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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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目指せ! 舞踏会!

 黒鋼寮に戻ると、案の定祝勝会になっていた。まあちょうどお昼時だからね、しょうがないね、なんか顔を赤くして歌とか歌ってるヤツがいてもしょうがないよね……なに? フルチン先輩からもらったビンの飲み物を飲んだら気持ちよくなってきた?

 よし、ブッ殺す(即決)。


「おいおいソーマァ〜、なに抜け出そうとしてんだよぉ〜」

「つーかお前どこに行ってたんだよぉ〜」

「まさかデートじゃねえだろうなぁ〜」

「おいおいぃ〜」


 トッチョの取り巻き4人組がウザ絡みしてくる。4人目はなにも思いつかなかったくせに絡んでくるんじゃないよ。

 酒臭い……ことはなかった。コイツらはジュースで酔っ払える体質のようだ。


「ソーマ、そう言えば緋剣クラスのリエルスローズ嬢といっしょにどっか行ってたよね」


 さらっ、とリットくんが余計なことを言った。

 男子たちが一気に俺を見て、殺気を募らせる……!


「そ、それはそうなんだけど! キールくんの家にお見舞い行ってたんだよ、お見舞い!」

「お見舞いィ? ふたりっきりでお見舞いィ?」

「たまたまそうだっただけだよ! お前もいっしょに行ってくれてもよかったんだぞ、公爵家!」

「……それはノーサンキューだわ」


 イヤなのかよ。可愛い女子に目がないくせにそこは引っ込むのかよ。

 男子たちの殺気をキールくんを盾にして回避したことでホッとしていた俺を見て、リットがニヤニヤしている。


「お、お前なあ! 人が困ってるの見て楽しんでるんじゃねーよ!」

「事実は事実だろ? あと君が昨日の対抗戦で開幕早々気絶してうちのチームがまったく活躍できなかったことも事実」

「こ、こいつ……! オリザちゃんとよろしくやってるからって……!」

「……へ?」

「オリザちゃん! お前の彼氏がいじめてくるんだけど!」

「あ?」


 近くのテーブルでジュースを飲んでいたオリザちゃんがこっちをチラリと見る。


「なに、アタシの彼氏がリットってことになってんの? なにそれ、ウケる」

「おいリットいいのか。相手にされてないぞ」

「あははは。残念だねえ」


 生粋のチャラ男であるリットはへらへらしているだけだった。


「アタシは今な、ルチカが目撃したっていう新たな新聞ネタ(・・・・)を聞いているところだ」


 新聞ネタとはつまり、碧盾クラスに売って我がクラスの軍資金にしている物語のネタである。


「ほう、それは興味深いね」

「だろ? なんでも、男子生徒が二人っきりで夜を明かしたっていう実話さ」

「ほうほう。どんな男だ?」

「片方は美少年。学内にファンも多い。もう片方は……ひいき目に言っても野獣だな」

「ほう! いいねいいね、ネタとしてバッチリじゃん!」

「そのふたりが過ごしたのは深い深い森の中」

「ほう……森?」

「敵同士だったふたりは共通の敵から追われて、やがて憎しみは愛情に変わり、協力して敵を倒す」

「……ねえ、それって」

「平和になったふたりは、しかし、身分差によってなかなか会うことができない。だけど人気のない掲示板の前で密会する」

「それって俺のことじゃないの、ねえ!? オリザさん!? ルチカさん!? てかさっき見てたの!?」

「書いていいよな?」

「ダメ! 絶対ダメ!」

「もう書き上がってる」

「手が早いなぁ!?」


 ルチカさんが紙束で鼻から下を隠しながら——それでも顔は真っ赤なのは丸わかりなんだが——俺をじっと見ている。ああ、思い出すよ、俺の故郷にもミーアっていう6歳にして腐ってしまった女子がいてな……。


「ほんっと止めてよね!? 俺が美少年でフランシスが野獣とかかわいそうだろ!」

「こいつ、さらっと自分を美少年化しやがった」


 オリザちゃんが呆れた顔をしているが、美少年のところは譲れない。物語の中でくらい、そうなりたいじゃないか!


「って——あれ? ルチカちゃんの双子の兄貴は? アイツ、祝勝会で調子乗りまくってるかと思ったのに」


 なにせ個人順位1位だもんな。

 スヴェンがいないのはわかっていた。修行だろ?(確信顔)


