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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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受けた傷を乗り越えて

いろいろと体力が限界を迎えていて書けませんでした。いっぱい寝たのでもう大丈夫!(子ども脳)

 対抗戦の結果は翌日貼り出されたのだけれど、それと同時に俺はあることを耳にした。

 キールくんが、対抗戦で無理をしすぎて倒れたって。

 それで結果をちゃんと見るよりも先にキールくんがいるという王都の邸宅へと向かった。もちろん俺なんかが入れてもらえるわけもない公爵家の邸宅ではあるんだけど、俺にキールくんのことを知らせてくれたリエリィもいっしょだから問題なかった。


「キールくん!」


 彼が寝かされているという部屋へと通された俺は、額に、腕に、包帯を巻いている彼を見て思わず声が出た。


「——あ、ソーマくん……」


 朝の陽射しが金髪に当たってキラキラしていて、寝間着らしい純白シルクの上着は滑らかで、半身を起こしていた彼は困ったように笑った。控えめに言っても天使にしか見えない。


「だ、大丈夫なのかよ」

「黒鋼、それ以上近づくな」


 室内にいた、屈強な男ふたりが俺とキールくんの間に立ちふさがる。ははーん、これはふたりの愛を邪魔する障害物だな? 破壊してもいいんだな?(錯乱)


「下がってください。ソーマくんは私の大切なお客様ですよ」


 きろりとキールくんがにらむと、男ふたりは慇懃に頭を下げながらもまったく納得していない顔で引き下がる。

 なーんだ、障害物じゃなかったのか……じゃない!


「キールくん、その傷は……」

「ははは……ちょっと失敗しましたね。包帯はちょっと大げさなんですよ、実際には軽傷です」

「でも倒れたって聞いたぞ」

「それは、体力が足りなすぎました」


 俺はキールくんのそばに椅子を持ってきて座る。リエリィは俺の横にすっと立った。


「……蒼竜クラスは私のことを徹底的にマークしてきました。大盾で完全武装した3チームを私につけ、ヴァントール様は白騎チームを各個撃破して得点を稼ぎました。エクストラスキルでなんとか3チームを倒したときには時すでに遅く、白騎クラスの敗北は決まっていました」

「そうだったのか……」


 ヴァントールって確か、ヤ○ザの下っ端構成員かチンピラみたいなヤツだよな。

 そんな頭脳プレーを仕掛けてくるのか。


「ヴァントール様はキルトフリューグ様との決闘で負けてから、この対抗戦で勝つことに焦点を合わせていましたもの」

「リエリィも知っていたのか?」

「はい。ですがあそこまでなりふり構わず勝ちに来るとは思いませんでしたもの」


 なりふり構わず、というのはキールくんの完全封殺のことだろう。

 勝利と言えば勝利だが、騎士的にどうなの? という感じではあるらしい。


「それでも蒼竜クラスの意気は上がり、白騎クラスはだいぶ落ち込んでいるようです。もう少しで夏期休暇なので……白騎クラスの敗北は生徒の各地元にも広がるでしょうね」

「それが狙いか」

「おそらく」


 瞳を伏せながら、キールくんは俺に言う。


「ごめんなさい、ソーマくん……黒鋼クラスが大変なときに、私はなにもできませんでした。蒼竜クラスがなにか仕掛けてくるだろうと考え、白騎で対応策を考え、実行することに追われていたのです。だというのに敗北するというこの有様……恥ずかしくて顔を上げられません」

「い、いいよそんなの。俺たち友だちだろ? だったらお互い、自分のことはしっかり自分でやらなきゃ。それで対等じゃん。そんな心配しなくていいって……俺だってキールくんのこと聞いて、心配でたまらなくて来ちゃったんだよ。俺も自分のことばっかりで、キールくんは大丈夫、とか勝手に考えてたから……反省したよ」


 友だち、対等、という言葉を使うとキールくんは目をパチパチし、リエリィはぎょっとした顔をした。


「……ソーマくん、ありがとう……」


 目にうっすらと涙を浮かべて、キールくんは震える声で言った。

 これが女の子だったら惚れてたね。いや、天使に性別はないのだから俺が恋に落ちても問題ないのでは? しかし俺のストライクゾーンはもっと年齢的に上なんだよな(錯乱継続)。


