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前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます 作者:沢野いずみ

本編

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22:魔女の住処



 ヴィンセントは一週間に一度、塔から出る。

 どこに行くかは知らない。

 そうして過ごして半年。

 ついにアリシアは行動に出た。


「つ、ついてきてしまいました……」


 内心バレたらどうしようと震えながらも、しかし、実行に移した。

 ヴィンセントの呪いについて知るには、歴史書では不可能だ。この半年、かなりの量を読んできたが、どれにも一切書かれていない。多少ヴィンセントについて詳しくなったと思うが、知りたいのはそれではない。

 ならば、もう直接本人を調べるしかない。


「この外出がもしかしたら関係しているかもしれませんし……」


 そう思い、ついてきた。

 ヴィンセントはどんどん街から離れ、森の中に入っていく。


 ――この森。


 既視感を覚えた。

 でもまさか。そんな。

 そう思うも、進めば進むほど、確信は強くなる。

 森の奥、少し開けた場所に、ヴィンセントは行った。

 そこにあるのは、自分にとってとても馴染み深いものだ。


「まだ、あったのですね……」


 二百年。二百年だ。

 本当なら、とっくに朽ち果てているだろう、祝福の魔女の住居は、あの頃のまま、残っていた。

 大事に管理されているのが、一目でわかる、木の家。

 その中に、ヴィンセントは入って行った。

 窓から見えるヴィンセントを眺めていると、まるであの頃に戻ったような錯覚に陥った。あの頃、二人で暮らしていた頃に。

 ヴィンセントが中から出てきた。アリシアは慌てて木の陰に隠れた。そのまま、家の裏に歩いて行く。アリシアも、足音を立てないように、ついていった。


 ――墓だった。


 きちんと墓標もある、しっかりとした、墓だった。

 花も供えられている。それが完全に枯れ切っていないことから、彼がそれだけの頻度で来ていることを物語っていた。

 ヴィンセントは、供えられていた萎びた花を魔法で燃やし、新しい花を供える。


 こんな、大事に弔われていたなんて。


 アリシアは叫び出したい気持ちを我慢して。胸を押さえた。

 もう剣など刺さっていないのに、とてもとても、胸が痛い。

 自分のことなど、仇の自分など、適当に捨て置いてくれてもよかったのに。


「どうして、私のことを忘れてくれないのですか」


 忘れて、幸せになってほしかったのに。



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