ただいま表示中:2021年2月3日(水)コロナ禍の高校生 ~ルポ“課題集中校”~
2021年2月4日(木)
陽性者を追えない… 感染抑制に“難題”

陽性者を追えない…
感染抑制に“難題”

緊急事態宣言をめぐり大きなカギとなる感染の抑制。しかし、最前線でコロナ対策にあたる保健所が「このままでは感染者数は減っていかない」と危機感を強める出来事が起きている。民間のPCR検査で陽性が確認されても、保健所にすぐに連絡がないケースもあり、隔離を適切に行えなかったり、濃厚接触者への対応が手遅れになったりする事態が年末から増えているというのだ。さらに変異ウイルスをめぐっても難しい課題が見えてきている。変異ウイルスの感染者が見つかった地域では、住民に情報がほとんど開示されないため、疑心暗鬼が広がったり、地域に対する風評被害が起きたりするなど、混乱も生まれている。感染抑制に今、何が必要なのか、対策の最前線からの報告。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)
2021年2月3日(水)
コロナ禍の高校生 ~ルポ“課題集中校”~

コロナ禍の高校生
~ルポ“課題集中校”~

「親から暴力を受けた」「生活費のためアルバイトを強要される」「介護疲れで眠れない」…。 長引くコロナ禍が、高校生たちの生活を脅かしている。中でも大きな影響を受けているのが、学習や家庭環境などに困難を抱える生徒が多く通う、“課題集中校”。神奈川の県立高校のあるクラスでは、昨春に入学した生徒の4割がすでに中退。教師たちは個人面談などで生徒の悩みをくみ取り、生活状況の改善も含めた必死の支援に奔走している。 “課題集中校”の現実を見つめることで、日本における教育格差や、コロナ禍における教育問題を考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター)

コロナ禍の高校生 厳しい現実

神奈川県立田奈高校。およそ400人が学ぶ、普通科高校です。昨年(2020年)春に、2か月休校。その後現在まで、授業の短縮や部活動の自粛が続いています。

1年生の担任、社会科の菊地真祥さん。

生徒
「ねえ、菊地。トランプって誰だっけ?」

1年生 担任 社会科教諭 菊地真祥さん
「トランプさんだよ。」

生徒
「トランプ死んだんでしょ。会議に乱入して。」

菊地真祥さん
「トランプ大統領は死んでない。」

田奈高校の入学試験は、面接のみ。中学まで不登校だった生徒でも一から学び直せるよう、少人数クラスや柔軟なカリキュラムを取り入れています。

菊地真祥さん
「コロナウイルス、けっこう影響が出ている。それをみんながどういう風に考えているのか、書いてほしい。漢字とか気にせずに、平仮名が多くなってもいい。」

コロナで変わったことをテーマに、作文を書く課題。

女子生徒
「なんて言うの、うちのお母さんの仕事?足の不自由な人とか、体が動かない人の。」

「介護?」

女子生徒
「介護なんだけど、なんかちょっと医療に近いみたいな。」

「お母さんも、休みが多くなった?」

女子生徒
「しない。お母さんが、じんましんとかそういうの持ってて、やりすぎると倒れる。」

ひとり親家庭や就学援助を受けて通学する生徒も多い、田奈高校。家庭生活やアルバイトなど、さまざまな変化がつづられました。

“バイトのシフトがカットされ、お給料が全然もらえない。(女子生徒)”

“親はかいごの仕事をしていて、きき感をおぼえた。(男子生徒)”

“コロナで親といる時間が増え、ストレスがたまり、自分の部屋にこもるようになった。(男子生徒)”

廊下に出てみると…授業中だというのに生徒がくつろいでいます。

教師専用の休憩室にも、けだるそうな男子生徒の姿が。

「授業は?眠いの?」

男子生徒
「眠い。頭痛い。おなか痛い。」

「欠時(欠席)になっちゃうんじゃないの。」

男子生徒
「俺もう(授業に)出たから。」

教師
「出てないだろう、お前。」

学校には来たものの、授業に出たくないとだだをこねる生徒たち。手の空いている教師に付き添われ、教室に向かいます。
一見、放任主義のようにも見えるこの光景。あえて厳しくし過ぎず、校内のさまざまな場所に居場所を作ることで、学校を好きになってもらうねらいがあります。

1年生 担任
「(小中学校で)学校に来ていない子も多いので、1時間授業にいるのがしんどい子もいる。あとは人間関係がちょっとあって、(授業に)行くのが嫌だという子を1回話聞いて、落ち着いてから行こうかみたいな。」