「黒鋼クラスは、すごかったみたいですね。トッチョ様の活躍はうっすらと聞いています」

「お、おう、あいつな……」

「ソーマくんはどうだったんですか?」

「お、おう、俺な……」

「?」


 言えない。こんな無垢な顔をしたキールくんに、開幕早々マテューを見つけて突っ込んでいって「生命の躍動(ライトインパクト)」からの「一閃(スラッシュ)」をぶち込もうとしたら体力の限界をオーバーしていてそのまま気を失ったなんて言えない。ちょっと寝たくらいじゃ回復しきれんかったんや……。

 で、俺のチームはそのまま敗退。きょとんとしているマテューだったが、同じようにチームにいたフランシスも体力の限界で倒れると、そこへトッチョが突っ込んできて大将のマテューを討伐。トッチョのテンション爆上がりで大将を狩りまくって見事個人1位。

 陰からちくちく弓で点数を稼いでいたオービットも3位に入るという。

 他のみんなも、大将こそトッチョに取られまくったけど、他のメンバーをばしばし仕留めていったらしい。

 黒鋼クラスが1位になったからよかったものの、これで1位じゃなかったら袋だたきに遭ってた可能性もある(ガラハドさんも加勢して)。


「そんなことよりさ! リエリィもすごかったんだな!」

「当たった相手がよかっただけですもの」


 おお、リエリィも言うなぁ……確かにクラス対抗戦は、当たるチームとの相性とかで順位が変わるもんな。


「それよりも、ソーマさんですもの」

「え、お、俺……?」


 まさかリエリィ氏、拙者の開幕気絶をご存じであるか……!?


「昨日、対抗戦の前にレッドアームベアを討伐したと聞きましたもの」

「なんだ、そっちか」

「……え?」

「え? あ」


 やべ、そういやあの件はどうなったんだ? 口止めとかしてる余裕まったくなかったけど、どうしてリエリィまで知ってる?


「……どういうことですか、ソーマくん」

「ちょ、ちょっと落ち着こうか、キールくん。なんか目に剣呑なものが見えるんだけど……?」

「対抗戦の前!? レッドアームベア!? なにをやってるんですか!」

「待って待ってキールくん、興奮するとケガにさわるから——」

「これが興奮せずにいられ——あっ」


 ひゅるるるという音がしそうな感じでキールくんがベッドに倒れ込むと、医者が飛び込んで来て俺たちは出て行けと追い出された。

 いやほんと……ごめんなさい、キールくん。寝込んでた人を興奮させるとかなにしてるんだって話だよな。俺? 俺も寝込んでたけど、俺はまあ、鍛え方が違うから(さりげない自慢)。




「……それで、どういうことですもの?」


 学園への帰り道、リエリィが俺にたずねた。

 どこまで話すか迷ったけど、考えてもわからないのでとりあえず全部話すことにした。

 ふんふんという感じで聞いていたリエリィだったけど、二晩森で明かして、最後はガチンコでレッドアームベアに勝ったという話でなんとも言えない顔になっていった。

 この子、とっつきにくそうな美形なんだけど、よく見ると変化に富んでるよな。


「なるほど……はあ、なるほどですもの……」


 なぜため息を挟んだ。


「……レッドアームベアのことはこの夏の間に多くの生徒が知ることになると思いますもの。そうなればきっとソーマさんへの風当たりはどんどん強くなります」

「えっ、どうして?」

「前回の討伐もソーマさんがしたのでしょう?」

「…………」


 あ〜、その件があったか。

 俺の無言を「肯定」と捉えたリエリィは、


「フランシス様のウソ(・・)で宙に浮いた感謝メダルがありますもの。今回、ソーマさんが倒したとなれば前回のものとあわせて、メダルを授与しなければならなくなります」

「要らないんだけど……」


 売って金になるならもらうけど。


「でしたら早めに言っておいたほうがいいと思いますもの。メダルの授与がなければ、ソーマさんの行動は、目立ちはするものの、疑わしいこととして早めに忘れられます。目立てば目立つほど風当たりが強くなるものですもの」

「そ、そうするわ」


 こうなってみると対抗戦で結果が出なかったことは「災い転じて福となる」ですね——とリエリィは付け加えた。対抗戦で最低点だった俺がまさかレッドアームベアを倒したとは思われないってことだろう。


