■ 循環取引にのめり込む
加ト吉は4月24日、弁護士らによる外部調査委員会がまとめた循環取引の調査報告書を公表。加ト吉の水産管理部と東京特販部、子会社の加ト吉水産について過去6年間で、合計約984億円分の売上高が水増しされていることが明らかになった。
ただし、循環取引はあくまで高須稔・元常務(68)の「独断」と結論付けた。高須氏は創業期からの最古参幹部で、「大番頭」と呼ばれた人物。1,000億円近い取引を「たったひとり」でやるとは、まさに神業というほかはないが、責任を一人で被り「会社ぐるみではない」という点を守りたかったのだろう。
報告書によると、循環取引は、最初の取引業者から商品を仕入れた加ト吉が、仕入れ値に数パーセントを上乗せした金額で商品を別の会社に転売。これを繰り返し、最終的には最初の取引業者に戻るという仕組みだ。循環取引では、商品は動かないのに取引のたびに売上高は増えていく。最後に買い戻しをする会社は、上乗せされたマージン分が負担になるが、そのマージン分を加ト吉が金融支援していたのである。
発端は、小野食品興業(岡山市)との取引である。小野食品は、骨まで食べられる魚に加工できる調理機器のメーカー。見込み製造した機械やキャンセルによる返品機械の在庫を、加ト吉が買い上げて資金繰りに協力したのが始まり。資金繰りのために数社を介在させた循環取引にのめり込んだ。取引の流れを止めると相手会社が倒産するので、止められないという悪循環に陥ったのである。
循環取引の輪が切れたのは今年1月末。小野食品が負債額約70億円を抱えて倒産。これを機に監査法人が精査したところ、商品が倉庫から動かず、帳簿上だけで売り買いが行われている循環取引が発覚した。循環取引には32社が参加。鉄鋼商社の岡谷鋼機は94億円の冷凍食品の循環取引に加わり、45億円の特別損失を計上した。取引の環に参加していた零細な食品販売会社などの連鎖倒産は免れないだろう。
6年間に1,000億円の循環取引を行っていた加ト吉は約150億円の損失を出した。報告書は
「社長のワンマン経営と同族経営の弊害」
と指摘し、
「取締役や従業員が社長に意見することがなかった」
と結論付けた。超ワンマンの加藤氏は“裸の王様”になっていた。
波瀾万丈の人生を歩んできた加藤氏は、最後の最後につまずいた。
(つづく)