「それが……どうやらソーマさんが全然活躍せずに、自分だけで大将を倒しまくったのが気にくわないみたいなんです」

「は? アイツの頭の中どこまでひねくれてんの?」

「『勝ちを譲られたみたいで腹が立つ』だそうです……」


 トッチョの天稟は「一本槍(ザ・ランサー)」ってヤツなのに性格がひん曲がっているとはこれいかに。


「ま、いいか……スヴェンとふたりで?」

「そうみたいです」

「スヴェンは全然戦えなかったから、かわいそうなことしたな……」


 大将が動けなくなったらその時点で他のチームメンバーも退場だ。

 だからオリザちゃん、リット、スヴェンの3人はほぼなにもせず終わったってことになる。


「そうでもないみたいだよ」


 と、リット。


「1位になったトッチョに勝てば実質的に1位になれるから、って挑発して、トッチョといっしょにトレーニングだってさ」

「はぁ〜。修行バカだな」

「いやぁ、さらに大きいレッドアームベアを誰かが倒したって聞いて、いてもたってもいられないって感じだったけどね?」

「……その話、どこまで広まってる?」


 リットは肩をすくめながら言った。


「そりゃもう、学年中に?」

「————」


 終わった。これはもう終わった。ますます貴族に目をつけられる。

 がっくりきている俺へ、リットが告げる。


「なーに落ち込んでるんだよ。舞踏会でも、君を誘いに来る女子がいるかもよ。黒鋼クラスには本来そんなこと、あり得ないだろうに」

「あ、そうだよ、それだよ! 舞踏会ってなに!?」

「……なに、ってどういう意味?」

「いや、いきなりフランシスにも舞踏会で会おうみたいなこと言われるし、いったいなんなのか……って……」


 俺の言葉は尻つぼみになった。いやさ、露骨にリットとオリザちゃんが視線を交わし合って深々とため息を吐くんだもの。


「そりゃ舞踏会は舞踏会だよ! 夏休み前の舞踏会は、学園の定例行事だろ? 知らなかったの?」


 知りませんでした。


「全員参加だよ」


 知りませんでした。


「当然、踊りくらいできるだろ?」


 できません。


「……まったくできないの?」


 できません……ってみんなできないよな?

 視線を巡らすと、全員が俺を見ていた。かわいそうなものを見るような目で!


「リットぉぉぉぉおぉおおお!」

「わ、わかったよ、教えるって! 踊り方くらい!」

「ありがとう、ありがとう!」

「だからくっつくな抱きつくな離れろおおおおお!」


 チャラ男リットくんは、性格が肉体に影響しているのかやたら柔らかくてなよっとしていました。




「おい、貴様が黒鋼1年のソーンマルクスとやらか? 喜べ。栄えあるリックバーン伯爵家の出身である私の側に仕えることを許す!」

「お断りします」


 即座に言うと、信じられない、という感じで目を見開いている碧盾の上級生。

 俺の拒否り方も慣れたもんだ。

 だって、これでも10人目だもん、こんなふうに誘ってくるの。


「……リット、なにか言いたいことがあるなら言えよ。ニヤニヤするなよ」

「いやぁ、きっぱり断れる男になったなあと思ってね」

「そりゃそうもなるわ……アイツら、『結構です』とか柔らかく言うと『そうだろう、結構なことだろう。名誉である』とか真顔で言ってくるんだもん」


 断られることは最初から想定にないんだよね。

 だからひたすらめんどくさい。


「つーかこの学園……王国っていろんな貴族がいるんだな」


 第1王子と第3王子の派閥争いが大きいのは間違いないけど、そこに入っていない貴族もたっぷりいる。そんなヤツらは気にせず俺を取り込もうとしてくる——レッドアームベア討伐の話は光の速さで学園に広まっていた。あれから数日経ってるけど、もう、みんながみんな「黒髪の黒鋼1年がヤバイ」って顔でこっち見てくるもんな。

 貴族連中は眉唾だと思っていても、とりあえずツバつけとくかって感じで声をかけてくる。


「そう……だね」


 リットの歯切れが悪くなったのは、前から歩いてきたのが黄槍クラス1年の集団だったからだ。

 相変わらずマテューは集団のリーダー格で、フランシスはその横を歩いている。だけどちょっと人数が少なくなったようにも見える——あっちはあっちでいろいろとあったんだろう。

 リットはパーカーのフードを頭からかぶっている。夏のクソ暑い日だというのに怪しいことこの上ないが、まあ、マテューの家とはいろいろあるようだから顔を隠したいんだろう。

 俺はとっくに黒鋼パーカーを着るのはあきらめて、手にぶら下げてるけどな。

 マテューは怪しさ満点のリットよりも俺が気になるようで、こちらをじろりと見つめていたが、苦々しく顔を逸らした。

 その横にいたフランシスはにぱっとした笑顔でこちらに手を振っている。お、おお……お前なんかキャラ変わったな? と思いつつ俺も手を振り返した。


「——もう行ったぞ、リット」

「…………」


 無言でリットはフードを外した。暑いんだろうなあ、こめかみに髪が汗でくっついている。


「黒鋼のパーカー、暑すぎるからどうにかならないかジノブランド先生に聞いてみようかな。なんかフルチン先輩とかはもうパーカーなんて着ないみたいなんだよ。でもそれってクラスのアイデンティティー的にどうなの? って気がするし。夏休みが長いから、みんな戻ってくるときは涼しくなっててあんまり問題になってないっていうのもあるらしいけどさ」

「……ソーマ」


 ぴたりと立ち止まったリットが言う。


「なにも聞かないんだね」


 それはきっと、リットとマテューのことだろう。

 俺はばりばりと後頭部をかいた。


「気にならないって言ったらウソになるけど、黄槍クラスとのいざこざは終わってるんだし、別にいいよ。お前の心が整理されてからで。ていうか言わなくてもいいし」

「……うん」


 俺もマテューの部屋に忍び込んで日記を盗み見たことなんてマテューに言えるわけないし。


「あのマテューってヤツも、苦労してんだろうな。そうは見せてないけど」

「そう……かな?」

「リット、お前も男ならわかるだろ。虚勢を張らなきゃいけないときがあるじゃん。どんなにキツくってもさ」

「…………」


 リットは振り返り、マテューの去ったほうを見ながらつぶやく。


「……ボクには、わからないな」


 それから俺とリットは再度歩き出し、王都側の門を通って王都へと出た。

 舞踏会で使う服を受け取るためだ。

 舞踏会、って……。まあ、騎士になるってことは男爵位を受け取ることで、舞踏会とか夜会とか晩餐会とかお茶会とかいろいろ出なけりゃいけないみたいだけどさ、まさか1年のときからやることになるなんて思わないよ……。

 明日で、学園の授業は終わり、長い夏期休暇に突入する。

 舞踏会は明日の夜に開かれる。

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