企業の“見事な”取り組みや新情報をお届けする番組『見事なお仕事』。ポップカルチャーの総合誌「BRUTUS」の編集長でカルチャーに精通する西田善太さんならではの視点で、企業の“見事なお仕事”の内容と秘訣を、インタビュー形式で伺っていきます。
6月13日(土)のゲストは、株式会社日立物流の南雲秀明さん。私たちに身近な「物流」といえば商品を届けてくれる「宅配」ですが、日立物流はもっと幅広いサービスを担っています。キーワードはデジタルフォーメーション戦略。物流業界におけるDX戦略とはどんなものなのでしょうか。テクノロジーの進化に伴って拡大する物流のお仕事について伺います。
情報通信分野の物流サービス
西田 南雲さんは社会人になってからこれまで、日立物流ひと筋なんですか?
南雲 そうです。1986年に入社して以来ずっとですね。
西田 日立物流さんは、日立製作所のグループ会社ですよね。
南雲 はい。ですが、日立製作所以外の商品も扱っています。例えば、食品やアパレル、医療医薬なんかも。
西田 その中で、南雲さんはどんな畑を歩いてこられたんでしょう。。
南雲 私は長く情報通信分野の物流に携わってきました。中でも新規事業として立ち上げた、情報通信ソリューションサービスに思い入れがありますね。
西田 情報通信ソリューション……。言いづらいですね(笑)。例えばどんなことですか?
南雲 前々から情報通信分野のクライアントのあらゆる物流を担ってきたんですが、新規事業としてキッティングまで行うことにしたんです。
西田 キッティング?
南雲 パソコンやスマホなどの機器の導入時のセッティング作業のことです。従来、サービス会社がやっていたことですが、当社ではそこまで一貫してできるようになりました。
西田 物流とエンジニアリングサービスをセットにした感じか。物流サービスの領域が拡大しているんですね。
日立物流の強みは「サードパーティーロジスティクス」
西田 今更ですが、物流ってどんなものがあるんですか。日立物流さんのメイン事業はなんなんでしょう。
南雲 物流にもいろいろあります。製造メーカーさんが物をつくるとき、必要な部品を調達するのが「調達物流」。他にも、「製造物流」「販売物流」「アフター物流」など。当社の主力事業は、あらゆる工程にある物流業務を一切合切請け負うこと。それを、サードパーティーロジスティクスといいます。
西田 サードバーティー、つまり第三者が、解決策を持ってますよってことですね。じゃあ、コンピューターシステムみたいなものを提供しているんですか。
南雲 はい。クライアント側のシステムと、クライアントの製造工程に合うようにカスタマイズした日立物流のシステムを繋いだ物流サービスシステムを提供しています。
西田 メーカーが製造する商品や種類ってどんどん細かくなっていってますよね。多数の種類を小ロットで作らなくちゃいけない企業も多い。その物流を自分たちだけで担うっていうのは難しいことなんですか。
南雲 はい、大変なことだと思います。そのようなクライアントのニーズに合わせたオーダーメイドな物流サービスを提供する、ということもやっていますし、業種業態によって汎用的な仕組みを作っているので、プラットフォームとしてサービスを提供する場合もあります。
西田 物流って物を動かすわけでしょう。もっとフィジカル的な仕事だと思っていたんですが、意外にソフトの面が大事なんですね。
日立物流のデジタルトランスフォーメーション戦略
西田 さて、ここからが本題です。本日南雲さんに伺いたいテーマは拡大する物流の役割。キーワードとして「デジタルトランスフォーメーション戦略」というのがあります。デジタルトランスフォーメーション、変身できそうですよね(笑)。も言っています。
西田 いま、どんな企業でもこの言葉が行き交っていると思うんですが、改めてDX戦略ってなんなんのか、教えてもらえますか。
南雲 テクノロジーの発展に伴って、いままでにないデータが可視化できるようになりました。それを活用して、人々の生活をより豊かに変革していく、というのがDXです。単純なテクノロジーの発展だけではなく、それを駆使してビジネス全体を根底から大きく変えることを指します。
例えば製造メーカーであれば、データを活用して、物づくりをより効率化したり、ローコストにしたり。そういう変革を行うことをDX戦略と言っています。
