Yume対談
「イノベーション創出とビジョン変革について、タニタの社長と対談しました(前編)」
SUMMARY
現在、イノベーション・マネジメント改革に取り組んでいるOKIが、体重計など計測器の大手メーカーであるタニタの谷田社長と対談しました。
タニタは、2010年にレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』を出版し、丸の内タニタ食堂でレストラン業へ参入、健康管理アプリHealth Planetの開発と提供を行うなど、これまでの常識を超えたイノベーションを次々と興されています。
対談前編では、タイミングを逃さないこと、リーダーが自ら企画をたてること、お荷物事業でもビジョン変革を担えることなどとても面白いお話をご紹介します。
「健康をはかる」から「健康をつくる」へとまさに、ビジョン変革が実行できた秘訣について、OKIのチーフ・イノベーション・オフィサーの横田が伺いました。
タイミングを逃さないことがビジョン変革の秘訣
谷田 千里 氏
横田お忙しいところ、ありがとうございます。
今日の対談、非常に楽しみにしていました。
谷田わざわざ、タニタ本社にお越しいただきありがとうございました。
社員食堂で召し上がっていただいた昼食はいかがでしたか。
執行役員 チーフ・イノベーション・オフィサー
横田 俊之
横田 ダイエット食といいながら、ボリュームもあって、味もしっかりしているので、大変おいしく頂戴しました。
谷田 こういう仕事をしているので、社長が太っていたらシャレになりません。私もしっかりダイエットに取り組んでいるんですよ。
横田 さすがですね。社長自ら意識をもって率先して行動されている。
さて、さっそく本題に入りたいのですが、今年度から、OKIは、Yume Proというイノベーション創出活動を始めました。
これまで、どちらかというと技術先行型の新規事業が多かったのですが、Yume Proでは、社会課題、特にSDGsの解決を掲げています。
「世の中にどのような価値を提供できるか」
という視点からイノベーションを創出する試みです。
体重計を買うお客さんに提供されている価値は、「健康」ということですよね。
谷田千里社長に代替わりされてから、健康という価値を提供する会社に、ビジョン変革といいますか、大きく舵を切られていると思いますが。
谷田 ビジョンの変革にこれがいいという、やり方はないと思います。
うちの場合には、父が65歳、私が35歳で代替わりしました。
そのタイミングで、「タニタは変革を選んだ」という方針変更をトップダウンで示すことができたのは良かったと思います。
横田 トップダウンで進められるというのは、素晴らしいことですが、企業は、いわば既存事業の1階と新規事業の2階からなる2階建構造になっています。
トップが旗を振っても、どうしても2階の新規事業が1階に足を引っ張られてしまうということはありませんでしたか。
谷田 そうですね。
(でも、うちの場合は)実は、いいきっかけがあったんですよ。
NHKの「サラリーマンNEO」というテレビ番組で、世界の社食を紹介していました。
そのコーナーに「タニタさん出ませんか」という打診があり、二つ返事でお願いしたら、その放送を見ていた出版社から、本を出しませんかというオファーがあったんです。
横田 偶然が重なったわけですが、想いがあるから、こうした機会が舞い込んで来るし、それをグイっと掴むこともできるんですよね。
谷田 まあ、1,000冊でも売れたら、それだけファンができるかなあと思って始めました。
ところが、その本が100万部、200万部と売れ出して、お客様から「ごはん食べさせてください」という電話をいただくようになりました。
これがクレーム電話のように数が増えていきました。
社員食堂でお客様に食べていただくとなると、社員が食べられなくなっちゃうので、「レストランでもやってみるか」と提案したんですよ。
リーダーが自ら企画することでビジョンが形になる
横田 OKIもメーカーなので、社内でそんな提案したら大反発ですよ。
タニタさんは、いかがでしたか。
谷田 取締役会を含めて、全員反対ですよ。
横田 どうやって皆さんを説得されたんですか?