取材を続けていると、1人の生徒が話しかけてきました。

ヒロトくん(仮名)
「iPhone12?誰の(携帯)ですか?俺NHKはあんま見ないです。というか、YouTubeすね。最近は。」

1年生のヒロト君(仮名)。その後、校内で会うたびに声をかけてくれるようになりました。

ある日の、お昼休み。

ヒロトくん
「こんにちは。」

「何買ったの?ポテチ?」

ヒロトくん
「ダイエット中なんで。」

自分でアルバイトしたお金から、食費を出しているヒロト君。お昼を、安いスナック菓子で済ませることも多いといいます。

放課後。廊下にヒロト君の姿が。
進路を話し合う、三者面談。しかし、来るはずの保護者が見当たりません。そのまま、1人で教室へ。

菊地真祥さん
「ちょっと遅刻が最近あるよね。」

ヒロトくん
「寒いじゃないですか、最近。(夜中に)起きちゃうんですよね。」

菊地真祥さん
「寒くて起きちゃう?(部屋に)ストーブないの?」

ヒロトくん
「ないっすね。」

菊地真祥さん
「バイトしてんだから買えばいいじゃん。」

ヒロトくん
「ムリ。一人暮らしの費用。」

菊地真祥さん
「一人暮らし?」

ヒロトくん
「家から離れたい。」

菊地真祥さん
「一人暮らしの費用として、ためておきたいってこと?家から離れたいって、家で困ることって何なの?」

ヒロトくん
「なんか、イラつく。」

幼いころから、母子家庭で育ったヒロト君。しかし2年前、母親が家を出たきり戻らなくなりました。保護者代わりの姉は、飲食店勤務。コロナで休業し、毎日顔を合わせるうち、衝突することが増えたといいます。

菊地真祥さん
「右手のケガ気になる。」

ヒロトくん
「イラついて壁を殴ったら、こうなりました。」

菊地真祥さん
「壁も大丈夫だし、手も大丈夫?」

ヒロトくん
「もう治りました。」

菊地真祥さん
「家のことでもストレスあるんだ?」

ヒロトくん
「まあ、多少はあるんですけど。」

一見、人なつこく見える田奈高校の生徒たち。その裏側で、複雑な事情を抱える子どもも多いといいます。

菊地真祥さん
「先生以外で支えてくれる大人が少ない環境にいる子も多いと思うので、友達の役割にもなりますし、先輩の役割にもなりますし、お父さんお母さんの役割にもなりますし。多くの教員が一致団結して、1つの学年団として、その学年の生徒を支えていっている。」

こうした支援の中で、苦しい生活から抜け出すことができた生徒もいます。幼いころから、家庭で虐待を受けてきたというエミさん(仮名)。高校に入るまでは、誰にも相談できなかったといいます。

エミさん(仮名)
「殴ったりとか蹴ったりとか、暴言だったり。自分的にもストレスかかっちゃって。ここ(家)だと自分が死んじゃうというのがあった。(高校は)いろんな人たちと話すことができるから、同級生に『先生に相談したら』って言われて、それで初めて(告白した)。」

エミさんから事情を聞かされた高校は、直ちに児童相談所へ通報。現在は親元を離れ、安全な環境で暮らしています。

エミさん
「最初は高校通う気、無かったけど、やっぱり相談して良かったというのがあって。今はいろんな人たちに支えてもらいながら、暮らせるようになった。ご飯3食きっちり食べられるようになったから、(学校に)通って良かったなって。」

ある日の、放課後。

「これから、どちらに?」

菊地真祥さん
「生徒の家まで。(欠席時数の)規定を超えてしまっているので、最近やっと(保護者と)連絡がとれたので。」

半年以上、ずっと学校に来ていない生徒の家に向かいます。

菊地真祥さん
「すいません。田奈高校の菊地と申しますが。…あっ、いた。どう?」

久しぶりの再会に、笑顔を見せた生徒。
しかし保護者から渡されたのは、退学届でした。保護者に代わって家の手伝いをするため、通学は難しいとの理由です。

菊地真祥さん
「無力さも感じるよね。俺たちのね。ちょっと授業を教えて、がんばれよって言っているだけじゃ。」

同僚の教師
「結局、僕らが見ている彼らは制服を着て(学校に)来ている姿だけ。それ以外の世界は見られない。学校だけが頼りという子もいますからね。そういう子に限って、欠時(欠席時数)あぶない。」

