17:夢から覚めたら
「ヴィンセントさん!」
ドンドンドンと、部屋の扉を叩く音が聞こえる。
不快な音に目を覚ましたヴィンセントは、そのままのそりと起き上がる。
「どうした?」
目覚めたばかりのすっきりしない頭で返事をすると、扉を開けた先にいたアリシアが、嬉しそうに飛び上がった。
「よかった! 全然起きないので……病気かなにかかと……」
「俺は病気にはならない」
なにせ、不死の人間だ。
アリシアは納得したように、こくんと頷いた。
「あの、ご飯にしませんか? もうお昼ですし、お腹空きませんか?」
そんなに寝ていたのか。
普段きちんと起きる分、心配をさせたかもしれない。申し訳なく思うと同時に、腹の虫がきゅうと鳴った。慌てて腹を押さえる。
そんなヴィンセントを見て、アリシアはクスクス笑った。
「もうご飯できていますから」
そういうと、アリシアは居間へ去って行った。
ヴィンセントは寝間着のままだったことを思い出し、着替えてすぐに居間に向かった。
「心配をかけたようで、すまなかった」
ヴィンセントが謝ると、アリシアが慌てて首を振る。
「いいえ、いっぱい眠りたいときもありますよね! むしろ起こしてすみません」
「いやちょうどよかった」
そう言うと、アリシアはほっとしたように息を吐いた。
「では食事にしましょうか」
テーブルにはすでに食事が並んでいる。湯気が見えて、香りが食欲をそそり、腹がまた鳴った。
ヴィンセントは席に着き、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
アリシアも同じように手を合わせた。
食事前に、あいさつをすること。これは、祝福の魔女のアリシアに教えられたことだ。
ヴィンセントは二百年間、食事前のあいさつを忘れたことはない。
小さなことでも、彼女を感じられるように。
ヴィンセントが食事をしていると、アリシアがニコニコしながらこちらを見ているのがわかった。
視線が合うと目が逸らされる。
しかし、また視線を感じる。
――魔女のアリシアもそうだった。
こちらが食べているのを見ているのが好きだった。
たまに、自分の頬が緩んでいると、とても嬉しそうな顔をした。
――違う。この娘は、あのアリシアではない。
ヴィンセントは首を振る。
アリシアが不思議そうな顔をした。
似ている。
姿かたちはまるで違う。だけれど、似ている。
ふとした仕草が、笑顔が、話し方が、あの、アリシアに。
そして、そうした部分を見つけるたびに、喜んでしまいそうな自分がいる。
ヴィンセントは再度首を振る。
違う。彼女は違う。だから、この胸に感じる温かさも違う。
――幸せなど、感じてはいない。