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学園騎士のレベルアップ! 〜 レベル1000超えの転生者、落ちこぼれクラスに入学。そして、 作者:三上康明
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動き出すクラスと、かすかな予感

書籍版発売から7日が経過しました。お付き合いいただいてありがとうございました。


ここからの更新ペースですが、ちょっと私生活でごたごたしておりまして、結構間が空いてしまうと思います。

……と言いながら、やればできそうなのでまた1週間は毎日更新します! クラス対抗戦へ向けてやるぞー!


 対戦相手は黄槍クラス——俺の脳裏にマテューの顔がよぎる。


「あいつ……」


 この組み合わせって誰がどうやって決めてるんだ? まさかマテューが金の力でウチと当たるようにした……なんてことはないよな?

 ……ない、とは言い切れないのが恐ろしい。


「えーっと、あとはルールについて、と……リット?」


 俺がもう1枚の紙、詳細ルールを確認しようとしたらリットが俺の隣から離れていく。「ごめん、ちょっと体調が悪い」と言って。


「体調? って……」


 俺はそのとき、周囲の空気が変わっているのに気がついた。

 緋剣クラスの女子たちが、碧盾クラスを見据えている。碧盾クラスはマンモスクラスだけあって玉石混淆っぽいのだが、中でも三つ編みの女の子——どこかで見たことあるな、あの子——は好戦的な目でリエリィを見返している。視線がぶつかってバチバチと音が鳴っているかのようだ。

 そのとき周囲がざわついた。

 俺が振り返ると、そちらには白騎のクラスメイトを率いたキールくんがいた。だけど彼は俺に気がつくこともなく——どこか余裕がなさそうにも見えた。

 キールくんは掲示を一目見ると、すぐに近くにいた詰め襟っぽい集団、蒼竜クラスに視線を向ける。


「ここであなたと当たることになるとは思いませんでしたが……それすらも筋書き通り(・・・・・)だと?」

「公爵家の人間が、滅多なこと言うモンじゃねェや……ここは学園だぜ?」


 いつぞやの食堂で、俺にヤ○ザみたいな絡み方してきた蒼竜の生徒が、キールくんに言い返してなにやらあちらもバチバチしている。

 俺たちの相手である黄槍クラスだけはここに来ていないのがなんとも不気味だった。


「おいソーマ。相手は黄槍クラスだってよ」


 トッチョが話しかけてきた。コイツはいつも通りだな。周囲の空気が変わったことにも気づいていない可能性がある。空気とか読めないし。


「10チームか……よし、今から寮に戻って作戦会議だ」


 俺はみんなに言って、黒鋼寮へと戻った。




   * マテュー=アクシア=ハンマブルク *




「発表になったな、マテュー」

「……ああ」

「マテューの仕組んだとおりの組み合わせになったのか?」

「当然だ」


 自信満々の言葉に、仲間たちが「すごい」とか「さすが」とかいう声を上げる。

 小雨が窓を濡らしている。

 そこは中庭を見下ろすことができる廊下だった。窓越しにそれを眺めていたマテューは、誰かを視線で追っていたが、その人物がいなくなったのか、顔を周囲にいる仲間たちに向けた。

 黄槍クラスの男子、女子ともにここに集合していた。


「さあ、調子づいてる黒鋼クラスをブッ叩くぞ」


 おおっ、と仲間たちが反応した。


「……フランシス、それまでは手を出すんじゃねえ。いいな?」

「…………」


 マテューは少し離れたところにいる——今まではマテューのそばをうろついて離れない子犬のような男子だったのに——フランシスに声を掛けた。

 フランシスは、声を発しなかったが、小さくうなずいた。

 彼の周囲にはぽっかりと空洞ができている。同じ仲間であるはずのクラスメイトたちも若干の距離を置いているのだ。

 それは彼が停学になったからではない。

 停学明け、フランシスの身体はあちこちに包帯が巻かれていた。目がらんらんと輝いて、充血もしていた。

 停学中は黄槍寮にいなかったので彼がどこでなにをしていたのかは、付き合いの深いマテューたちしか知らないことだったが、よほどのことがあったのだろう。

 その原因が、フランシスを停学に追い込んだ黒鋼クラスの生徒にあるとなれば、フランシスが暴走しかねないとマテューが考えても不思議はない。

 だから釘を刺した。


「白騎と蒼竜はつぶし合いをすればいい。俺たちは黒鋼クラスでスコアを稼ぎ——学年1位に躍り出る。『見た目だけ』なんてもう言わせねえ……お前ら、気合い入れろ!」


 黄槍クラスのクラスメイトたちが拳を握りしめ、天へと掲げた。




   * ソーンマルクス=レック *




 クラス対抗戦に10チーム出場することになると、5チームが余ることになる。純粋な戦闘力で分けるにしても、これからはクラス内での模擬戦をやっていかなければならないだろう。