菊地真祥さん
「難しいな。」

入学時は18人だった、菊地さんのクラス。10か月で、3人が中退しています。田奈高校の1年間の中退率は、16%。全国平均の20倍に上ります。

教師たちの懸命な努力によって守られてきた、教育現場。しかし長引く感染拡大によって、その均衡が崩れつつあります。

3年生の教室には、秋以降ほとんど学校に来ていない女子生徒がいました。

3年生 担任 佐々木未央さん
「単純に寝坊とかだけじゃないんだろうと。そこが心配しています。」

生徒の携帯は解約され、電話は通じません。学校の専用チャットから、メッセージを送ります。

「これで連絡取っている?」

佐々木未央さん
「唯一、取れるのがこれ。」

「親御さんとかには?」

佐々木未央さん
「(電話に)出ないですよね。(連絡が)ついたら苦労しないんですけど。」

昼過ぎ。

佐々木未央さん
「よかった。」

生徒が、久しぶりに姿を現しました。

「あら、授業いなかったのに。」

心配していた教師たちが、かわるがわる声をかけます。

サオリさん(仮名)
「今月、毎日バイトが入っている。」

ずっとバイト漬けだったと話す、サオリさん。コロナで収入が減った親に代わり、生活費を稼いでいるといいます。

サオリさん
「学校は行かなくても(親に)ちょっと怒られるけど、バイトは休ませてくれない。お金が欲しいから、親が。」

生活が崩れ始めたのは、去年の春。学校の休校が、きっかけでした。アルバイトしていた焼き肉店も休業し、在宅時間が増えた家族とのけんかが絶えなくなったのです。

サオリさん
「ステイホームしていなかった。ずっと家にいたら、自分が壊れると思って。おかしくなる気がしたから(家を)出た。」

居場所のない家を出て、1人で夜通し町を歩く生活が始まりました。学校やアルバイトが再開してからも、家族との関係はぎくしゃくしたまま。

サオリさん
「こういう道なら、泣いていてもバレないし。」

孤独の中で支えとなったのは、ネットで知り合った異性たちでした。

サオリさん
「普通に『暇?』って言ったら、みんな暇らしいよ。」

「怪しいのもよく来る?」

サオリさん
「来る来る。キモいなと思うから返さない。」

「そういうので、何人か彼氏ができたり?」

サオリさん
「2人かな。別に出会いの場も、人それぞれじゃん。」

「このあと帰るの?」

サオリさん
「どうしようかな。家にいたくないから。」

今の目標は、なんとか高校を卒業し家を出ること。学校による懸命の努力でも支えきれない、コロナ禍の現実です。

“課題集中校” 生徒たちの居場所

武田:こうした厳しい現実を知ってほしいと、生徒や教職員の皆さんが今回取材を受けてくださいました。ありがとうございます。石井さんは、こうした課題集中校に講演で招かれることも多いそうですが、この田奈高校というのは決して特殊な例ではないと捉えているそうですね。

ゲスト石井光太さん (作家)

石井さん:そうですね。本当にこういったような学校というのは全国にありまして、高校3年生は勉強ではなく卒業後にサバイバルできる方法を教えたいということで僕もよく講演に呼ばれるのですが、1つの地域で4校、5校の学校を回るということもあります。それぐらいあるということなんです。この学校の特色というのは、ぐれている学校ということではなくて、貧困だとか、虐待だとか、ひきこもり、そういった問題を抱えている子どもたちがたくさんいるのです。こういった子どもたちが何を必要としているかというと、勉強ではなくて福祉。現代の写し鏡のような学校だな、と思っていますね。

武田:田奈高校がどのように生徒を支えているのかということですが、生徒の悩みを聞くスクールカウンセラーや、ソーシャルワーカーが通常より手厚く配置されています。さらに学校独自の取り組みとして、就職の相談に乗るキャリアカウンセラー、図書館ではNPOが居場所カフェを開いていました。

家で十分な食事がとれない子どものために、無料で食べ物や飲み物を提供していたのですが、緊急事態宣言が出ている間は休止しているということです。

石井さん、こうした学校は本当に大きな役割を果たしていると感じますが、コロナの影響もある中でその役割をどう感じていますか。

石井さん:この間、講演で別の学校に行ったのですが、コロナでお母様が仕事を失って、娘に夜の街で働かせていると。そのお金を全部吸い上げていると。私はどうすればいいですか、と質問を受けたんです。本人からすると恥ずかしい質問だと思うのですが、それを講演で言わないといけないぐらい周りに言う人がいないんですよ。こういったSOSを放置したらどうなるのかということを考えると本当に恐ろしいものがあるのですが、学校というのはそういった子どもたちにとってライフライン、本当に『命綱』なのです。だから学校だけでなくて、国もこういった学校がライフラインになっているのだという意識を持つことが大切だと思っています。

武田:コロナ禍の中で、生徒たちに必死に寄り添おうとしている教職員。
その取り組みは、生徒が卒業した後も続きます。

コロナ禍の“校内ハローワーク”

