40:ヴィンセントとの話し合い
紅茶を淹れてヴィンセントの前に差し出すと、礼を言われた。アリシアは自分にも紅茶を注いで席に着いた。
アリシアは緊張していた。ヴィンセントについて調べても調べても、肝心な部分は何も出てこない。しかし、あきらめるわけにはいかない。
「ヴィンセントさん」
アリシアは背筋を伸ばした。
「あなたの呪いについて、教えてください」
アリシアは、ついに直接聞くことにした。
これ以上独自に調べるのは不可能だ。しかも、もう時間がない。アリシアはここに一年しかいられない。あと一か月半でここを去らなければいけない。
どうにか、その間に、呪いを解いてあげたい。
この優しい弟子が、幸せになれるように。
「断る」
しかし弟子はそんなアリシアの気持ちを汲んではくれない。
「歴史を知る上で必要だと思っているのかもしれないが、俺の呪いは関係ない」
アリシアは首を振った。
「そうではありません。ただ、どうしてヴィンセントさんが二百年生き続けているのか、知りたいだけです」
「歴史を学ぶためでないなら、なおさら必要ない」
アリシアは再度首を振った。
「そうではありません。あなただって、本当は辛いはずです」
「君に何がわかる」
「わかりません!」
アリシアは席から立ち上がった。
「何も、何もわかりません! あなたが二百年何を思っていたのか、どう生きてきたのか。何も、何もわからない! でも」
ヴィンセントの目を見る。
「でも、一人で生きるのが辛いことぐらい、わかります!」
ヴィンセントの目に、感情が宿った。
「君に、わかるわけがない!」
ヴィンセントが拳でテーブルを叩きつけた。
「俺の気持ちなど、誰もわかるわけがない! 誰にも、誰にもだ! この感情も、何もかも、俺だけのものだ!」
こんなに激昂するのはいつぶりだろうか。ヴィンセントは自分で感情を抑えきれないことに驚きつつ、アリシアを睨みつけた。
アリシアは、笑っていた。
何で、今笑うんだ。
彼女に、そっくりな笑顔で。
「やっと、感情を出してくれましたね」
アリシアは微笑みながら、ヴィンセントの頬に触れた。
「感情は、きちんと出さなければいけないものです。怒りも、悲しみも、嬉しさも、自分の中に押し込めないで」
触れないでほしい。
自分に触れないで。暴かないで。だめなのだ、自分は。
自分は、感情を押し殺さないと。
こんな、こんな――触れられて嬉しいなどという感情は感じてはいけない。
ヴィンセントはアリシアの手を払いのけた。
「感情など」
アリシアの顔を見ないようにする。悲しんでいるだろうか。それともまだ微笑んでくれているだろうか。
その顔を見たら、またかき乱されてしまうから。
「感情など、必要ない」