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前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます 作者:沢野いずみ

本編

19/55

19:好きだった髪型



「こ、これは母が言っていたデートというものですね!」


 ヴィンセントとお祭りに行く約束を取り付けたアリシアは、自室でああでもないこうでもないと服を選んでいた。

 なぜかヴィンセントではなく、アダムに「飛び切り可愛い恰好をしておいで」と言われたからである。


「飛び切り可愛い恰好……」


 とはなんだろうか……。

 幸い祭りまではまだ少し時間があるからとゆっくり選んでいるが、一向に決まらない。

 可愛い……可愛いとはいったい……。

 ついに可愛いの定義について考えだしたアリシアだったが、コンコンと響いたノックの音で飛び上がった。


「ははははい!」

「アダムだけど」


 ヴィンセントではなかった。脱力して、扉を開ける。


「どう、決まった?」

「決まりません……」


 アリシアがしょげる。


「そもそも可愛いって……可愛さって……なんでしょう……」


 真剣な顔で告げるアリシアに、アダムが吹き出した。


「ひどいです……私は真剣に悩んでいるのに……」


 涙目で睨みつけるアリシアに、アダムは未だ収まらない笑いを堪えた。


「いやだって……そんな真顔でそんなこと考えてるの……? 何なの……?」

「可愛いを考えたらわけがわからなくなったんです!」


 アリシアが顔を赤くする。


「どうせ! どうせ田舎者です! おしゃれなどわかりません! もういいんです!」


 アリシアがその辺にぶちまけた適当な服を一枚引っ張り出すと、アダムが慌てて止めた。


「わーわーわー! ごめんごめん! 自棄にならないで!」

「知りませんこれでいいです!」

「いやそれはない。それはない」


 急に真顔でアダムに否定され、アリシアは自分の怒りが萎びれた。


「それはやめよう。本当にやめよう。運動着みたいだから」

「あ、はい」


 普段、部屋着にしている一枚を運動着と言われたアリシアだったが、アダムのあまりの真剣な表情に、その服を手放した。


「俺が選ぶからそこで座ってて」

「は、はい」


 あれ……? デート行く服って人に選んでもらうものなのだろうか……?

 アリシアが戸惑いながら言われた通りに椅子で座っている間に、アダムはせっせと服を選別している。

 方向性が決まったのか、いくつかの服をアリシアに当てる。


「うん、これにしよう!」


 それはシンプルな白いワンピースだった。ただ、裾にレースがあしらわれ、ふわりと広がる様が好きで、アリシアも気に入っていた。


「うん、大人過ぎず、子供過ぎず。アリシアちゃんのいいところをちゃんと出せる服だね」

「あ、ありがとうございます……?」


 アリシアは礼を言う。突然のことで驚いたが、これで無事に服が決まったとほっとすると、アダムが笑った。


「じゃ、次はアクセサリーね!」

「え?」



◇◇◇




「おしゃれというのは、とても疲れるものなのですね……」


 ぐったりと椅子にもたれるアリシアは、アクセサリーはもちろん、薄く化粧まで施されていた。アダムは大変器用な男性だった。自分で上手に化粧ができず、普段すっぴんのアリシアは、その手腕に感動した。

 だから、なぜ化粧道具を持参していたのかは、あえて聞かないことにした。藪をつつく気はない。


「それでは最後の仕上げに」

「まだあるんですか!?」


 驚愕の声を上げるアリシアに、アダムは楽しそうに笑う。


「髪も大事だよ」


 そう言うと、アリシアの髪に触れる。

 繊細な動きですいすいと髪を結いあげるアダムに感心していると、あっと言う間に美しく編み込まれた髪型ができた。


「すごい……」

「昔ね、よくこの髪型を人にしてあげることがあってね」

「そうなのですね」


 鏡の中の自分を見ながら、アリシアはそっと髪に触れる。

 懐かしい。


「私も、この髪型が、一番好きだったんです」


 もうあの頃とは違う髪色をしているけれど。

 また、この髪型をできるなんて。

 懐かしくて嬉しくて切なくて、アリシアは微笑んだ。



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