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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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帰還した少年による俺俺詐欺?

   * 冒険者ブラウン *




 冒険者としての人生を何年も送っていれば、「忘れられない出来事」というのはいくつもできる。今日のこのことも、間違いなくそのうちの1つになるだろうと——「山駈ける鉄靴」のリーダー、ブラウンは確信していた。

 レッドアームベアが倒れ、その向こうにいた黒髪の少年——学園騎士の1年生であるソーンマルクス=レックが倒れかけたのを仲間が支えた。

 それを見てブラウンはハッとする。


「あ——お、おい、お前ら! 行くぞ! 救出だ!!」

「お、おう!」

「そうだった」


 ブラウンの声で仲間たちが走り出す。

 レッドアームベアのそばをとおると、多数の傷がレッドアームベアにつけられているのがわかる。

 目を見開いたまま絶命している——していると思われる——レッドアームベアには近寄りたくなくて、ぐるり迂回して走っていく。


「だ、大丈夫か!」


 ブラウンがようやく駈け寄ると、ソーンマルクスはへらりと笑った。


「——よかった、フランシスが呼んでくれたの、ブラウンさんのところでしたか」

「ああ、もう心配要らない。俺たちが君を安全なところに運ぶ」


 どの口でそんな言葉を言うのだろうとブラウンは自嘲したい気分だった。

 確認が必要だが、ほぼ確定的にソーンマルクスがこのレッドアームベアを倒した、ということだろう。

 前回もそうだったのだ。

 彼が、レッドアームベアを倒した。だがなんらかの理由で彼はその情報を隠そうと考え、「騎士が倒した」などと言ったのだ——そして自分はなにも疑うことなく信じた。

 自分よりも半分以上年若の少年が、これほど凶暴な敵を倒したのだ。そんな彼に向かって「安全なところに運ぶ」だなんて。


(……感傷に浸るのは後だ。まずはこのふたりを担いで運ぶ。近いのはどの街だ? いっそ王都へ行ったほうがいいか? そして——)


 とブラウンが考えを巡らせていると、


「ブラウンさん……俺、今死ぬほど眠くて、落ちそう(・・・・)だから先に言っておきます」

「な、なんだ? なんでも言ってくれ!」

「あのぅ——」


 そしてソーンマルクスは、ブラウンが思いも寄らなかったことを口にした。


「学園に連れて行ってください。今日、対抗戦なんで——」


 宣言通りそのまま気を失った彼を背負い、ほんとうに騎士学園へ連れて行くべきなのかブラウンは迷った。だが学園には医療施設もあることから学園を目指すことにした。

 対抗戦、とやらがなんなのか、ブラウンは知らなかった。

 まさか「武技」の実技試験なのだと知っていたら、少年の言葉どおりに動くことはなかっただろう。よほど大事ななにかなのだと思っただけだった。

 事情を聞くにしても、もうひとりの少年フランシスも気を失っており、パーティーメンバーが背負うことになった。

 冒険者ギルドで借りた馬車まで戻り、ふたりを横たえる。傷の治療をと思ったのだがソーンマルクスはほぼ無傷(・・・・)であったことに驚いた。


「すごいな……いや、当然か。かすりでもしたら肉がえぐれるような攻撃だろうからな」


 つまるところソーンマルクスは純粋に、疲労のために眠っているのだ。彼の浴びている血は返り血だということになる。

 レッドアームベアは冒険者ギルドが一度回収することになるだろう。あのサイズのレッドアームベアを売ったら、素材としていくらの値がつくか——死んだように眠る少年を見て、ブラウンは、うらやましいような絶対に真似はできないようなそんな気がしていた。

 森を迂回する道を進むために結構な時間がかかった。そして学園に入る時点で、ソーンマルクス、フランシス本人の確認が行われさらに時間がかかった。それまで眠っていたソーンマルクスとフランシスもさすがに目が覚め、


「ちょっ、今何時!?」


 焦った声を上げた。

 時間を告げると彼は走り出し、フランシスもまたそれについていく。

 そう言えば今日は対抗戦かー、だなんて付き添いでいた学園の警備兵が言うので、


「対抗戦ってのはなんなんですか」

「ああ、それはな……」


 そこで初めてブラウンは「クラス対抗戦」がなんなのかを知り、呆れて声も出なかった。

 彼は——自分の身よりも、試験を心配していたのだから。




   * ソーンマルクス=レック *




「……でも、まだがんばれる。ボクだけじゃなかったんだよね、黒鋼クラスは。みんなでがんばれる」


 まさかリットが、そんなことを言ってくれるだなんて夢にも思わなかった。

 俺がいなかった2日でいったいなにがあったっていうんだよ? オリザちゃんも、スヴェンも、なんかみんな仲良しになってて、仲間はずれになった気持ちを味わってるんだけど?

