Yume対談
「イノベーション創出の工夫について、タニタの社長に社内文化改革の進め方を聞いてきた(後編)」
SUMMARY
現在、イノベーション・マネジメント改革に取り組んでいるOKIと体組成計など健康計測器の大手メーカーであるタニタの谷田社長との対談の後編です。
タニタは、2010年に出版されたレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』が爆発的に売れるなど、これまでの常識を超えたイノベーションを次々と興されています。
前編では、ビジョン変革にはタイミングを逃さないこと、リーダーが自ら「動く」こと、お荷物事業でもビジョン変革を担えることなどをご紹介しました。
今回は、社内の文化改革には場づくりが欠かせないこと、あえて事業ドメインは設定しないこと、ダイバーシティの充実には現場に任せることが大切であること、といったお話を伺っています。
では、対談のつづきをどうぞ。
社内の文化改革には場づくりが欠かせない
横田Yume Proは、
「5年間でイノベーションが日常的な活動になる」という目標を掲げて取り組んでいます。
さまざまな取組みを行っていますが、経営層から率先し、部門長、部課長クラスへと展開するイノベーション研修もその一つです。
今年度、1,000人を対象に実施するので、「千人研修」といっていますが、社内文化改革を含めた一石五鳥を狙った取組みです。
タニタさんは、新規事業が成功することで、社内文化もどんどん変わってきているという感じですか?
谷田いえ、弊社も苦労しています。
Yume Proの「一石五鳥」という考え方を、弊社では、「1粒で2、3度美味しい」という言葉で表現して、取り組んでいます。
その一つが、社員食堂の奥に作った「ICOU(憩う)」というスペースです。
お酒が置いてあって、仕事が終わった後、ビールなどを一人2本まで飲めるようにしてあります。
横田へぇ。社内でお酒が飲めるんですか。
谷田社員同士が語りあう場がなかった、ということもありました。
飲み屋で話そうとすると社外秘の話もあるので、セーブしてしまいますよね。
横田なるほど。
谷田もともとレクリエーション費として、社員一人あたり年間6,000円を会社から支給していました。
これまでは、半年に1回飲みに行って使い切ってしまう状態でした。
それを会社に預けてもらって、ICOUでお酒を飲めるようにしたというわけです。
横田でも、毎日2本飲んでいたら1年もたないですよね。(笑)
谷田まあ、なかなか毎日とはいきませんよね。
それから、役職者は地方に出張に行ったら、気をきかせてお土産にお酒を買ってきてくれるようになりました。
私からも「な、買ってくるよな」って話しますけど。(笑)
そうすると会社の予算で用意するよりも、随分と多くのお酒を集められますよね。
横田確かにそうですね。
「俺が買ってきた酒だ。みんなで飲んでくれ。」みたいに、一升瓶に名刺を貼り付けて置いておくとか。(笑)
谷田それから、タニタでは、全館禁煙になっています。
一方、非公式に「お菓子クラブ」というのを作って、お菓子好きな人を集めています。
そうすると、普段、飲み会に来ない女性社員などが、多数いろいろな部署から集まって、コミュニケーションが盛り上がるようになりました。
さらに、バーベル部という部活動もあります。
横田社内でバーベルができるところがあるんですか?
谷田「社長も入ってくださいよ」と言われて、私も入りました。
一番の狙いは、お金ではなくて、会社のスペース確保だったんですね。
少しずつ、いろんなところから私に話が上がってくるようになりました。
自由に発言できるように事業ドメインは設定しない
横田社員が新しいことに挑戦できるための環境づくりや社内の文化改革で、他に取り組まれていることはありますか?
谷田事業ドメインを決めないことですね。
ドメインを決めた瞬間にイノベーションは起こらなくなります。
横田総合健康産業を目指すというビジョンを掲げられておられますが、健康といっても相当幅広いと思いますけど。
谷田タニタは、ライターやタバコといった健康と正反対の事業から始まって、健康を扱うようになったので、次にどこに行ってもおかしくない。
「何でもやっていいよ」、「トライしたかったら、やりたいと言ってごらん」という話をしています。
横田なるほど。
自由にモノが言いやすいような社内文化を作るために、敢えてドメインにこだわらないということですね。
谷田新しい計画が社内に広がった瞬間に、「うわ、こんなにアグレッシブにやる?」というような話になります。
そんな企画を行い続けると、これまで「経営陣は頭が硬い」と思っていた社員でも、「本当なんですか、あの話」と言って話を持って来てくれるようになる。
その時に、「本当だよ」「やっていいんだよ」「私を信じてくれ」とメッセージを出していくと盛り上がります。
Yume Proを盛り上げるのに必要なら、私をダシに使ってください。(笑)
横田ありがとうございます。
OKIも、鎌上社長が社員とのヒザ詰めのダイアログで、「会社を変えよう」というメッセージをガンガン発信しています。
谷田私は社長になって10年ですが、「経営陣は本気だよ」というメッセージを、あの手この手で発信し続けています。
ダイバーシティの充実には現場に任せることが肝心
横田それから、OKIの社内文化は、タコツボ文化なので、世の中があまり見えていないところがあります。
そこで、会社全体で部門間人事交流を活性化させようと取り組んでいます。
女性活躍も当然ですが、キャリア採用拡大にも取り組んでいます。
タニタさんは、海外展開も中期計画に盛り込まれていますが、どんな取組みをされていますか?
