44:アリシアの祝福
「どういう意味ですか」
「どういうも、そのままの意味よ」
先読みの魔女はもう一度言った。あれが呪いだと思うのか、と。
「それは……私にはわかりません」
「わからない?」
「ヴィンセントの呪いが何なのか、私には、わからない」
ヴァネッサはしばらく沈黙した。アリシアはいたたまれない。まるで、責められているようだ。そして、それは、おそらく間違っていない。
「それは、わざと?」
「わざと、とは?」
「わざと気づかないようにしているの?」
自分の唾液を飲み込む音がよく聞こえる。乾いた口腔からアリシアは必死に声を出した。
「それはつまり」
アリシアは、自分が避けていた答えを口にした。
「ヴィンセントが今も生きているのは、私の『祝福』のせいですか……?」
ヴァネッサは頷いた。
「あなたの力は強大よ。私たち魔女が何をしても太刀打ちできない程度にはね」
ヴァネッサの言葉をアリシアはただ聞いている。
「そんなあなたが、自分の命を犠牲にしてかけた『祝福』だもの。死んだ後も、効果は消えなかった」
他のはあなたが死んだら消えたのにね、と続ける。
喉が、ひどく乾く。
「私は」
あのとき、アリシアは。
「どうせ死ぬのなら、この命を使って、とびきりの、『祝福』をと……」
そう思っただけだ。
弟子に、幸せになってほしいと。
「そうね。それは何も間違っていないわ」
ヴァネッサが切り株から腰を上げ、アリシアの目の前に来た。
「ただ、見誤ったとしたら、弟子の幸せが何であるか、でしょうね」
ヴィンセントの幸せが、何であるか……?
「あなたの弟子はね、あなたのことが大好きだったのよ。だから、あなたが死んだのに、自分が幸せになるわけにはいかないと思った」
ヴァネッサは屈んで、アリシアの顔を覗き込んだ。
「あなたの『祝福』を拒んだわけ」
うまく、息が吸えない気がする。アリシアは無意識に胸を押さえた。
「さて、ここで問題です」
ヴァネッサは屈むのをやめ、アリシアから数歩距離を取った。
「強大な力を持つ祝福の魔女の、命を懸けた『祝福』、それを弟子が拒んだ場合、どうなるでしょうか?」
お願いだから、言わないで。
そんなアリシアの願いもむなしく、先読みの魔女は笑う。
「『祝福』は弟子に幸せになるように付きまとい、幸せにならないまま死なせないよう、その体を、不老不死にしました」
ああ。
アリシアは顔を覆った。
――自分は、ヴィンセントを苦しませることしか、できていない。