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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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本日のスペシャルゲストはッッッ


「とはいえ、マテュー様は証拠を残していないでしょうね。それほど簡単に尻尾をつかませてはくれないはずです」


 キールくんは形の良い眉をひそめた。


「……え? ちょっと待って、なにその言い方。マテューが犯人なの、やっぱり?」

「正確にはご実家のハンマブルク家でしょう。あそこはマテュー様へも過干渉で、学園に出入りしている業者にも手を回していますし、クラス対抗戦で当たる黒鋼クラスをおとしめるという動機も十分です」

「でもそれって状況証拠じゃ……」

「貴族社会では状況証拠がそろえば報復をしますよ」

「え」


 貴族怖すぎない? 法律とか遵守しよ?


「……今、ソーマくんが声を上げても、黙殺されるか、より強い反発が起きるだけでしょう。私からは黒鋼寮周辺の警備を強めるよう依頼しておきます」

「ありがとう、キールくん」

「それと、日記の件ですが……オーグブルク家の娘を、マテュー様はいまだに忘れられず、それでその娘の母方であるホーネット家から来ているリット様を保護したい、というふうにソーマくんは読み取ったのですね」

「ああ。そうにらんでる」

「……マテュー様が恋していたという少女の名前をソーマくんは知っていますか?」

「そう言えば名前は書いてなかったな」


 少しだけ考えるようにしてから、キールくんは言った。


「ファーリット嬢……ファーリット=ランツィア=オーグブルク」


 それからキールくんは、オーグルブルク侯爵家に起きた「悲劇」について教えてくれた。

 若くして侯爵当主が亡くなったことが問題の発端だった。

 彼は複数の妻と複数の子がいたが、最初に生まれた男子は男爵家からとった嫁の子で、次に生まれた男子は公爵家からとった嫁の子だった。

 同じ貴族であれば、家格の差は無視して長男が相続するのがふつうだったが、男爵と公爵とではさすがに差が大きく——公爵家が強く後押しした結果、跡目争いで大もめに揉めた。

 毒殺未遂は当たり前。最後は襲撃者をお互い同時に送り込んでの血で血を洗う争いとなり、屋敷は全焼、先代侯爵の血を引く者は全員亡くなった——ということだ。


「横やりを入れた公爵家は『三大公爵家』に当たる家で、その権力にあやかりたい貴族の多くが次男を推し、逆にその公爵家を嫌う貴族がまとまって長男を推しました。結果として悲劇が起き……王宮は、オーグブルク家をとりつぶすことで事態を解決することしかできなかったと聞いています」

「ひでえな……他の貴族はお咎めナシかよ」

「きちんと調べて罰を下すにはあまりに大勢が関与していたということかもしれません」

「……マテューは、そんな家のヤツに恋をしていて、ホーネット家にいたリットもマテューの動きを知っていたのかもしれないな。そこの娘とリットとは、いとこ同士とかそれくらいの近さなのかも」