谷田 私は、タニタ入社前にコンサルをやっていたので、自分で事業計画を作りました。
代表権を持っていたので、勝手に進めることもできましたが、内部統制もあるので、取締役会にはかりました。
こうしたプロセスを踏みながら、社内公募して、担当者をつけるならOKというところまでもっていきました。
横田 Yume Proも社内認知度を上げるために、初年度、少なくとも1件の成功を目標に取り組んでいますが、成功することが、社内で理解を得るための近道ですよね。
谷田 そうなんですよ。
タニタ食堂が映画化された時には、近くの映画館を貸し切って、全社員を連れて観に行きましたね。
最近では、社員の結婚式で祝電を打つと「タニタって、あの『タニタ食堂』のタニタさんですか?」と言われるくらい、知名度が上がってきました。
まだ抵抗勢力はいますが、結果が出ると社内に流れができますよね。
横田 「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という言葉がありますが、体重計を買う人が求めているのは、体重を測ることではなく、健康を維持・増進することです。
谷田社長は、顧客への提供価値は何かという点に真正面から向き合い、事業を展開されているということですね。
谷田 そう言えば格好いいのですが、社内で食堂と並んで大きかったのが、「タニタ健康プログラム」だったんです。
今は、厚生労働白書の中でも取り上げられていますけど。
横田 まさに健康総合企業の商品ですね。
谷田 これは、もともと先代の父の時代に開発を始めた機械だったんですよ。
歩数計などで計測した結果が赤外線でつながる商品だったんですね。
今は、インターネットですけど。
父が作った子会社で取り組んでいましたが、売れないからデータが集まらない、データがないからPRできないという悪循環で大赤字でした。
横田 社長を引き継がれて、この事業をどうするかが、大きな懸案の1つだったんですね。
谷田 皆さんから「いつ止めるんですか。子会社は清算するんですか」と言われました。
もちろん、止めることもできましたが、私には、こういうビジネスが先々花開くというセンスがありました。
お荷物事業のブラッシュアップがビジョン変革を担う
横田 そこで、どんな手を打たれたんですか?
谷田 まず、自分たちの製品をブラッシュアップするのは、自分たちの役目でしょということで、「全員使え」と言って、全社員に渡しました。
横田 OKIも社外に売っている商品は、まず社内で使ってブラッシュアップすべきという意見をよく聞きますが、なかなか実践できてないところが課題です。
谷田 うちも同じでした。
会社の経営状態も悪く、会社の商品を買えとも言えなかったので、思い切ってバーンと社員全員に配ってしまいました。
そうすると「こんなの使えない」だの、「誰が作ったんですか」だのといった声が集まりました。
こうした声に、「俺、社長になったけど、俺の企画じゃないよ。
企画した人にフィードバックして」と言って、子会社にアドバイスするよう、お願いしました。
横田 それで、どうなったんですか?
谷田 実際に社員が使ってみて、フィードバックが増えることで、だんだん使い勝手のいい方向に開発が進んだんですよ。
ある時、私が、たまたま、データを見ていたら、社員の体脂肪率が下がっていたり、歩数がちょっとずつ上がっていることに気が付きました。
横田 社内で使うことでデータが集まり、成果が検証できるようになったと。
谷田 そうなんです。
健康保険組合のデータを調べると2割位負担が減少していました。
これって、国全体で取り組んだら、どれだけ効果が上がるんだろうって思いましたね。
カタログを作ってくれという話になり、商品名は何にしますかと聞かれたので、
「タニタがやっているんだから、『タニタの健康プログラム』でしょ」
と言ったら、いつの間にか、そのまま商品名になってしまいました。
横田 体重計のメーカーから、食や運動といった総合健康産業を目指すというビジョンも掲げておられますが、偶然を含めて、いろいろなキッカケがあったということがわかりました。 ただ、想いがあるからこそ、さまざまなキッカケが、ビジョンの下でまとまっていったのだと強く感じます。
調理師と栄養士の免許を持つ。
座右の銘「1粒で2、3度おいしい」
1972年 大阪府生まれ。4人兄弟の次男。
1993年 調理師専門学校卒業。
1995年 佐賀短期大学食物栄養学科から佐賀大学理工学部に進学。
1997年 佐賀大学理工学部卒業。
1998年 船井総合研究所入社。
2001年 タニタ入社。
2005年 タニタアメリカ取締役。
2008年 35歳で社長を引き継ぎ、現在に至る。
社長になってからは、「健康をはかる」から「健康をつくる」へビジョンを変更。2009年には「タニタ健康プログラム」を開始。2010年に出版したレシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」シリーズが累計542万部のベストセラーを記録。2012年には、「丸の内タニタ食堂」をオープンし、計測器メーカーとしては異例のレストラン経営に進出。そのほか、タニタ監修のコラボレーション商品は10種類以上を数える。
多数のイノベーションを矢継ぎ早に展開し、食事・運動・休養のベストバランスの提案を通した、24時間の健康づくりサポートを標榜している。
株式会社タニタ
所在地:東京都板橋区前野町1-14-2
創業:1923年
設立:1944年
従業員:1,200名(グループ)
事業内容:家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、タイマー、温湿度計など)の製造・販売 、および健康サービス事業
URL:http://www.tanita.co.jp