卒業後も、生徒に自立して生きていってほしい。そんな願いを込めて生まれた場所があります。

キャリアコンサルタントが常駐する、校内ハローワーク。履歴書の書き方から面接の作法まで、手取り足取り教えてくれます。

就職活動も大詰めの、12月。ファストフード店の求人票を写真に撮る、生徒がいました。

「自分で写真を撮って?」

ダイスケくん(仮名)
「家帰ってリストみたいなの作って、調べてお店の混雑状況を見る。お店いっぱい人が来たら嫌なんで。欲を言えば働きたくないので。」

3年生のダイスケくん。もとは進学希望でしたが、経済的理由から断念したといいます。

「就職活動する気、起きない?」

ダイスケくん
「そうですね。結構ブラックみたいな、バイトしたらブラックなところあったんで。」

「そのとき、すごい嫌な思いをした?」

ダイスケくん
「二度と働きたくないっていう。」

初めてアルバイトしたすし店で、早朝から深夜まで違法に働かされ、不信感を持ったといいます。

キャリアカウンセラーの、野坂さん。粘り強く、励まし続けます。

スクールキャリアカウンセラー 野坂浩美さん
「働くことにネガティブなイメージを持っていることは、大人の責任です。だから(働くことに)希望を持たせてあげることが、すごく大事。」

1月。駅に野坂さんの姿が。ダイスケ君と一緒に、会社の説明会に出席する約束です。

しかし待ち合わせ時間を過ぎても…。

野坂浩美さん
「(ダイスケくんが)来てくれるという期待と信頼があるんですけど、いざこうなると…。」

結局、ダイスケ君は現れませんでした。

「こういうことって、よくある?」

野坂浩美さん
「よくあっては、いけないことですね。ことしは(コロナで)募集が少ない。早めに今年度の採用活動を終えてしまう企業が多いので、生徒を1日でも早く動かしたいという気持ちです。」

2度目の緊急事態宣言で、企業の採用活動は一気に冷え込んだといいます。それでも生徒に、社会と向き合ってほしい。野坂さんの模索が続きます。

1週間後。校内ハローワークに来客が。

「2人とも、いま仕事は?」

「職人やってます。」

「無職です。辞めました。」

去年の卒業生。原宿にある専門店に就職しましたが、研修の課題がこなせず退職したといいます。

野坂浩美さん
「最初はね、耐えることが結構必要だからね。」

「介護やれば。お前に合うと思うよ、介護は。だって(高校のころ)介護のバイトして、ちゃんと行ってたんだから。」

野坂さん、卒業生でも応募できそうな求人を見つけました。

野坂浩美さん
「この会社なんだけど。」

「ムリだよ。こんな会社。」

紹介したのは、医療系の仕事。

野坂浩美さん
「アルバイトしてるから介護ってどんな仕事か、わかってるじゃない。」

「ちょっとね。本当にちょっとね。」

「めちゃくちゃいいじゃない。これ寮あるよ。」

「寮暮らし、いいね。楽しそう。」

「卒業後、連絡していいの?」

「いいんです。当たり前です。バリバリします。(野坂さんは)自分のことを、親の次くらいにわかってくれている。」

野坂浩美さん
「土屋さんはとりあえずケガもしてないし、なんとか仕事できているってことですね。」

「そう、塗装屋。今は夜勤やってんのよ。板橋なんだけど、現場が。高速道路で、すごいなんか楽しいのよ。みんな本当に大人だし、やっぱ男社会だから面白いじゃないですか。」

野坂浩美さん
「そっか。いい仕事になりましたね。」

「いい仕事だね。」

野坂浩美さん
「卒業式を境に、卒業生、在校生というわけではなく、少しずつ巣立っていく。進路を決定して、もちろんそこで、おめでとう、一区切りですけれども、そこからスタートを切って、学んでいくことも、成長していくことも、悩んでいくこともある。そこからが第二段階の支援の始まりと、私の立場ではそう思っている。」

生徒たちの“居場所”を守るには

武田:大人が奪った若者の働くことへの希望を、何とか取り戻そうとしている野坂さんの取り組みは、頭が下がる思いがします。石井さんはどうご覧になりましたか。

石井さん:考えなければいけないことは、社会がこれまで子どもたちに何を強いてきたのかということだと思うのです。1年間で19万件の虐待の相談件数だとか、7人に1人の子どもの貧困だとか、あるいは非正規雇用における雇用格差の問題、こういったことをずっと放置してきたのです。子どもたちにしわ寄せが行ってしまって、さらに学校にこういった尻ぬぐいをさせている。そうではなくて、社会がきちんと責任を持って子どもたちのために損をしないように、社会を変えることが必要だと思っています。

