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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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ふるさとは遠くにありて思うもの(前)

お久しぶりでございます。コミカライズ版「学園騎士のレベルアップ!」は8/31に全国書店で発売します。電子版も出るよ!

というわけで発売記念の前編後編となります。

「故郷に錦を飾る」って言葉があるよな。

 ふるさとを出てったヤツが成功して帰ってくるっていうの。

 まさに、アレ。

王立学園騎士養成校(ロイヤルスクール)」に入学した俺が、なんとかかんとか1年を終えて——しかも座学は通年首位なんていうオマケつきで——故郷に帰ったんだから、控えめに見ても「錦」なんじゃないかなって思うんだよ。

 片田舎の村だぞ?

 ひなびた農村、ってワケじゃないけど、人口1000人ちょっとの村。

 そこの出身者が特権階級たる貴種をかきわけてトップとったんですよ?

 ヤバイじゃん。

 ふつーなら「ヤベーじゃんこいつ」って思うじゃん。

 だけど、


「ソーマァッ! 貴様どの面下げて帰ってきたァッ!」


 卒業式で最上級生を見送った俺は、生まれ故郷の村に戻ってきた。

 で、村の入口で衛兵が俺だと気づいて、「ちょっと待ってろ」と言う言葉を残して連れてきたのが村長で、今に至る。


「いや、だから……」

「座れ」

「いや、座ってるし」

「正座ァ!」

「え、えぇ……?」


 俺の目の前でブチキレてるのはこの村の長、つまり村長のジイさんだ。つるりと禿げ上がった頭皮に、ブチキレると青筋がぴきぴき立つのが後ろから見るとちょっと卑猥。オッサンたちは「歩くワイセツ物」とか陰口たたいてるけどそれほんとひどいからね?


「貴様はァッ! レプラとミーアになにをしたァッ!?」

「あー、アイツら、やっぱなんかやらかしましたか」

「やっぱとはなんだやっぱとは! 村のためにやってきてくださった冒険者たちを相手に挑発しィ! ゲリラ戦に突入しィ! 全員に打ち勝って下半身をさらけ出して踊り出すんじゃァ!」


 やっべえ、聞きたくなかったなぁ、その情報。

 レプラは俺の生家の隣に住む2歳年下の男の子。俺が天稟「試行錯誤トライアル・アンド・エラー」に覚醒し、それを使ってレベル上げをするのに利用……もとい、実験……もとい、検証? に付き合ってもらった。

 確かに、アイツも今は12歳だけど、レベルだけで言ったら熟練の冒険者を軽く超えてると思うんだ。格闘と石投げが得意だったから【格闘術】と【投擲】はレベル300いってるはずだし……。


「師匠」


 俺の横で、俺と同じように地べたに正座しているスヴェンが、


「この無礼なジジイを叩き斬ってよろしいでしょうか?」


 う〜ん、この、問題を混乱させる問題児をどうして連れてきてしまったのかなぁ、俺!

 帰る家などない、とかコイツが言い出したからなんだけどさあ!


「なんじゃこの無礼な子どもは! 問題児の仲間はやはり問題児かァ!」

「ちょっと待って? 一応俺、学園ではがんばってる——」

「なァにが学園じゃ! 弟分の管理監督もできんで勉学がつとまるかァ!」


 はい、ごもっとも。

 レプラの話を出されるとなにも言えねえ。


「とっととヤツらを矯正してこォい!」




 街道沿いにある、というだけの村は特になにか特産品があるわけでもない、パッとしない故郷だった。

 でも豊かな水を湛えている川が近くにあって、農業も盛んで、モンスターが少なく動物の多い森が近くにあるから食いっぱぐれる村民はほとんどいなかった。


「おお!? レックんとこのソーマじゃねえか!」

「ほんとねえ。鳥を何羽か落としてきてよ」

「ソーマ兄ちゃん!」


 村を歩いて行くとオッサンやオバチャンに話しかけられ、子供らがわーっと走っては俺の横に立っている無表情男スヴェンを見てびくりと立ち止まり回れ右してわーっと逃げていく。


「……師匠は、とても人気があるのですね」

「まあ、田舎の村なんてこんなもんだろ。みんな顔見知り。たまに帰ってきたら物珍しくて声を掛ける、みたいな」

「そうでしょうか……?」


 それから俺は自宅に戻り、相変わらず「村に1軒しかない宿」という殿様商売にあぐらをかいている親父と、宿を継いだ長男に挨拶した。

 頼む、獣を狩ってきて家におろしてくれぇ! と泣きつかれたけど、どうやら最近は客が少なくて稼ぎが悪いらしい。はいはい、手が空いたらねといつものようにあしらって、


「俺、レプラの世話しろって言われてるから」

「ああ……」


 親父も長男も、それで納得した。

 ヤベェなレプラ。ますます会いたくなくなってきた。


「——視線!?」


 それでも仕方なくレプラを捜しにいくべぇと外に出ると、俺は刺すような視線を感じた。スヴェンも剣の柄に手を掛けて臨戦態勢だ。


「……ハァ、ハァ、ソーマさんが自分よりおっきな男の人を連れて帰ってきた……ハァ、ハァ、しかも見せつけるような距離感、ハァ」


 なんかヨダレを垂らしながら木の陰でこちらをうかがってるヤツがいる!?


「ハッ……そ、そう言えば村長が名前を挙げてたのはレプラだけじゃなかった……!?」


 木の陰でこちらを見ていた三つ編みの女の子、おそらく、というかほぼ確実にミーアは、じゅるりとヨダレをすするとすさまじい勢いで逃げ出した。

 俺が本気で走るより速いんだが!?

 風となった彼女は砂埃を残して消えた。


「ふぅ……師匠、あのような少女もかなりの手練れのようですね……さすが師匠の少女」

「いやスヴェン、その物言いはおかしい。しかも強敵に相対していたみたいに額の汗をぬぐったりすんな」

「くっ、あの子くらいは師匠の動揺を誘うほどではないと……!? 己の未熟さを、再確認させられましたッ」

「もう止めてそういうのはさぁ……ミーアは俺の黒歴史みたいなとこあるからさぁ……」


 俺がレプラを利用(直球)して天稟の確認をするのをミーアは間近で見てたんだよなぁ。

 それで、男の子同士が汗を流しながら密着しているのを見て、彼女の、なんかよくわからない琴線がジャンジャカジャカジャンと鳴って腐って(・・・)しまった。


「……とりあえずミーアのことは後回しだ。最悪アイツは学園に連れてって碧盾クラスにでも入れて『裏☆ロイヤルスクール・タイムズ』の拡販に尽力してもらえばいい」


 村から連れ出せば村長も納得するだろ。

 ミーアがなにしたのかは村長も言わなかったけど、わかるわ。男同士がしゃべってる背後からねっとりした視線でもぶつけてたんだろ。


「そんなことよりまずはレプラだな——」


 と言いかけたときだった。

 遠くから悲鳴が聞こえた。


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