31:今の私
「アリシア、完全復活いたしました!」
高らかに宣言するアリシアに、アダムは拍手を贈った。
「いやあ、しばらくおいしいごはんがなくて寂しかったよー」
「そこはうそでも私自身を心配してほしかったです」
アリシアがむくれると、アダムが「ごめん」と謝罪した。
久々に体を動かすのは気持ちがいい。
アリシアは手際よく炊いた米を炒める。味付けは、塩コショウと、トマトペースト、少量の砂糖。隣国では『ケチャップ』というものができたらしい。こちらにも早く販売されるといいなと思いながら皿に盛る。
今度は溶き卵を入れる。焼きすぎないように、ふわふわになるように注意して、さっき炒めた米の上に乗せる。
オムライスの完成だ。
「うーわ! いいにおーい!」
アダムが涎を垂らしそうな表情でオムライスを見ている。
みんなで食事前の挨拶をして、口に運んだ。
「おいしいー!」
アダムがガツガツと食べている横で、アリシアも感動していた。
「久しぶりの普通の食事です!」
風邪を引いていて固形物が中々喉を通らず、しばらくずっとミルク粥だった。ようやく普通の食事だ。
アリシアは一口口に含むと感動で何度も何度もオムライスを噛み締めた。
やはり、食は大事だ。
まともに食事を取らず、体が弱った状態だから、あんな夢を見て、情緒不安定になるのだ。
あれはアリシアらしくない。現在のアリシアはあんなに鬱々とする人間ではない。
――アリシアは、もうあの頃のアリシアではない。
違う自分だからこそ、こうして堂々とヴィンセントに会いに来たのだ。
「おいしい」
――私は、新しい私として、あなたと向き合うと決めたのだから。
ヴィンセントがポツリと漏らした言葉に、アリシアはにこりと微笑んだ。