武田:コロナ禍の経験も踏まえて、国は高等学校の福祉的な役割が再認識されたとして、先週発表された中央教育審議会の答申にも明記されました。

しかし、予算の裏付けなどの具体的な施策は示されませんでした。こうした学校の取り組みをもっと多くの人に知ってもらい、バックアップをしていくことが必要だと思いますが、どうしたらいいとお考えですか。

石井さん:こういった学校の生徒たちというのは18歳になって卒業して、じゃあ社会に出てね、といってもなかなかうまくできないのです。いろんなハンディを背負っていますから、その中でしくじってしまうと貧困の連鎖だとか、虐待の連鎖だとか、あるいは夜の街に入ってしまいリスクを背負ってしまう。そういったことが起きかねないのです。だからこそ子どもたちを3年間卒業して切り離すのではなくて、この3年間をきっかけにずっとつながってどうやったら社会とうまくつながれるか、きちんとした会社に就職させてあげる、あるいは就職後も面倒を見てあげる、あるいは福祉が必要であれば福祉につないであげる。国はそういった観点からこのような学校の仕組みを作っていくべきだし、サポートしていく必要があると考えています。こういった学校が1人でも多くの人に知ってもらい、地域で支えることが必要だと思っています。

※いま、学びを守ろう。キャンペーン
ご意見をお寄せください
2021年2月2日(火)
緊急事態宣言 命の支援を途切れさせないために

緊急事態宣言
命の支援を途切れさせないために

11都府県に出された緊急事態宣言が、社会的弱者支援の現場に深刻な危機をもたらしている。居場所のない少女達を支援するNPO法人「BONDプロジェクト」。外出自粛が求められる中、少女達に会ったり声をかけたりする「物理的な」対応が困難になり、地方にも足を運べない事態に直面。模索しているのが、各地の支援団体と連携した新たなセーフティーネットを築くこと。支援を途切れさせず命の危機を救うため、具体的な方策を探る。

※関連記事
命の支援 途切れさせないために オンライン討論/前編 https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0020/topic015.html
命の支援 途切れさせないために オンライン討論/後編 https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0020/topic016.html

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

“対面”が制限 支援者の苦悩

2度目の緊急事態宣言が出された、先月(1月)。若い女性を支援する団体が、夜の渋谷で見回り活動をしていました。

「ガラガラ。全然いない。」

居場所を求めて街をさまよう女性たちに声をかけ相談や保護につなげてきましたが、外出自粛が求められる中、これまでのように出会うことができません。

BONDプロジェクト代表 橘ジュンさん
「本当に困っている子たちがいて、居場所がない子たちがいるわけだから、そういった子たちはどこにいるんだろう。」

NPO法人BONDプロジェクト。私たちは、コロナ禍での活動を10か月にわたって取材してきました。

生きづらさを抱える10代、20代の女性からの相談に、およそ20人のスタッフで対応。緊急性のあるケースでは全国各地に直接出向き、行政につないだり運営するシェルターに保護したりしています。悩みに寄り添うため、女性たちと直接会うことを何よりも大事にしてきました。

緊急事態宣言が出ていなかった、去年(2020年)8月。直接会えたことで、危機から救えた女性がいました。父親から性的虐待などを受け、家出をしてきた20代の女性。泊めてくれる人をSNSで探していました。

返信のあった相手とのやり取りを一緒に確認していくと…。

家出した女性
「家出したいと書いたら、きょう(メッセージが)来て。」

ある男性から、仕事の面倒も見るので会おうと写真が送られてきたといいます。調べてみるとこの男性、実は…。

「これは?未成年を誘拐していた。」

家出した女性
「この人ですね。」

過去にSNSで知り合った未成年を誘拐した罪で、有罪判決を受けた人物とみられることが分かったのです。

女性を緊急保護する必要があると判断。すぐに行政の窓口を一緒に訪れ、公的な保護施設につなぐことができました。

しかし今、緊急事態宣言の中で地方に出向き直接会ったり、地元の支援団体や行政につないだりすることが難しくなっています。

橘ジュンさん
「あなたたち東京の人と会ったら私たちが2週間、自宅待機しないといけないから会えないって(地方団体から)言われたこともある。対面の方がいろんなことが分かりますよね。雰囲気とかもそうだし。においとか、お風呂に入ってないとか、車中泊の子だったらそういうの分かったりするし。…悩ましいね。」

支援が難しくなる一方で、その必要性は増しています。去年の自殺者数を見ると男性が減少しているものの、女性は増加に転じているのです。

中でも増加率が高いのが、10代から20代の女性。前の年の1.3倍に増えています。BONDにSNSで寄せられる相談も増え、去年1年間で4万5,000件を超えています。その多くが、コロナ禍で“居場所がなく、死にたい”という声。

