2020年第3四半期に「1」以下になっているテクノロジーノードは、90nm、65nm、40/45nmがある。しかし、65nmは第4四半期に1を超えて回復し、40/45nmも0.98と「1」に近づいている。90nmだけが0.82と回復が遅い。しかし、この90nmの半導体が足りないために、世界中のクルマメーカーが減産になっているとは考えにくい。
それよりも、28nm、16/20nm、7nm、5nmなど、先端ファブレス等と製造キャパシテイの奪い合いとなっている最先端半導体が不足していると考える方が理にかなっている。要するに、TSMCは、最先端の半導体を増産しているのだが、先端ファブレスの需要があまりにも大きいため、一旦キャンセルされた車載半導体に戻す余裕が無いと考えられる。
車載半導体の供給不足はいつ解消されるか
日米欧の政府からの要請に対して、UMCは「すぐに車載半導体の増産には応じられない」と回答した。また、TSMCは「通常の工程で40~50日かかる納期を最大20~25日に半減する“スーパーホットライン”を検討する」と述べたことを冒頭で説明した。
しかし、“スーパーホットライン”は応急処置でしかなく、根本対策にはなり得ない。したがって、車載半導体専用の量産工場を建設するしか解決手段は無いと思われる。そして、工場建設、各種製造装置の導入、各種の車載半導体のプロセス移管には1~2年程かかると思われる。
その際、最も厄介なのが車載半導体特有の『ライン認定』である。車載半導体は、一般の半導体に対して、極めて高水準の信頼性を要求される(表1)。その信頼性を担保するため、1000工程からなる車載半導体を開発した場合、そのプロセスで半年~1年程度、安定して完全動作する車載半導体ができることを立証し、その工場を『ライン認定』する。
出所:日経マイクロデバイス第8回信頼性フォーラムのデンソーの資料(2008年9月1日)
そして、一旦『ライン認定』された1000工程のプロセスについては、原則として製造装置やプロセス条件の変更ができなくなる。
半導体工場としては、他製品との兼ね合いや他工場との生産計画の調整、または微細化の推進、歩どまり改善、スループットの向上などのために、製造ラインを変更したい、設備を変更したい、プロセス条件を変更したいと思っても、発注者である上位メーカーがそれを許可しないのである。
その背景には、もし装置を変更したり、プロセス条件を変更して不良が発生し、その結果として自動車事故が起きたら、「いったい誰が責任を取るのか」という極めて保守的な思想が存在している。
以上から、車載半導体の供給不足を完全に解消するには、早くて1年、場合によっては2年以上かかるかもしれない。
トヨタがTSMC詣でをする日
かつて、車載半導体と言えば、40/45nm以前のレガシーなプロセスが標準だった。しかし、100年に一度といわれるCASEの大変革が起きつつあるクルマ産業界においては、5G通信用半導体や自動運転用AI半導体など、最先端半導体が必要不可欠になってきた。その製造のボトルネックになっているのが、TSMCである。
2017年頃、データセンターに必要なサーバー用の最先端DRAMが不足したため、クラウドメーカーのAmazon、Microsoft、Googleが揃ってSamsung詣でを行った。今後は、CASE用最先端半導体を求めて、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズなどのクルマメーカーがTSMC詣でをすることになるのかもしれない。