 だから、だよ。

 なるべくでっかい声で、俺は集団に近づいていきながらこう言ったんだ。


「——よく言った、リット!」


 そのときのみんなの顔が笑えてさ。

 ぽかーんとして。死人がよみがえったみたいな顔して……って俺の格好が泥と血まみれだからしょうがないのか?


「ソーマ……?」

「おう。ぎりぎり間に合った感じ? 対抗戦」

「ソーマ……」

「お、おう、だから俺だって。俺俺。なんだこれ、俺俺詐欺みたいで逆にうさんくさいっていうな。ははっ——」

「ソーマぁぁぁっ!」

「うおあ!?」


 リットだけじゃない、みんなが——クラスのみんながこっちに走ってきた。

 最初にリットに抱きつかれ、次にオリザちゃんに頭を抱えられ——当たってる当たってる! 発展途中の胸が当たってるよ! 俺はあっという間にみんなに囲まれた。

 それから身体を心配され、無傷だとわかるとどこに行っていたのかを問われ、不在を怒られ、なじられ、泣かれ、なんかもう大変なことになって——。


「……フランシス」


 そのときフランシスもまた、マテューのいる黄槍クラスへと戻っていくところだった。「おいおいお前どこ行ってたんだよ~」と軽いノリの連中がフランシスのところへとやってきたけれど、フランシスがいつの間にか身体に巻きつけていたボロ布を取ると——背中の傷痕があらわになってクラスメイトたちはドン引きしていた。


「お前、それでいいんだな」


 だけどマテューだけはフランシスに対して真顔だった。たぶん、フランシスのことをそれなりに知っているんだろうな。

 フランシスが傷痕を衆目にさらしたことの意味を——覚悟だと受け止めたんだ。


「……うん。僕はもう逃げない」

「そうか。お前、強くなるよ」


 そのときちらりとフランシスはこっちに視線を投げた。


「でも僕は、僕よりもはるかに強い人を知ってる……今日の対抗戦。かなりキツイと思うよ」


 それを聞いた黄槍クラスの面々は「なに言ってんだ」という顔だった。

 だけどマテューは笑わず、俺をぎろりとにらみつけた——。


「なにを騒いでおるか!」


 とそこへ教官が一喝した。


「遅刻者が間に合ったのならさっさと整列せんか!」


 厳しく言いながらも、なんだかんだ俺たちが落ち着くまで待ってくれていたあたり、武技の教官はいい人が多い気がする。我が黒鋼クラスの武技教官にして戦闘民族であるベ○ータ先生とかさ。


「すみません、教官。ソーンマルクス=レック。到着しました」

「フランシス……ルードブルク、同じく到着しました」


 伯爵家を意味する「アクシア」を口にしなかったフランシスを、多くの生徒たちが驚いた顔で見ていた。


「うむ。では双方ともに配置につけ! 試合開始は15分後——」


 俺たち黒鋼クラスは、なるべく早く位置につこうと走り出す。

 リットが地図を差し出してきたけど、配置はリットに任せる、と俺は言った。リットは一瞬戸惑ったけれど、「うん」としっかりとうなずいた。

 目の前には未知のフィールド。ちょっと地図を見ただけではすぐに頭に入らないような立体の障害物だ。

 俺のコンディションは正直、いいとはまったく言えない。

 だけどクラス全体の士気は上々だ。


「みんな、落ち着いてやれば勝てるからな!」


 俺は声を張り上げた。


「敵はガラハド先生よりは弱い!」


 当たり前だ、と逆にみんなから怒られた。

 同時にあはははと笑い声が起きる。

 大丈夫——いい感じに緊張はほぐれている。


 鐘が鳴る。戦いの始まりを告げる鐘が。


 はあ〜、よかった。なんとか間に合った……。




   * 夏期クラス対抗戦結果発表 *




 ・夏期クラス対抗戦 クラス別順位・1年生・


   1位 黒鋼クラス

   2位 緋剣クラス

   3位 蒼竜クラス

   4位 白騎クラス

   5位 碧盾クラス

   6位 黄槍クラス



 ・夏期クラス対抗戦 個人順位・1年生・


   1位 トッチョ=シールディア=ラングブルク(95ポイント・黒鋼)

   2位 リエルスローズ=アクシア=グランブルク(83ポイント・緋剣)

   3位 オービット=ドライエック(69ポイント・黒鋼)

   4位 ヴァントール=ランツィア=ハーケンベルク(68ポイント・蒼竜)

   5位 キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク(63ポイント・白騎)

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