先月相談してきたのは、首都圏の医療現場で働く女性(20)です。同居する家族からコロナがうつると言われ、家で過ごす時間が苦痛になっているといいます。

医療現場で働く女性
「コロナが増えてから『帰ってこないで』みたいなことも増えたし、ばい菌扱いされる。別にいつ死んでもいいと思っている。」

せめて1泊だけでもと、BONDが運営するシェルターで休んでもらうことにしました。

「きょうは寝られそうですか?」

医療現場で働く女性
「寝られます。」

活動の制限を余儀なくされても、何とか命をつなぐ支援を続けていました。

つながった支援 途切れる恐れが

無事に保護できたとしても、継続的な支援は欠かせません。それが途切れると、命の危機につながりかねない事態が見えてきました。

BONDが運営する自立支援のための施設で1人暮らしを始めたゆうかさん(仮名・23)は、幼いころから3年前に保護されるまで父親からの性的虐待に苦しんできました。

ゆうかさん(仮名)
「考えるとつらくなるから、自分の気持ちとかを考えないようにしていたけど、ただただ死にたかった。もうお父さんとは離れたし、安全な場所というのもわかっているんだけど、フラッシュバックするのは変わらない。死にたいしか考えられなくなって。」

ゆうかさんの支援を続けてきた、スタッフの奈都子さんが特に注意しているのが、薬の管理。

虐待のトラウマに苦しみ精神科で治療を受けているゆうかさんが、薬を衝動的に大量に飲んでしまうことがあるからです。3日に1度、欠かさず見守りに訪れていました。

BONDプロジェクト 奈都子さん
「頑張らなくていいし無理しなくていいという感じなんですけど、なんとか乗り切ろうねって意味で心の中で頑張れって思いながら過ごしている。」

感染が急速に拡大していた、去年12月。私たちのもとに緊急の連絡が。BONDのスタッフの1人が、感染したというのです。

濃厚接触者と判断されたスタッフも複数いて、自宅待機を余儀なくされることになりました。

BONDプロジェクト代表 橘ジュンさん
「スタッフがすみませんって、迷惑かけてごめんなさいって。いやいやあなたは悪くないよ、悪いのは全然コロナだし。日常の感染予防をしながら生活を送っていたら、かかってしまった。本当に誰もがこういう状況になりうる。」

スタッフの奈都子さんも、濃厚接触者の1人でした。PCR検査で陰性が確認され、ゆうかさんのもとを訪ねることができたのは12日後。ゆうかさんの状況は、深刻化していました。

ゆうかさん
「いつのまにか血だらけだった、きょう。気付いたのが、お昼ぐらいだった。」

奈都子さん
「腕はどんな感じ?」

ゆうかさん
「傷?」

奈都子さん
「ぱっくりいってるじゃん。」

ゆうかさん
「過ごすのがつらくて、ひとりで。だからなんかそれで死にたくなって。みんなも大変なのがわかるから、つらいとか言うのもおかしいじゃない。」

会えない間も電話やSNSでやり取りを続けていましたが、直接会って向き合う時間がどれほど大切か、改めて突きつけられました。

奈都子さん
「泣きながら電話がかかってくるっていう状況だった。しんどいときに会ったり、話せないときが続いていくと、やっぱりどんどんズーンとなってしまうので大変だったと思います。」

支援をつなげたい 手探りの現場

どうすれば活動が制限されるコロナ禍でも、助けを求める声に応えられるのか。立ち止まってはいられません。

そこで始めたのが、全国のNPOなどとの連携の輪をこれまで以上に広げる試みです。まず、去年相談に対応した女性の人数を、都道府県ごとに分けます。その上で過去に名刺交換をしたものの、日ごろは関わりのない各地の支援団体や行政の担当者を洗い出しました。

BONDプロジェクト代表 橘ジュンさん
「この人もすごい、DV被害者の支援している人だよね。」

スタッフ
「(相談者が)多いけど、(支援団体が)いないところと、支援者の人がいるところがある。」

連携できそうな支援団体の存在が見えてきた一方で、頼り先の手がかりがない地域も把握することができました。

橘ジュンさん
「青森や秋田は(面識ある団体が)いない。岐阜もいない。水戸のDV被害者支援しているご高齢の方がいたけど、もう辞めちゃったんだよね。どうやって出会えばいいのかね。いると思うんだけどね。手探りですね、正直。」

さらに、民間企業との連携も始めています。協力を取り付けた1つが、活動に共感した大手家具メーカーです。シェルターを増やす取り組みに、無償で家具や生活用品を提供してもらえることになりました。