「そう……ですね。いえ、むしろ——」


 言いかけたキールくんは口を閉じ、小さく首を横に振った。


「ともかく、ソーマくんがマテュー様の部屋に忍び込んだことは、要らぬ心配を呼ぶだけですから、リット様には言わないほうがいいでしょうね」


 そのとおりだと、思った。




 それから1週間が経ったけれど、不思議なことに黒鋼クラスへの嫌がらせは発生しなかった。

 黒鋼寮周辺にはいつも「警備員」のタスキを掛けたフルアーマーの老人たちが詰めており、これが効いているのかもしれない。

 いやなんていうか、フルフェイスのヘルメットの向こうにある眼力がめっちゃ鋭いんだわ。さすが「生涯騎士」を地で行くジイさんたちだ。

 俺はふと思いついて、ジイさんたちにある頼み事をした——。


「そんなわけで今日のトレーニングのスペシャルゲストです」


 週末の郊外トレーニングに、「警備員」の皆さんにも参加してもらったのだ。

 すでにフルアーマーで、じっとしているジイさんたちを見て男子たちが侮った顔をする。


「いや……つーかさ、おじいさんたちが俺たちの体力についてこられるわけ?」


 トッチョが言うと、みんなうんうんとうなずいている。

 ハハハ、こやつめ。地獄のトレーニングを続けた結果、体力がついてきているからと調子に乗っておる。


「……ガラハド先生、このような意見が出ておりますので、是非ともお力を見せていただきたく」


 俺が「警備員」のひとりにそう言うと、ジイさん——ガラハドさんはこくりとうなずいた。


「何人でも構わんから、一斉にかかってきんしゃい」


 ひょろりとした声だったが、それは全員に聞こえていたらしい。


「へぇ……全員、ねえ?」


 ゆらりとトッチョが武器を構えると、彼と同じチームメンバーはルチカも含めて戦闘態勢に移った。

 同様に他のクラスメイトたちもだ。


「お、おい。いいのかよソーマ?」

「大丈夫だよ、オリザちゃん。大丈夫でなければ呼んだりしないから」

「アンタは参加しないのか?」

「俺は別に——ってスヴェンがノリノリで行こうとしてるな。面白いからやらせとこう」


 肩を回しているスヴェンは無表情ながら、いつもと違う相手と戦えることを喜んでいるようだ。

 相変わらず、うちのチームは3人しかいない。リットはまだトレーニングに参加してくれないんだよな……。


「それじゃ、みんなケガだけはするなよー。スタート」


 俺は開始の合図を出した。


「食らえ!『正突(ピアース)』!!」

「……『斬撃(スラッシュ)』」


 真っ先にトッチョとスヴェンのふたりがエクストラスキルを放つ。

 だがガラハドさんは、手にしていた金属製の警棒(・・)を、ぶんっ、ぶんっ、と2度振り回すだけで、まずは斬撃をはたき落とし、トッチョの槍先を弾いた。


「なにっ!?」

「!!」


 あまりの出来事にふたりは硬直するが、ガラハドさんの背後を狙ったのは○×◇の3人だ。3人そろってエクストラスキルに開眼しており、キレイに並んだ斬撃が3つ、飛来する。

 だがそれは、ガラハドさんの背後を守る仲間——ジョニーさんが丸盾で受け止める。

 3つのエクストラスキルを、盾で受け止めたら吹っ飛びそうなものなのに、ガインッと音がしたくらいでジョニーさんは平気で立っていた。

 唖然とする3人へとジョニーさんはすでに距離を詰めており、


「ほいっ」


 と丸盾を突き出すや、【盾術】のエクストラスキルである「波動盾(シールドバッシュ)」を放つ。盾を中心に衝撃波が走るこのスキルは、戦闘に慣れていない○×◇を吹っ飛ばすには十分だった。

 それ以外にもオービットや、男子たち数人がエクストラスキルに目覚めているものの、そのどれもが簡単にいなされ、消されていた。

 10分もすれば全員が制圧される……というより、疲れ果てて動けなくなっていた。

 逆に金属鎧を着込んだ老人4人が突っ立っているという恐るべき現実が目の前にはあった。

 スヴェンはあとちょっとで剣が当たるというところまで行って、「警備員」と書かれたタスキをわずかに斬るところまではいったんだけど、そこまでだった。むしろ「お主、なかなかやるの?」と優先的にたたきのめされていた。


「いやー……ここまでとは思いませんでした。さすがガラハド先生」

「たいしたことではない」

「いやいや、だって実質ガラハド先生とジョニー先生しか動いてませんよね? 残りのお二方は武器すら持ってないじゃないですか」

「うむ。これが立ち回りじゃ。立ち回りとは——」

「はい、みんな注目! 静かにして聞いて!」


 俺はパンパンと手を叩いて注目させようとしたが、「もうしゃべる元気もねぇよ……」とうつぶせのトッチョが息も絶え絶えに言うだけだった。


「ではまず——」


 ガラハドさんは教えてくれた。

 体力的に劣っているはずの老人たちではなく、なぜ学生が先にバテたのか? それは戦いのペース配分をミスっているからだ。全力を込めるときと、そうでないときのバランスを考えるべき。

 あとは、自身が動かなくとも相手を動かすよう仕草で誘いをかけることもできる。

 老人たちは現役から退いてはいるものの、かつて身につけたエクストラスキルやエクストラボーナスは健在なので、それに「経験」を上乗せすれば学生の手をひねるくらいお茶の子さいさいというわけだ。


「いちばんは、戦闘経験が不足しとる。よくもまあこの年でエクストラスキルを持っているものだと感心はしたがの、しかしスキルを持っているだけで使い方が雑じゃ」

「なるほど。大変勉強になります」

「して、お前さんは?」

「はい?」

「ソーンマルクスくん、君もかかってきんしゃい」

「…………」


 マジか。いや、確かに、俺も今回のことは相当学ぶことが多いとは思っているけれども。

 ちらりと見ると、ぐったりした男子たちが「お前も地獄(こっち)へ来い……」という目をしている。


「——わかりました。よろしくお願いします」


 全力で来いと言ってもらえたのだ。

 胸を借りるつもりで行こう。


生命の躍動(ライトインパクト)

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