20:故郷の味
「お、お待たせしました」
おずおずとヴィンセントの前に現れたアリシアを見て、ヴィンセントはわずかに表情を動かした。
「これはまた……」
また、なんだろうか。気合が入りすぎだろうか。
アリシアは助けを求めるように、アダムを見た。アダムは笑いながら、ヴィンセントの肩を叩く。
「賢者様、女の子がおしゃれしてたら言うことあるでしょう?」
アダムの言葉に、ヴィンセントはもじもじするアリシアを見ながら、なるほど、と思った。
「可愛らしいと思う」
「え?」
ヴィンセントから出た言葉に、アリシアは一瞬思考を停止させてしまったが、次の瞬間には顔を赤面させた。
あ、あのヴィンセントに! 可愛いと言われるなんて!
前世と合わせて初めてである。
アリシアは心の中でアダムを褒め称えた。今度好物を作ることに決める。
感動で打ち震えるアリシアに、アダムは満足げに頷いた。
「じゃあ、お祭り中は賢者様と離れないように、気を付けるんだよ」
「はい」
親のようなことを言うアダムに、アリシアは素直に頷いた。誘拐などされたくはない。
アダムはアリシアたちとは一緒に行かないらしい。塔を出たところで別れた。
そのままヴィンセントとアリシアは祭りの開催されている街まで歩いて行く。徐々に明かりが見えてくる。にぎやかな人の声も聞こえて、アリシアは高揚感を抑えきれない。
「うわぁ」
街に着くと、感嘆の声を上げる。
辺りには今まで見たことのない数の屋台が並び、大勢の人で賑わっている。田舎者のアリシアは、初めて見る光景に興奮した。
「す、すごいです!」
「そうだな」
興奮するアリシアに対して、ヴィンセントは淡々としている。長年この街で暮らしているヴィンセントにとっては、別段珍しくもないのだろう。
美味しそうな香りに誘われて、アリシアは一つの屋台に行く。
「これはなんですか?」
「これは串焼き! でもただの串焼きじゃないよ! 特殊な香辛料を使っている、隣の国の民族料理さ!」
「隣の国……」
「トゥルースさ!」
「ください」
国の名前を聞いて、アリシアは購入を即決した。
二本串を持って待っていてくれたヴィンセントのもとへ戻っていく。
「どうぞ」
一つ差し出すと、ヴィンセントはゆっくりとそれを受け取った。
「これは……」
「トゥルースの民族料理ですって。おいしそうだから、ヴィンセントさんもどうぞ」
「……ありがとう」
ヴィンセントは礼を述べ、「いただきます」と口にしてから、串焼きを食べた。
「香辛料がよく効いているな」
「本当! おいしい!」
初めての味にアリシアが舌鼓を打つ。
これがヴィンセントの故郷の味! 今度再現しよう!
心に決め、しっかりと味わう。
「……いつか食べさせると言ったのに……」
ヴィンセントのその言葉には聞こえないふりをする。
今、一緒に食べれているから、いいんですよ。
その言葉も、肉と共に、喉の奥に押し込んだ。