18:お祭りへの誘い
「お祭り?」
首を傾げ、アリシアは訊ねた。
「そう、お祭り!」
また食卓に入り込んだアダムは、にかっと明るく笑いながら言う。
「一年で一番大きな祭りが、今夜あるんだ! 屋台もいっぱい出るから、晩御飯は食べないほうがいいかもね!」
揚げ鳥を口に放りながら言うアダムに、アリシアはお祭りとはどういうものだろうかとワクワクしていた。
アリシアは田舎の出身だ。小さな祭りはあっても、大きな祭りなど経験がない。
ワクワクしながら、アダムが揚げ鳥を嚥下するのを待った。口の中の物を飲み込んだアダムはまたにかっと笑う。
「最後にね、葉っぱに願いを書いて、川に流すんだ。この街に、大きな川あるの見た?」
「あ、はい」
「そこに流すんだ。願いが叶いますようにって。確か、二百年前に、賢者様が始めたんじゃなかった?」
アダムの問いに、ヴィンセントは頷いた。
「……人に教わったまじないだ」
「そうですか」
アリシアは胸が温かくなった。だって、それはアリシアが教えたおまじないだ。
昔、ヴィンセントとずっと一緒にいられるようにと書いて、川に流した。
願いは叶えられなかったけれど。
でも再び会うことはできた。
「賢者様と一緒に行ったら?」
「え?」
「興味あるんでしょう?」
興味はある。大きなお祭りなど初めてだ。
「夜に女の子一人は危ないよ。酔っ払いもいるし。せっかくだから、社会勉強として賢者様に連れて行ってもらいなよ」
アダムの言うことはもっともだ。
女の一人歩きは危ない。しかもアリシアはのどかな田舎出身だ。治安の悪さなど考えたこともない。
そんなアリシアがお祭りに一人でなどいけるはずがない。
でも、行ってみたい。
アリシアは、ヴィンセントを見た。ヴィンセントもアリシアを見ており、目が合ってどきりとする。
「あの……」
「行きたいのか?」
ヴィンセントに真っすぐに見られながら、アリシアは頷いた。
「行ってみたいです」
「わかった」
「え?」
ヴィンセントのあっさりした答えに、アリシアはきょとんとした。
「祭りに連れて行ってやる。一人で行かれて誘拐でもされたら困る」
誘拐。されることがあるのだろうか。
都会って怖い。アリシアはプルプル震えながらも、ヴィンセントと出かけられることに歓喜した。