「それでも——耳ざとい者は、確実に、ソーマさんをマークしますもの」


 リエリィの言葉は確信に満ちていて、宣言のようですらあった。




 昨日の疲れもまだ抜けていないというのにドッと疲れた俺は、リエリィと別れ、なんとなく掲示板を見に行った。まだちゃんと見てなかったしな。

 黒鋼クラスの1位は何度見ても輝いて見えるぜ……みんながんばったもんな。

 クラスのメンバーも上位者が多く、採点に当たった教官はしっかり見てくれていたんだなとうれしくなる。厳しそうな人だったけど、それだけに不公平はナシだったってことか。

 ジィィィ、ジィィィとセミの鳴き声が聞こえていた。

 暑くなってきたな。ていうかこの黒のパーカーで夏を過ごすとか頭おかしいんじゃないか、学園は? 袖を切っていいか、あるいはせめて黒のシャツにしていいかどうか聞いてみよう……とか考えながら俺は黒鋼寮へ戻ろうときびすを返した。今ごろみんな、勝利を祝ってどんちゃん騒ぎ(ノンアルコール)だろうな。


「——ソ、ソーンマルクス……くん」


 と、俺に声を掛けてきた人影があった。

 そこにいたのは、二晩ほどふたりっきりの夜を過ごした美少年である。


「フランシス! もう身体はいいのか?」


 ちなみにキールくんという天使と接触がある俺は、美少年に対する免疫が非常に高い。ちょっとやそっとの美少年では心が揺らぎもしないぜ! ……いい加減巨乳のお姉さんが俺に接近してきてもいいと思うのですがまだですか?


「だ、大丈夫だよ。なんせただの寝不足だから……ソーンマルクス、くん、のほうこそどうなんだよ」

「ああ、俺はもうバッチリ。むしろ寝過ぎて疲れた」

「そっか……鍛え方が違うんだな」


 俺の身体をじろじろと見てくる。その目はちょっと潤んでいて、頬は赤みを帯びているのだが、大丈夫かこの子。まだ熱かなんかあるんじゃないの?


「つか、悪かったな。黄槍クラスにボコボコに勝っちゃったみたいで……」

「……謝るのはこっちだろ。今まで散々妨害工作して……しかも僕は卑劣にも、君を殺そうと……」


 フランシスの目にぶわっと涙があふれそうになる。


「わー! 止め、止め! とりあえず俺もお前も生きてる、それでいいじゃねーか!」

「でも、でも……」

「泣くなよ、もう」


 俺はポケットからハンカチ代わりの布きれを出してフランシスの目を拭いてやった。拭いたあとに「伯爵家の僕にこんな汚い布を押しつけやがって!」と切れられたらどうしようかと思ったけど、そんなことはなかった。


「……僕もそうだけど、マテューも今回のこと、相当懲りたみたい。もう二度と黒鋼クラスに嫌がらせなんかしないだろうし、クラスのみんなにも『黒鋼クラスに逆恨みなんてダサイ真似しやがったら俺様がぶち殺す』って言ってた」

「お、おう……相変わらず沸点低そうなヤツだな」

「たぶん、だけど、第1王子の派閥も抜けるんじゃないかな」

「……は? 大丈夫なのか、勝手にそんなことして。親とかいろいろしがらみがあるだろ」

「学園にいる間は僕らの自由だよ。親の介入なんて蹴散らしてやる……って思いたいね。無理かもしれないけど」


 フランシスは弱々しく笑った。


「おー、それはいいな! 俺にできることがあったら手伝ってやるから言ってくれよ」

「え……い、いいの?」

「お前だって好きで貴族の息子に産まれたわけじゃないだろ。だったらちょっとくらい反抗したっていい。その権利くらいあるよ。同じ学年の俺がそれを手伝う権利だってある」


 ちなみに義務についてはノーサンキューだ。


「ありがとう……ソーンマルクスくん」

「ソーマ、だ。ソーンマルクスって長いから」

「う、うん。ソーマくん」

「呼び捨てでもいいけど。俺もお前のことフランシスフランシス言ってるし」

「そ、そうかな? じゃ、じゃあ、ソーマ」

「おう」

「ソーマ」

「おう」

「へへっ」


 フランシスはいい笑顔をした。

 この笑顔、うまくやれば街のお姉さんたちをだまくらかして一財産築けるほどの破壊力がある。

 だがしかし、俺には美少年免疫があるのである!

 にしても……フランシスも大変だったんだろうな、今まで。背中の傷を思い出すと、なんとも言えないもやっとした気持ちになる。

 彼の傷が癒えて、古傷も目立たなくなったころにようやく、独り立ちできるんじゃないだろうか。


「じゃあね、ソーマ!」

「おう、またな〜」


 手を振って、俺はフランシスに別れを告げる。


「また! 舞踏会で!」

「おう!」


 ……って、え? 舞踏会?

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