イケア・ジャパン 社員
「厳しい状態の中から、ここの部屋に来たら少し気持ちが落ち着いたとか、休まったと感じてもらえるのであれば、そこに対して何かできることはないかと協力を決めた。」

手探りで始めた、地方の支援団体との連携。先週、それが試される日が来ました。
連絡してきたのは福岡にいる20歳の女性。父親から性的虐待を受け、公園やSNSで知り合った男性の家などを転々としているといいます。

そこでBONDが連絡を取ったのは、福岡県内でDVの被害者などを支援する団体です。

橘ジュンさん
「被害にいつも遭っているの。たたかれたり、殴られたり、蹴られたり、首絞められたり、動画撮られているけれど、それが普通だと思っている子。大変そうなんですよ、つなぎたいの。いい?…いい?ありがとうございます。」

協力が得られると、すぐに相談してきた女性に連絡します。

橘ジュンさん
「寝る場所とか、ごはん食べる場所探したり、さまよわなくてもいいように相談に行ってみない?」

福岡の20歳の女性
「…行きません。」

女性は、見知らぬ福岡の団体に頼ることを拒みました。

橘ジュンさん
「まだ信用とか信頼してくれていないかもしれないけど、なにかあると連絡くれる、こういう関係性を作るのが難しい?無理に相談に行ってとこっちもそれはできないけど、情報だけ教えておく。それだったらいい?なんかあった時に、ここに相談していいんだという場所だけ教えておく。」

福岡の支援団体の連絡先だけは、最後に伝えることができました。

橘ジュンさん
「私たちがなんでもできるわけじゃないし、できないこともいっぱいあって、いろんな方から力を借りなければ女の子の支援ができない現状だと本当に痛感する。できることをする。大人側がね。そうすると女の子も本当にやってくれるんだと、そこからもしかしたら信頼が生まれてくるかもしれない。」

支援を途切れさせないために

武田:緊急事態宣言の延長が決まりました。女性たちの孤立をこれ以上深めないためには今のことばにもあったように、大人や社会の側ができることを諦めず、取り組み続けることが必要ではないかと思います。10か月間にわたってBONDの活動を取材してきた、社会部の藤島さんはどう感じていますか。

藤島温実記者(社会部):まさに今、命の支援が途切れかねない分岐点に差しかかっていると感じています。私自身も取材を通じて、直接会うことがいかに大切かを痛感しました。女性たちは過去の虐待経験などから自分の存在を否定していたり、大人に不信感があったりして、困ったときにみずから助けを求めるということが非常に難しい状況にあるのです。BONDのスタッフが全国に足を運んで時間をかけて向き合うことで、自分のためにこんなに一生懸命になってくれる大人がいるんだと心を開いて、生い立ちなどの背景を少しずつ語り始めます。支援する側も直接暮らしぶりを見ることで、困難さを正確に把握して適切な支援につなげられるのです。

武田:BONDの皆さんがほかのNPOと連携しようとしている姿が印象的でしたが、そもそも行政を含めて、こうした支援の仕組みはどうなっているのでしょうか。

藤島記者:行政は、生活困窮や、虐待、DV、それに障害など、それぞれの課題に応じて支援制度を設けています。一方で、生きづらさを抱える人というのは、さまざまな要因が複合的に絡み合っているからこそ、一つの制度だけでは支え切れない状況にあるのです。そこで、寄付金や国の助成金などを元に活動している支援団体が、最後の受け皿の役割を担ってきたというのが現状です。それが今、厳しい状況の中で従来の枠組みを越えて、新たな支援の形が生まれようとしています。

武田:誰も取りこぼさない支援の輪を、どのように構築していけばいいのか。番組では、生活困窮者や引きこもり支援の最前線で活動する方々を交え、BOND代表の橘さんが直面する、課題を乗り越えるヒントを探りました。

新たな支援は 最前線の現場から提言

若年女性を支援 NPO法人BONDプロジェクト 橘ジュンさん
「連携や情報共有が、支援者どうしが難しいというのが実感としてあって、(女性たちが)抱えている問題は伝わりづらいなと思っているから、私たちも容易にいろんな人につなぐことが怖くなっちゃって。」

女性支援のあり方を研究 お茶の水女子大学 名誉教授 戒能民江さん
「NPOの“スーパーマン”のひとりが、大変だということになってはいけない。あまりにも負担が多すぎると思います。」

団体どうしの連携を始めているNPOの鈴木和樹さんは、重要なポイントを指摘します。

生活困窮者に住居や食料を支援 NPO法人POPOLO 鈴木和樹さん
「お互いの活動の理念とかを分かり合っていかないと、なかなかうまく進んでいかないなと。僕らがきちんと話さないと、困っている方が逆にもっと困る状況になる。」