谷田2003~4年くらいから、海外は、現地の人材に任せ、日本人はサポートに回る方針にしています。
ただ、ものづくりは、日本の事情がわかっている人材が海外にいる方が話が早いので、1法人1~2名を日本から派遣しています。
横田私もOKIに入社する前、2014~16年にジェトロ・ニューヨーク事務所で、日本企業の北米展開支援を行っていました。
そこで改めて感じたのは、日本は「辺境国」だということだったんですね。
谷田ほう。「辺境国」ですか?
横田ええ。日本にいて世界地図を見ていると、日本が世界の真ん中にいるように思えますが、実は、東の果ての国です。
居心地のいい国なので、日本人は、コミュニケーション能力が退化してしまいました。
ニューヨークなど、多民族、多人種、多宗教、多国籍の都市では、コミュニケーション上の問題が生死に関わるようなトラブルに発展しがちです。
だから、コミュニケーションが、教育の根幹になっているのです。
谷田そうですね。
海外事務所を現地人に任せているのも、そうした点を考慮している面もあります。
横田ニューヨークでさまざまな企業を支援しましたが、日本の製品を右から左に持ってきて失敗している事例が、いかに多かったことか。
海外展開するためには、海外マーケットに合わせた製品にする必要があります。
日本の製品は、日本人向けに極端にカスタマイズされているので、グローバル市場に展開するためには、スタンダライズすることが必要です。
タニタさんでは、何か工夫されていることはありますか?
谷田海外は、デザインやテイストが違うので、現地に合わせるよう一生懸命指示しています。
製造は量産効果があるので、中身は一緒にしなさいと言っていますけど。
横田海外展開でもパートナーが重要になると思います。
Yume Proも、課題解決型の新規事業なので、OKIだけで解決できることは何一つありません。
必然的に、パートナー共創型のイノベーションになっています。
先日、経済産業省の地下にある食堂でタニタ食堂のメニューを食べた時には、デザートに森永さんとのコラボされたプリンがついていました。
タニタさんのパートナー戦略は、どんな方針で進められていますか?
谷田日本を健康にできる影響力のある企業をパートナーにしたいと考えています。
ご迷惑をおかけしないよう、1カテゴリー1社にしています。
タニタは、メーカーで消費財の知識がないため、そうした知見のある企業と組みたいとも思っています。
横田Yume Proも、ヘルスケアを注力分野の一つにしているので、いつかコラボできる機会があるといいですね。
本日はありがとうございました。
1972年 大阪府生まれ。4人兄弟の次男。
1993年 調理師専門学校卒業。
1995年 佐賀短期大学食物栄養学科から佐賀大学理工学部に進学。
1997年 佐賀大学理工学部卒業。
1998年 船井総合研究所入社。
2001年 タニタ入社。
2005年 タニタアメリカ取締役。
2008年 35歳で社長を引き継ぎ、現在に至る。
社長になってからは、「健康をはかる」から「健康をつくる」へビジョンを変更。2009年には「タニタ健康プログラム」を開始。2010年に出版したレシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」シリーズが累計542万部のベストセラーを記録。2012年には、「丸の内タニタ食堂」をオープンし、計測器メーカーとしては異例のレストラン経営に進出。そのほか、タニタ監修のコラボレーション商品は10種類以上を数える。
多数のイノベーションを矢継ぎ早に展開し、食事・運動・休養のベストバランスの提案を通した、24時間の健康づくりサポートを標榜している。
株式会社タニタ
所在地:東京都板橋区前野町1-14-2
創業:1923年
設立:1944年
従業員:1,200名(グループ)
事業内容:家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、タイマー、温湿度計など)の製造・販売 、および健康サービス事業
URL:http://www.tanita.co.jp