 ただ武技の授業では対抗戦を意識した内容にはしない、というふうに決まっているらしく、放課後や週末を使ってやっていくべきだろう。

 対抗戦のルールは、基本的には知っている内容だった。

 4人1組、大将が負けたらそのチームは敗北。

 だけど、1試合ずつ行われるかと思っていたのに——今回はなんと「全体戦」方式だった。

 クラス別に分かれて一斉に戦う。ただし4人1組を維持して戦うこと——相手クラスの大将が全滅するか、30分という制限時間いっぱいで試合終了。


「とりあえず、週末に演習をやろう」


 俺がそう提案すると、真っ先に男子たちから「肉」の心配が出てきた。

 そうなんだよなぁ……こいつら食べ盛りだからなぁ……。

 予想以上に消費量が多いんだ。貧乏、ってのもあるかもしれない。学園レストランに行けないから寮で飯を食うクラスメイトが多い。

 俺たち以外のチームが獲れる量が倍になってくれればもっと安定するんだけど。


「1日はこれまでどおり野獣狩り、もう1日は演習にする」

「肉が足りなくなったらどうする?」


 トッチョが聞いてきた。……すごく、切実な顔で。


「……我慢、してくれッ……!」


 俺が絞り出すように言うと、


「できねぇよッ……!」

「肉、たらふく食わしてくれるんじゃなかったのかよッ……!」

「肉がなきゃ、生きていけねぇ身体なんだッ……!」


 男子どもが絞り出すように口々に言う。コイツらノリだけはいいな。


「うーむ、それなら放課後に演習やるか? でもそうするとなぁ……他のクラスに偵察されそうなんだよな……」


 だって、マテューは黒鋼を叩く気満々だもんな。

 とりあえず全体戦に合わせた戦い方も考えなくちゃいけないので、一度解散とした。

 だけど、俺の悩みは翌日にはすっぱりと解決することになる。


「……あれ? これ、ソーセージ?」

「ハムじゃん!」

「うおおおお牛肉うめええええ!」


 翌日の黒鋼寮の食堂に並んだのは、今まで慣れ親しんだ肉たちだった。

 昨晩、俺はこれからのトレーニングメニューをどうするか遅くまで悩んでいて起きるのが遅くなった。

 だから俺が起きてきたときには男子たちが肉にガッついているところだった。

 いつものように鹿肉もあったが、そっちはあまり手がつけられていない。お前ら正直にもほどがあるぞ!


「あらあら、実はねえ、急に別の業者さんがお肉を卸してくれることになったんだよ。金額も、今までより安く」


 なにがなんだかわからなかった俺に食堂のおばちゃんが教えてくれた。


「え……? それなんていう業者?」


 貴族の圧力に負けない業者。そんなのいるの?


「——ホーネット商会。ボクのおじいちゃんがやってる商会だよ」


 とそこへやってきたのはリットだった。

 実は深夜まで起きていた俺だけど、リットは部屋にいなかった。一晩帰ってこなかった、ってことになる。どこに行っていたのか——その答えはすでにリットが口にしていた。


「お前、実家に行ってたのか? ていうか実家って、肉関係の商会だったのか?」

「食料関係の商会だね。頼み込んでお肉を出してもらった」

「で、でも結構有力な貴族が圧力掛けてんだろ? いいのかよ……」

「だいじょーぶだいじょーぶ、その辺はおじいちゃん強いからさ。それより食べよっか?」

「リット……」


 もし食肉問題が解決すれば週末にじっくり、偵察の目がないところで演習の時間を確保できる。

 それはすげーありがたい。

 だけど……ほんとうに大丈夫なのか、リット?

 もしかしてマテューは、リットが食肉を卸せることを知っていたから欲しがった……ってそんなわけはないか。

 リットのやってくれたことはありがたいしうれしいのに、なんだかリットが……どこか遠くに行ってしまうような、そんな変な気がした。

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