静岡県で生活に苦しむ人たちに住まいや食料の支援を行ってきた、鈴木さん。コロナ禍の今、県外の支援団体との連携を模索しています。

この日は、関西の団体から静岡に住む相談者を受け入れてほしいと頼まれました。しかし、相手の団体の支援は現金を支給するというもの。鈴木さんの、ふだんのやり方とは異なっていました。

鈴木さんは、相手の団体のやり方を優先。団体ごとに支援対象の年齢や分野が違うため、丁寧にすり合わせています。

橘ジュンさん
「まさに“知る努力”を、お互いに支援者どうしがしなければいけない。」

鈴木和樹さん
「こういうピンチの時は、あれもこれもは1つの団体だけじゃできない。あれかこれかを選ばないといけなくなるので、いろんな団体さんとうまく連携をとらなければ厳しい。」

地域福祉の最前線で活動する勝部麗子さんが指摘したのは、行政が果たすべき役割の大きさです。

地域福祉の現場で活動 豊中市社会福祉協議会 勝部麗子さん
「そこの町で生きている人たちがどんなことに困っているかを、たまたまいろんな専門性の高い団体が一生懸命知恵を出して、制度がないものを一生懸命工夫をしながら解決しているということで、それがもっと必要だとなれば仕組みに変えていくことが行政の役割。4月からは全国に“断らない相談”支援体制を作ろうと。」

ことし(2021年)4月から始まるという、断らない相談支援の事業。先駆けて行っているのが、神奈川県・座間市です。

「水道とかはどうですか?払えているかたちですか?例えば家計相談という支援がありまして。」

現在受けている相談は、300件以上。家賃の滞納や、暴力、子育て、介護まで、組織の縦割りを改めどんな相談にも応じます。

この日やってきたのは、バングラデシュ人の男性。仕事を失ったという男性に対し、市は民間企業やNPOにも声をかけ、一緒に対応します。こうした連携先は100以上に上ります。

日本語を勉強するサポートや、就職先のあっせんを連携して行うことになりました。

座間市生活援護課 課長 林星一さん
「断らないで一人一人の相談に寄り添っていくうちに、困りごとの中にわれわれが支援しきれない何かがあったり、世の中の動きがどうなっているのかということが見えてくるので。そこにヒントを得ながら、柔軟に体制を考えていく。」

勝部さんは、どんな悩みも受け止めることで若い女性のような制度のはざまで苦しむ人の支援につながると期待しています。

勝部麗子さん
「制度からこぼれている人たちを私たちが見つけ出すところから、新しい仕組みを作っていくことが、これからまさに求められていく。今、最高のチャンスにしたい。」

鈴木和樹さん
「仕組みを作るところは僕も大賛成で、橘さんも外に出るし、アウトリーチするし、僕だって路上生活の人を回るし、そういったところは民間の方が速いので、そういう動きを見たら(行政に)反応をしていただけるといいのかなと感じます。」

橘ジュンさん
「私たち民間だからできること、行政だからできることがあると思うのですが、社会資源を持っている方たちとつながって支援できればいいのかなと思いました。」

女性支援の在り方を研究してきた、戒能民江さん。誰もが困難な状況に陥るかもしれない今、最も大切だと訴えたのは…。

戒能民江さん
「若い女性の方だけではなくて、大人の女性や男性もひょっとしたら同じではないかと。どんな人でも支援するということにしていかないと、命をみずから絶ってしまう人たちがなくならない。“ひと事と思わない”ということですね。誰かが奇特な人がやっているということでは全然なくて、自分がその社会の一員だということを深く考えなければいけない。」

いま私たちにできること

武田:この議論は関連記事からご覧いただけます。また、相談窓口の情報にもつながりますのでご利用ください。

藤島さん、コロナ禍で人生が一変する人もいると思います。決して、ひと事ではないと思うのです。いざというとき、相談できる体制はどう作ればいいと感じますか。

藤島記者:民間どうしや行政との連携を広げて新たな仕組みを作っていくには、国も各団体の情報を持っているはずなので、それを生かしてネットワーク作りを支えたり、財源や運用の面でもよりサポートしていく必要があると思います。誰もが支援を受けられるようにこの逆境を、日本のセーフティーネットを再構築する転換点にしていかなくてはいけないと思います。そして私たち自身も何かできることはないか、支援が必要な人たちの問題そのものを直接解決はできなくても、個人や企業がそれぞれの立場で思いをはせて取り組んでいくことが大切だと、今回の取材を通じて強く思いました。

武田:その支援を途切れさせないためにも今、私たちにできることは感染拡大を防ぐことです。自分を守ることは、社会を守ること。いま一度、心に留めたいと思います。