33:勘違い
避けられている。
アリシアがそう確信したのは、数日後だった。
食事を食べるとすぐに席を立ってしまうし、部屋からあまり出てきてくれなくなった。声をかけても、こちらの話を聞くとすぐに立ち去ってしまう。
「日常会話ぐらい気軽に交わせる間柄になっていたはずなのに……!」
アリシアは激しいショックを受けていた。
なんだどこが悪かったのだ。風邪か? 風邪で迷惑かけたからか?
「いえ、ヴィンセントはそこまで心の狭い男性ではありません!」
なにせ、風邪を引いたアリシアの面倒をせっせと看てくれたのは他ならぬヴィンセントだ。迷惑だったらもっと適当に必要最小限で済ますだろう。
「お腹が空いたので来ましたよー!」
そこへアダムがやってきた。最近はアダムがいつ来てもいいように、食事は多めに用意している。
ちょうど昼食の時間だ。ヴィンセントもすぐ来るだろう。アリシアはテーブルに食事を人数分並べた。
「今日は野菜炒めかぁ」
心なしかしょんぼりした声を出すアダムを、アリシアは睨みつけた。
「好き嫌いはいけませんよ。野菜もしっかり食べないと」
「いや、嫌いじゃないけど……肉の方が好きなだけで……」
アダムが言い訳を始めたときに、ヴィンセントは現れた。
ヴィンセントはアダムとアリシアを見比べて、やや困り顔をした。
「俺は席を外すか?」
「え? なぜですか?」
アリシアがきょとんとした顔で訊ねると、ヴィンセントはまた二人を見比べて、言いづらそうにしながら口を開いた。
「二人は、男女交際をしているのでは?」
アリシアはパチリと瞬きをすると、数秒遅れて絶叫した。
「は、はいいいい!? な、なぜ!? なぜそういう認識に!?」
思わずヴィンセントに詰め寄ると、ヴィンセントはアリシアの気迫にたじろぎながらも答えてくれた。
「この間、二人で部屋に入って仲良くしていたから、そうなのかと……」
部屋で……? 仲良く……?
「あ!」
思いいたり、アリシアはヴィンセントの手をしっかり握って否定した。
「あれは、勝手にアダムさんが入ってきただけです! 私はアダムさんのこと好きでもなんでもないです!」
「告白もしてないのにフラれたこの感じなんだろう……」
アダムが何か言っているが、そんなことはどうでもいい。とにかく勘違いをされては困る。アリシアはヴィンセントには勘違いされたくないのだ。
「そうなのか」
ヴィンセントはアリシアと繋がれた手を見ている。
「その、勘違いして申し訳なかった」
「避けられて傷つきました……」
アリシアがしょんぼりしながら言うと、ヴィンセントは慌て出す。
「す、すまない……二人が付き合っていると思ったら顔を合わせづらくて……」
心なしか、握った手に力が込められた気がする。
「でも避けなくても……」
「自分でもどうして避けたかわからないんだが……」
ヴィンセントと目が合って、アリシアはどきりと胸を高鳴らせた。昔から変わらず顔がいいのだから困る。
「あのー」
膠着していた二人の間に割り込んだ声の主は、手にフォークを持っている。
「俺、いるんだけど」