37:親切なアダム
「い、いか……いかがでしょうか!」
数着の試着を終えたアリシアがアダムに訊ねると、アダムはうんうん頷いて、アリシアが試着した中から、二、三着を元の場所に戻した。
「濃い紫はちょっとアリシアちゃんには早かったね、もう少し大人になってからにしよう」
「私は子供ではありません……」
「露出が多いのも、アリシアちゃんの純朴さを殺すから、もう少しメリハリがついてからにしよう」
「メリハリ……」
せっせと服を戻すアダムの後ろでアリシアは自分の胸をこっそり確認した。一応、ある。目に見えて大きくないだけだ。
「アダムさんて、おいくつなんですか?」
「俺? 十八」
「まさかの同い年!」
もう少し上だと思っていた。少なくとも二十代だと思っていた。
「少々、老けて……」
「大人びてるって言ってくれる?」
よく言われるのだろうか。全部言い切る前に遮られた。
「じゃあ、この三着を買おうか」
「あ、はい」
アリシアは財布を出そうとした。アダムはそんなアリシアを無視して会計に行ってしまった。慌てて追いかけるも、すでに会計は済んでいた。
「あの、お金」
店から出てアダムに支払いをしようとすると、デコピンをされた。
「い、痛いです」
「お金なんかいいのいいの。今日は俺が勝手に連れて来たんだから」
「で、でも、私の普段着の三倍の値段でしたよ?」
「普段どんな値段で買ってるの……」
アダムがあきれたような顔をする。どんな値段と言われても、リーズナブルな値段としか答えられない。
お金を返そうとするも、受け取ってもらえそうにない。アリシアは財布を再びしまい込んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
アダムは買い物袋を片手に持って歩き出した。持ってくれるらしい。
「アダムさんて、モテそうですね」
「なになに? 惚れそう?」
「それはないんですけど」
「それはないんだ」
がっかりしたような言い方だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「俺ね、君と賢者様のこと、応援してるよ」
ちょうど、なぜアダムはこんなに親切なのだろうかと考えていたアリシアは、目をパチクリと瞬いた。
「なぜ?」
「可愛い子には幸せになってほしいからだよ」
にこりと笑うアダムは、本当にそう思っているようだった。
「あ、賢者様にも幸せになってほしいけどね」
だから、とアダムは続けた。
「俺はアリシアちゃんの味方だよ」
微笑んでアリシアを見るアダムにアリシアは顔を赤くした。アリシアには恥ずかしいことを言われる耐性がないのだからやめてほしい。
「アダムさん、それ誤解されるからあまり女性に言ってはいけませんよ」
「え! 何で?」
顔を赤くしているアリシアに気付かないはずがない。とぼけるアダムに、アリシアは一度だけ軽くペチンと背中を叩いた。