―最後に神立さんにとって、零戦搭乗員とはどんな存在かお聞かせください。
そうですね・・・・・・。また志賀さんの話なのですが、志賀さんは終戦時に「皇統護持秘密作戦」に参加するんです。これは天皇にもしものことがあったら皇族をかくまって皇統を守ることを目的とした作戦で、有事までは各自待機せよ、という命令です。で、正式に作戦が終結し解散されたのが、なんと1981年です。そして志賀さんら作戦参加者にとって、三十数年の間、命令は生きていたんです。
その一途さの根源を何に求めるかと言えば、零戦搭乗員としての誇りだと思うんです。少なくともイデオロギーとは無関係です。彼らの祖父母の代は幕末を生きた人たちですから、武士の矜持というものが彼らにも色濃く残っている気がします。
戦後世代は「自分のため」というエクスキューズがなければ頑張れないし、行動を起こさない人が多い。しかし元搭乗員たちはあの戦争で一度、国のため、つまり他者のために死ぬ決意を腹の底に沈めた人たちです。だから強い者にも立ち向かえるし、弱い者に手を差し伸べる優しさも持っている。ジェンダーフリーの今日、男らしさという言葉はもはや意味を持たないのかもしれませんが、男が男らしく生きた最後の人たち、本当に尊敬に値する男たちだと思っています。
<了>
構成/松木 淳(講談社文庫『IN☆POCKET』)
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『零戦 搭乗員たちが見つめた太平洋戦争』
共著:神立尚紀・大島隆之(NHKエンタープライズ ディレクター)
講談社文庫 税別価格:本体950円
残された時間の中で──零戦搭乗員「最後の証言」
あの戦争を生き残った零戦搭乗員は、終戦時に約3700名を数えたが、現在ではわずか約200名となった。生存者の高齢化が進む中、NHK取材班は4年の歳月を費やしインタビューを重ね、後世に語り継ぐべき番組として結実させた。戦争とはいかなるものか、死線を越えた男たちの「最後の証言」がここにある。
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『ゼロファイター列伝零戦搭乗員たちの戦中、戦後』
著・神立尚紀
講談社 税別価格:1500円
太平洋戦争の最前線で戦い、生き残った男たちの肖像
戦中、命を懸けて戦い、多くの戦友を失い、また多くが自らも傷を負った零戦搭乗員たちは、戦後の価値観の転換に戸惑い、固く口を閉ざしていた。その彼らに真摯に向き合い、心を開いていった神立氏が集めた貴重な証言をもとに、波乱の時代を生きた男たちの人生を描く決定版。
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