23:手を握って
「――こっちに来たらいい」
ヴィンセントの声に、アリシアは胸を押さえていた手を離した。
さっきまで墓標に祈りを捧げていたヴィンセントは、今はまっすぐアリシアを見ている。
気付かれていることに震えるアリシアに、再びヴィンセントは出てくるように言った。
アリシアは震える足を叱りつけ、隠れていた木の陰から出た。
「あ、の――」
すみません、と謝ろうとするアリシアを遮り、ヴィンセントは「こっちへ」と声をかけた。
アリシアは言われた通り、墓標の前、ヴィンセントの隣に腰を落とした。
「ここには、探知の魔法を張っている。アリシアが来たのはわかっていた」
そんな魔法、前世のアリシアには使えなかった。
相変わらずケタ外れの魔法を使う。
「そう、ですか」
なら、なぜ追い出さなかったのだろう。
気付いたときに、追い返してしまえばよかったのに。
「君になら」
ヴィンセントが墓標を撫でた。
「君になら、知られてもいいと思ったんだ」
ヴィンセントが柔らかく微笑んだ。それはまるで。まるで。
やめてほしいとアリシアの心が悲鳴を上げた。
「どの本にも載っていない、祝福の魔女アリシアについて」
ヴィンセントが語るアリシアは、まるでアリシアの知らないアリシアだ。
だって、アリシアは、そんな愛情を込めて語られていいような人物ではない。
語るヴィンセントはどこか生き生きとしている。
どうして。普段はあんなに、無感情なのに。
どうして私のことで、そんな顔をするの。
「――すまない。すっかり話し込んでしまった」
辺りはすっかり暗闇に包まれていた。明かりのない森の中、星だけが輝いている。
ヴィンセントが魔法で明かりの玉を出す。
「帰ろうか」
ヴィンセントが手を差し伸べた。今日は人が多くてはぐれるわけでもないのに。
暗いからだろうか。きっとそうだ。
アリシアは、ヴィンセントの手を握った。
「帰りましょう」
何も、考えないでおこう。
何も考えないで、今はこの手のぬくもりを感じていたい。
アリシアはヴィンセントの背中を見て、少し泣いた。