西田 なるほど。日立物流さんはどうしてそこに注力を?。
南雲 私たちの目的は大きく3つあります。一つは、当社のコア機能である物流そのものの強化と強靭化です。
西田 強化っていうのはどういうことですか。
南雲 物流にはいま、様々な課題があります。労働力不足や賃金高騰などですね。だからといって、「これ以上物流サービスを提供できません」というわけにはいかないので、省人化・合理化して業務の効率化を測らなくてはいけない。
デジタルデータを使った情報の整理・分析・活用によって最小限の人で最大効率を上げていく、というのが「物流機能の強化・強靭化」です。
西田 なるほど。
南雲 そして二つ目の目的が、そういう変化を遂げた仕組みを、新しい価値としてお客様に提供することです。自社の変革で新たに得られた知識やノウハウで、クライアントのDXをサポートしていければと思っています。
西田 一つ目の目的「物流の強化」をクライアントにまで広げていく、ということですね。
南雲 はい。そして三つ目が、そうしたビッグデータを様々な企業と利活用していくことです。クライアントだけでなく、異業種や競業他社企業ともかけ合わせていけば、大きな課題解決にも繋がるような新たなビジネス領域の構築ができるのでは、と思っています。
西田 例えば、どんな問題が解決できそうですか。
南雲 小売分野などで販売機会の損失を防ぐ、というのがあると思います。売りたい時に在庫がなかったり、在庫が余っているのに売れなかったりというのは大きな問題ですよね。
西田 僕ね、Amazonの話を聞いたことがあって。アメリカの西海岸でこれが売れそうだっていうのを事前にAIが察知して、品物を先に移しておく。つまり、まだ買われているわけでもないのに、商品がトレンドによってアメリカ中、世界中を動き回っているらしいんです。
南雲 きっとDXがかなった結果がそれだと思います。当社は数多くの業種業態のクライアントの物流をアウトソースしていますから、物流のデータに加えて、クライアントの生産計画や販売計画のデータも蓄積できています。それを広げていければ、売れる物を売れる時にちゃんと在庫にしておく仕組み作りに貢献できると思っています。
西田 なんか物流って、会社の経営に近いですね。それくらい重要な分野なんだな。
社会インフラとしての物流。業界の課題はドライバー不足
西田 やっぱり僕たちにとって、宅配が一番身近な物流なんですが、外出自粛を余儀なくされているいま、物流の世界ってとっても忙しいんじゃないですか。
南雲 確かに忙しいですね。薬や食料、生活必需品……。外に出られない間、僕らがちゃんと届けられないと困ってしまう方がたくさんいます。物流は社会インフラのひとつなんだ、と再認識しましたね。
西田 これまでお話いただいたDXの恩恵もあるのでしょうが、いま、宅配もすごく早く届くようになっていますよね。
南雲 そうですね。宅配業務だけにフォーカスすると、いまの日本のシステムは世界の中でもトップ水準だといわれています。
西田 そうなんだ。
南雲 スマホでタップするだけで、早ければ当日・翌日に届きますし、時間指定もできて、不在であれば再配達もしてくれますからね。
西田 なるほど。そんな中で、いまの物流業界・宅配業務が抱えている課題もたくさんありそうですよね。
南雲 そうですね。いろいろある中で、特に問題視されているのがドライバー不足とドライバーの高齢化です。ドライバーの健康に起因する事故が急激に増加してしまっているんです。
西田 細かく対応できるようになった反面、疲れ切っちゃっているようにも思えますね。
南雲 労働力不足は全ての業界に言われていることですが、ドライバーのなり手もすごく少ない。当社でも、そういう社会課題である輸送事故をなくすための仕組みを開発している最中です。できるだけ早く解決したいですね。
西田 そうですよね、物流って絶対になくならない仕事ですし。
南雲 はい。
西田 お話を聞いて、だんだんわかってきたのは、「物を運ぶ」って単純なことに見えて、実はたくさんの情報が含まれているってこと。想像以上に、一人ひとりの人間に直接繋がっている仕事なんですね。
南雲 そう言っていただけてうれしいです。