▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます 作者:沢野いずみ

本編

50/55

50:今の二人



「ヴィンセント」


 思考が一瞬過去に戻っていたヴィンセントは、アリシアの自分を呼ぶ声で現世に戻った。


「アリシア」


 ヴィンセントは愛しい存在の名前を声にのせた。愛を込めて呼ぶのは二百年ぶりだ。愛しい、アリシア。


「あなたは、私を嫌ってはいないのですね?」


 アリシアが念押しのように聞いてくる。アリシアを嫌うなど、ヴィンセントにはありえない。

 二百年、ただ一人を想っていたのだから。


「愛している」


 ヴィンセントは精一杯の気持ちを伝えようと、口にした。アリシアは赤い顔で俯いた。


「その……それはわかりました……」


 アリシアが顔を赤くして言う。ヴィンセントはその事実だけでうっとりした。

 あと、少し手を伸ばせば、アリシアを抱きしめられる。

 しかし、ヴィンセントにはその資格がない。

 ヴィンセントはアリシアを殺した張本人なのだから。

 伸ばした手を引っ込めたヴィンセントを見て、アリシアは言った。


「あなたは、未だに、幸せを拒否しているのですね」


 何を言っているのか。ヴィンセントには、幸せを享受する資格がないだけだ。


「ヴィンセント」


 アリシアがふわりと笑う。ああ、笑い方からも、前世のままだ。ヴィンセントは吸い寄せられように、アリシアに近付いた。


「ヴィンセント」


 アリシアが自分を呼ぶ。それだけで、ヴィンセントは酩酊したかのような気分になる。


「私は、一つ嘘を吐きました」


 アリシアはヴィンセントの手を取り、両手で握りしめた。


「私は、自分に『祝福』をかけられないと言いました」


 ぎゅっと手を握られるとアリシアの体温がヴィンセントに伝わる。


「あのとき、私が自分に『祝福』をかけられなかったのは――私がそれを望んだからです」



  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。