベル」は論文や書籍で発表されて初めて作られるものではなく、当事者の間でなんとなく作られてから公に発表されるものだと思うので、どなたかがたたき台として書いて下さればそれでオールオッケーじゃないでしょうか(他人任せ)。
なお、日本語のAセク関連論文として染谷(2004)もありますが、これは日本の状況を述べたものではないため上の記述からは外しました。
もし上に挙げたもの以外に参照すべきものがあれば、コメント欄で教えていただければ幸いです。
参考文献
暁月あきら. 2013. めだかボックス 第135箱「叫べ」. 週刊少年ジャンプ
アニース. 1996, 秋号. テラ出版.
イーディー・ジョー. 2006. セクシュアリティ基本用語事典. 明石書店.
梅宮新偉. 2002. セクシャル・マイノリティの人権と教育. Report on multimedia education, 33.
柿沼賢治・布施木誠. 2011. 性的マイノリティにおける無性(Aセクシャル)概念の可能性-Aセクシャル論文のレビュー. 聖マリアンナ医学研究誌, 11.
桂望実. 2012. 週末は家族. 朝日新聞出版.
染谷泰代. 2004. 女ふたりという関係--『子供の時間』にみる「ロマンティックでasexualな関係性」試論. 女性学年報, 25
原口祥典・國武裕・山田茂人. 2009. 女性的な仕草が見られた無性愛の男性摂食障害の1例. 九州神経精神医学, 55
伏見健明. 1997. <性>のミステリー. 講談社.
北陸中日新聞. 2013. 初恋ナイ、男ニモ女ニモ性欲ワカナイ、体触ラレタクナイ… 「無性愛者」誤解しないで. 2013年1月16日.
Web版森奈津子. 1998. ノンセクシュアル. ぶんか社.
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